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照りつける日差し 頭に響く蝉の鳴き声
俺は夏が嫌いだ 嫌な思い出があるのは全て夏だ 夢を諦めたのも夏だった
そんな夏は俺に1つプレゼントをくれた
夢を捨てた俺に 忘れない夏が来た
ダム、ダム、ダム、キュッ!キュッ!
体育館に響くボールをつく音、靴底と床が擦れて鳴る甲高い音。
文月
俺はチームメイトを呼びパスを受ける。 そしてゴールリング目掛けてシュートを放つ。
ビーーーーー!! ボールが指から離れた瞬間、試合終了を告げるブザーが鳴り響く。
俺の手から離れたボールは弧を描いてゴールリングに向かっていく。 入った!何度も何度も練習してきたシュートだ軌道を見ただけで分かる、間違いなく入った!
ボールはカシュッ!と静かな音を立ててリングの中を通過した…。
文月
「「やったーーーー!!」」
試合終了ギリギリに逆転を決めたチームメイト全員は飛び上がり俺に抱き付いたり肩をバシバシと叩いてきた。
文月
ただ、痛み以上に嬉しかった! 俺達は勝ったんだ…!
母
文月
母
文月
高校2年の夏 俺はそれなりの強豪校のバスケ部で一年から試合に出場し 今ではエースと言われる様になっていた。
中学から始めたバスケだが俺は楽しくて楽しくてずっとバスケに夢中だった。
仲間とうまく連携できた時や自らのテクニックで相手を抜き去りシュートを決める感覚これが堪らなく大好きで、その腕を磨くために1人残って学校から叱られるぐらい遅くまで練習していた事だってある。
バスケが俺の生活の中心でバスケのない生活なんて考えたことなんてなかった…。
ただ、最悪の日は突然やってきた。
暑過ぎる夏も一段落する8月の後半頃。
俺達は次の大会に向け練習をしている。 体育館の中は外の太陽からの熱気と中にいる俺達の熱気で蒸し風呂の様になっていた。
文月
滴る汗を全く機に求めないでチーム内での練習試合に臨む俺達。 敵である先輩の隙をついてフリーになった俺は味方からパスを受け取りゴールへと目線をやった。
文月
だが、その前を抜いたはずの先輩が追いつき俺とゴール位の間を遮った。
しかし、この展開は予想通り。 俺はドリブルをしながら先輩にフェイントをかける、つられた先輩は少し足をもつれさせてバランスを崩す。
文月
先輩の向いている方向とは逆方向にぐるりと大きくターンをして先輩を抜いてゴールへと向かってシュートを放とうとした。
だが、ターンを決めシュートフォームに入った瞬間俺の腰に激痛が走った。
文月
激痛のあまり声にならない声を上げその場に倒れ込んでしまう。
突然の事態に試合をしていた皆んなは固まり、大慌てで顧問がこっちに駆けてきて様子を伺ってくるが。 俺はまともに返答ができずにいた。
そして痛みが少し治ったのを見て顧問の車で病院へと運び込まれた…。
検査の結果、医者から言い渡されたのは腰椎の椎間板ヘルニア。
しかも、手術すら一歩手前のかなりやばい状態だったそうだ…。
医者があれこれと怪我について解説をしてくれているが俺の耳にはほとんど入ってこなかった。
なぜなられその説明の前に言い渡された一言。
「一年は運動を控えて安静に。」
その一言は今の俺にとっては何よりも聴きなく無い一言だった。
一年間の運動の禁止、つまりは高校でもうバスケができないという事に他ならない。
生きる意味を奪われた様な気持ちになり、俺はどうしようもなく落ち込んで塞ぎこんでしまって夏休みが終わってからも数日間学校を休んでしまった。
そして、ある程度心が落ち着き学校に戻り俺を待っていたのはクラスメイトや部活の仲間達からの哀れむような視線…。
中には本気で心配し声をかけ続けてくれたヤツもいただろうが、俺の心は喪失感と絶望感ですさみきっていた。
当然の事だが部活を辞める事にしたが、顧問はマネージャーでもどうだと誘ってくれたが俺はその一言にキレてしまったりした。
俺がどうしようもなくバスケが好きで忘れられないのを知ってて、辞めて全く離れるのではなくせめて最後までみんなとと思って言ってくれたのだろうが。
俺には大好きなものを目の前にぶら下げられ涙を流しながら永遠に耐え続けろと言われてるような気分になってしまった…。
それからというもの、俺は毎日学校に行き授業が終わればすぐ家に帰るずっとその繰り返しを続け気付けば3年生になっていた。
やる事もないから俺は難関大学の受験を決めていてずっと勉強に励んでいた。
時折り部屋に置いていたバスケットボールを触っては真新しいボールのブツブツ感を確かめ椅子に座ったままシュートの真似をしてみたりした。
そんな事をしても虚しいだけなのは分かっている…。
そして、季節は過ぎ去り。 高校最後の秋、同学年のバスケ部の友人からのメッセージを受け取り俺は彼らの試合を見に行く事にした。
外は少し肌寒くなってきていたが試合会場の体育館中は歓声と選手熱気で暑く感じるほどだった。
目の前で行われている試合は一緒に辛い練習をしてきた仲間達…。 全員必死でプレーをしているが小さなミスや俺ならこうしていると思う場面に出くわすたびに下唇を噛む…。
そして、試合終了のブザーが鳴り。 高校でのバスケが本当に最後の時を迎えた…。
仲間達は涙を流して悔しがっている…。 観客席の保護者や応援に来ていたクラスメイト達も涙を流して彼らの健闘を称えている…。
俺がいたなら後一つ…。 いや、もしかしたらもっと上まで 行けたかもしれない…。
そんなモヤモヤを抱えたまま俺は家に帰った…。
家に帰ってからも俺の中のモヤモヤはしばらくは晴れる事はなかった…。
もちろん、そんな状態で勉強なんてしても内容は全く入ってこない。
そして、やってきた合格発表の日…。
難関大学の試験だったが手応えはあった。 しかし、結果は不合格だった…。
文月
怪我の事で俺がひどく落ち込んでいた様子を1番知っていた両親はその結果を責める事は無く。
もう一年だけ浪人して大学を目指してもいいと言ってくれていた。
その言葉に甘えて俺はそうする事にした。 しかし、大好きバスケから離れずっと勉強しかしてこなかった時間がバカみたいに思え本来なら今度こそ合格する事を目指して勉強しなければいけないのに俺は毎日無駄に遊び呆けてしまった。
来る日もくる日も俺は朝から出掛け一日中ゲーセンや漫画喫茶に通い本当にただの「ダメ人間」でしかなくなっていた。
自分の行く先も、将来も、何もかもが不透明なまま、 失った夢が心にずっと残っていた。
流石にそんな俺を見兼ねた父は俺を激しく叱責し一つ提案した。
文月
母
父
文月
この提案はありがたかった。 勉強をするかは別として街から離れ全然知らないところに行って、少し何も考えない時間が欲しかった。
そして俺はある程度の着替え一式と勉強道具を持って母親の故郷へと向かう事になった。
季節は7月後半、夏真っ盛りの頃。
俺は電車に揺られ小さい頃の記憶を呼び起こす。 父の仕事が忙しかったし俺の部活の練習もあったせいでなかなかいけない年が続き、最後に行ったのはいくつの時だったかも思い出せないぐらいだ。
文月
そして、ローカル線を乗り継ぎ幾つものトンネルを抜け山間の田舎にたどり着いた。
電車を降りた俺を迎えたのは太陽の日差しと耳が痛くなるほどの蝉時雨そして…。
弥生
隣のドアから同じタイミングで降りた少女の声。
文月
突然の挨拶に戸惑い自分の後ろを見る。
しかし、辺りを見回しても俺とその子しかいない事に気付いて俺に向けられた挨拶だと気付いた。
文月
その子は制服を着ており、高校生くらいだと思うが幾つなのかわからなかった。
彼女は俺からの返答を聞くと会釈をして改札に向かって歩いていってしまう。
後から聞いた話だとこの駅周辺に人が住む住宅街があり小さな村だから、大体の人が顔見知りで知らない人でもこの時期だと誰かの身内だろうから失礼のないように挨拶したとの事だ…。
これが俺と彼女の最初の出会い…。
今でもはっきりと思い出せる 俺の忘れられない夏の思い出の 始まりである…。
コメント
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これ以上の青春恋愛は見た事がないです! 出来れば、続きを………!()
やったぁ!大好きな青春だァ!← めちゃくちゃ好き!
めっちゃ青春だ〜!! 続き見たい〜!!