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放課後 校舎の影が長く伸びて、風が少し冷たくなってきたころ 練習を早めに切り上げた純と琉真は、並んで校門を出た 部活帰りの汗の匂いと、夕方の土の匂いが混ざっている
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
七瀬琉真(ななせりゅうま)
琉真は呆れたように笑いながらも、少しだけ安堵した顔をしていた その横顔を見て、純は何か言いたくなって、でも言葉が出てこなかった ふと、風に乗ってボールを蹴る音が聞こえた 視線を向けると、校舎裏のフェンスの向こう ひとりでシュート練をしている白羽汐莉の姿が見えた 髪を後ろでざっくり結んで、ジャージ姿で走る ボールを追うたびに、真剣な横顔が夕陽に照らされていた
七瀬琉真(ななせりゅうま)
琉真がつぶやく
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
俺も笑って言ったが、その声は少し小さかった 視線の先にいる汐莉は、なんだか違って見えた いつも明るくて、騒がしくて、笑ってばっかりの彼女が―― この時間だけは、すごく遠い
その時背後から声がした
りん
軽い声と一緒に現れたのは、凛とそよ どっちもまだ体操服姿のまま、ペットボトルを振っている
有馬純(ありまじゅん)
りん
そよが心配そうに覗き込む
有馬純(ありまじゅん)
りん
凛が肩をすくめて笑う その瞬間、またボールの音 全員の視線がフェンスの向こうへ向いた
そよ
そよが驚いたように言うと、凛が小さくうなずく
りん
俺は言葉を失って、ただ見ていた ボールを蹴るたび、汐莉の表情が変わる 真剣で、まっすぐで、ちょっと切ないほど 気づけば琉真も、同じように見つめていた その横顔を見た瞬間―― 俺の胸が、ぎゅっと痛んだ
有馬純(ありまじゅん)
小さく言って、俺はフェンスから目をそらした
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
夕焼けに照らされたフェンスの向こう 汐莉の声と、ボールの跳ねる音だけが響いていた
2人で歩く道は、すっかりオレンジに染まっていた 風が少し冷たくなって、部活帰りの空気が胸の奥まで沁みる
七瀬琉真(ななせりゅうま)
隣を歩く琉真が、不意に口を開いた
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
俺は短く返す
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
七瀬琉真(ななせりゅうま)
笑いながら肩を軽くぶつけてくる その仕草が、なんかずるい いつも通りの琉真なのに―― さっきフェンス越しに汐莉を見つめてた横顔が、頭から離れない 純はうつむいて、足元の小石を蹴った 乾いた音が、アスファルトに響く
有馬純(ありまじゅん)
気づいたら、声が出ていた 琉真が少し驚いたように俺を見る
七瀬琉真(ななせりゅうま)
有馬純(ありまじゅん)
慌てて前を向く 視界の端で、夕日が滲んだ
七瀬琉真(ななせりゅうま)
俺は笑ってみせたけど、その笑顔は自分でもぎこちなかった しばらく無言が続く 夕焼けの中を、影がふたり分、並んで伸びていく
七瀬琉真(ななせりゅうま)
琉真がぽつりと呟いた
七瀬琉真(ななせりゅうま)
その声は優しくて、どこか遠い 俺は答えられなかった
有馬純(ありまじゅん)
胸の奥で呟いた声は、風に消えた そのあと、信号の青が点いて、琉真が歩き出す 純は一歩遅れて、同じ道を踏みしめた 並んでいるはずなのに、 なんだか――少しだけ、距離があった
ボールを蹴るたびに、靴底から響く音が胸に残る 土の匂いと、夕方の風 もうすぐ暗くなるのに、止まれなかった
白羽汐莉(しらはねゆうり)
何本目のシュートかも覚えてない でも止められたくなかった 自分の中のもやもやを、ボールごと蹴り飛ばすみたいに 昼間、職員室に呼ばれて笑ってたあの時から、 胸のどっかがずっとざわざわしてた
白羽汐莉(しらはねゆうり)
白羽汐莉(しらはねゆうり)
怒られてるのに笑ってる純を見たら、 なんか悔しくなって 理由もなく、ムキになってしまった ……そんな自分が嫌で、ここに来た もう暗くなってきたグラウンドの隅、 フェンスの向こうに動く影が見えた 3人 いや、4人? 琉真と純、それに凛とそよ
白羽汐莉(しらはねゆうり)
シュートの動きが止まる 胸が、ちょっとだけ跳ねた 琉真が何か言って笑ってた 純は、こっちを見てた 目が合った――気がした でもすぐに逸らされる
白羽汐莉(しらはねゆうり)
声に出してみたけど、 風が全部持っていった ボールをまた蹴る 強く、まっすぐに だけど心の奥では、別の想いが暴れてた
白羽汐莉(しらはねゆうり)
白羽汐莉(しらはねゆうり)
頬が熱くなる 汗のせいにした フェンスの向こう、 純が小さく何か言って、 背を向けて歩き出した 琉真が追いかける ふたりの影が並んで伸びていく その光景を見ながら、 あたしはボールを抱えた
白羽汐莉(しらはねゆうり)
声に出して、空を見上げる 暮れかけた空の色が、少しだけ滲んで見えた