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病室のドアを開けると

滝津 七星

日内さん!聞いてくださいよ!

という滝津の言葉が飛んできた。

日内

どうした?

滝津 七星

蓮先輩

滝津 七星

家が無いって言うんです!

日内

うん、そうだよ

あっさりと認める日内に

滝津は開いた口が塞がらない。

滝津 七星

な、え…

日内

有名な話しだよ

日内

滝津さん知らなかったんだ

滝津 七星

知りませんよ!

滝津 七星

まさかずっと

滝津 七星

ネカフェを転々としているなんて

紫雲 かぎり

もういいだろ…

滝津 七星

よくないです!

滝津 七星

退院したらどこに行くつもりだったんですか?

紫雲 かぎり

……

日内

じゃあ、いい物件紹介しようか?

紫雲 かぎり

やな予感しかしない

日内

そんなこと言うなよ

日内

三嶋がいたマンションなんて

「「却下!!」」

二人が同時に言ったので、

日内は声を出して笑った。

日内

ははっ冗談はさておき

日内

お手頃な物件があるんだけど

日内

どうかな?

日内

二人で住むには

日内

十分な広さがある部屋なんだ

紫雲 かぎり

二人?

日内

そう、二人

日内はニヤリと笑い、

紫雲は滝津に視線を向けた。

滝津 七星

先輩と…一緒に…?

紫雲 かぎり

七星が嫌じゃなければ

滝津 七星

…て…

紫雲 かぎり

滝津 七星

…展開が…急すぎます…

そう言いながらも、

滝津は二つ返事で了承したのだった。

退院後、

日内が二人を連れてきたのは、

立派なタワーマンションだった。

滝津 七星

うわぁ……

紫雲 かぎり

本当にいいのか?

日内

いいよ、いいよ

日内

気にしないで自由に使って

言いながら、

日内は玄関を開ける。

日内

一目惚れして買ったんだけど

日内

全然使ってないんだよね

その言葉通り、

家具と家電は揃っていたが、

どれも新品のように綺麗だった。

日内

高速通信も可能だから

日内

”千里眼システム”も問題無く使えると思う

紫雲 かぎり

さすが金持ち

滝津 七星

そういえば

滝津 七星

三嶋先生がいたあのマンションの一室も

滝津 七星

買ってたんですよね?

日内

そうそう

日内

一つ借りがあるとはいえ

日内

いきなり”マンションの一室を買って欲しい”

日内

なんて言われるとは

日内

思ってもみなかったよ

”楽しかったから良いけど”

と付け加えて、

日内は楽しそうに笑う。

日内

紫雲はしばらく便利屋を休むんだろ?

滝津 七星

そうなんですか?

紫雲 かぎり

ずっとバタバタしていたからな

紫雲 かぎり

二ヶ月ぐらいは休もうと思ってる

日内

それがいい

紫雲 かぎり

でも、手伝ってほしいことがあれば

紫雲 かぎり

いつでも言ってくれ

日内

いやいや

日内

今はゆっくり休んでよ

日内

滝津さんの体調だって

日内

万全じゃないんだし

滝津 七星

そんなことありません!

滝津 七星

頭もすっきりしてますし

滝津 七星

前より体も軽いんですから

紫雲 かぎり

それでも薬の影響はまだ残ってるんだ

紫雲 かぎり

いつ体調を崩すか…

日内

ってことで

日内

こっちはナーガと二人で楽しくやるよ

紫雲 かぎり

日内がナーガと仲良くしてくれて助かるよ

日内

ナーガ曰く

日内

”オレが日内の世話をしてる”

日内

らしいけどね

その言葉を聞いて

二人は笑った。

日内

おっと!

日内

噂をすればナーガから連絡だ

紫雲 かぎり

なんて?

日内

次の三連休そっちに行くってさ

日内

あ、元解剖医の彼も来るらしい

紫雲 かぎり

そうか、来てくれるのか

紫雲 かぎり

みんなの都合が合えば

紫雲 かぎり

ご飯を食べに行ってもいいかもな

滝津 七星

いいですね!

滝津 七星

行きましょう!

日内

じゃ、お店探しとくよ

日内

ってことで

日内

オレは便利屋の仕事が入ってるから

日内

この辺でお暇しようかな

日内

じゃっ新生活楽しんでね!

日内

お二人さん!

そう言うと日内は、

嬉しそうな笑みを浮かべて

部屋を後にした。

紫雲 かぎり

……

滝津 七星

……

紫雲 かぎり

本当に体調は良いのか?

滝津 七星

え?あ、はい!

滝津 七星

今は不思議なぐらい体調が良くて

滝津 七星

先輩と一緒にいるからかもしれませんね!

紫雲 かぎり

…七星…

紫雲 かぎり

(そうは言っても)

紫雲 かぎり

(突然体調を崩す可能性もあるし……)

明るく喋る滝津の顔色は

確かに悪くは無かったが、

その言葉を素直に

受け止めることはできなかった。

紫雲 かぎり

(無理をしていないといいんだが…)

それだけが心配だった。

滝津 七星

無理はしてませんよ

紫雲 かぎり

え?

滝津 七星

私にどれだけの時間が残されているのか

滝津 七星

わかりませんけど

滝津 七星

わからないからこそ

滝津 七星

無理せず後悔しないように

滝津 七星

生きたいんです

滝津 七星

だから先輩

滝津 七星

ずっとそばにいてくださいね

紫雲 かぎり

ああ、もちろんだ

そう言って、

ふと思い出した。

紫雲 かぎり

七星…

紫雲 かぎり

あの約束、覚えているか?

滝津 七星

あの約束、ですか?

滝津は首を傾げる。

紫雲 かぎり

そう

紫雲 かぎり

一緒に生活を始めたら

紫雲 かぎり

ちゃんと名前で呼ぶっていう

滝津 七星

……

滝津 七星

…あ!

それは、

滝津があの事件に巻き込まれる前に

電話で交わした約束。

滝津 七星

お、覚えてたんですか?

紫雲 かぎり

当たり前だろ

紫雲 かぎり

……と、言いたいが

紫雲 かぎり

実は諦めていたんだ

滝津 七星

え…

紫雲 かぎり

もう一生叶わない約束だと…

滝津 七星

蓮先輩…

紫雲 かぎり

だから

紫雲 かぎり

気が向いたら

紫雲 かぎり

呼んでくれ……

紫雲は滝津に背を向け、

キッチンへと歩みを進めたので、

彼女は咄嗟に彼の腕を掴んだ。

滝津 七星

ま、待って!

紫雲 かぎり

ん?どうした?

滝津 七星

え…っと…

紫雲 かぎり

……?

滝津 七星

……れ…

紫雲 かぎり

れ?

滝津 七星

れ、蓮…

滝津 七星

…さん

そう言った滝津の顔が、

みるみる赤くなる。

紫雲 かぎり

…ふっ

滝津 七星

わ、笑わないでよ!

紫雲 かぎり

悪い悪い…

紫雲 かぎり

ま、それでもいいか

しかし、

そう言った紫雲の表情は

とても満足そうだった。

自分の幸せなど、

どうでもよくて、

ただひたすら

愛する人の幸せだけを

願っていた。

自分はずっと

救いの無い暗闇の中を

独り歩き続けるのだと

そう思っていた。

けれど、

多くの人の助けられ、

救われ、

紫雲の未来は

大きく変わった。

愛する人がそばにいて、

自分の名前を呼んでくれた。

たったそれだけで、

報われた気がした。

これから、

多くのことを背負って

生きていかなければならない。

それはけして、

平坦な道ではないけれど、

”二人”なら

きっと

大丈夫───。

『便利屋 紫雲かぎり』 END

便利屋・紫雲かぎり〜サクリファイスの花〜

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コメント

8

ユーザー

連載お疲れ様でした 素晴らしい作品をありがとうございました!どの作品も大好きです!

ユーザー
ユーザー

いろんな業を背負い続けてまで好きな人を守り続けた甲斐が実って良かった……! 連載お疲れ様でした!

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