明け方のコンビニの駐車場、ホウキを持って一人の男が掃除をしていた。
彼の名は松雪総多(まつゆきそうた)と言う、少し小太りで背が高い。
松雪は明け方に駐車場を掃除するのが好きだった。
この時だけは、世界中が自分一人になった気分になれるのだ。
松雪 総多
松雪 総多
松雪 総多
ゴミを触ると指先にじっとりとした重くて嫌な感覚
松雪 総多
松雪 総多
松雪 総多
朝になり、バイト終わりの時間
松雪 総多
交代の女は寝坊してオーナーに怒られていた
松雪 総多
バックヤードに入って松雪は着替える
松雪 総多
コンビニ店長
松雪は店の外で自転車に乗った
松雪 総多
松雪 総多
松雪 総多
松雪 総多
松雪 総多
自転車をこぎながら、憎たらしいほど青い空を見る
松雪 総多
そう、松雪はゲームが好きで、ゲームを作る人になりたかった
そこから、話を考える人になりたくて、何となく小説家や漫画家に憧れる日々
松雪 総多
自分が悪い事は分かっている。きっと今の人生は嫌なことから逃げ続けた結果だろう
無理してでも臨んだ業界に近い仕事へ就職する努力
思い出せない所まで行くとすれば、夏休みの宿題をやらなかった事とか、テストで良い点取ろうとしなかった事とか
嫌なことから逃げ続けた結果がこれだ
松雪 総多
松雪は家に着いてシャワーを浴びた
松雪 総多
取り出したのは漫画雑誌
松雪 総多
松雪 総多
人の作品を非難している時だけは、偉くなったような、神様になれた気がした
松雪 総多
そんな神様も、雑誌の後ろを見れば地獄に叩き落される
松雪 総多
作品一覧と、作者の年齢が書いてある
自分は31歳だが何ひとつなし得ていない
焦燥感と劣等感が天国から地獄へと急降下する片道切符になる
松雪 総多
何かを始めるに遅すぎることは無いだの、夢はいつか叶うだの、耳心地の良い言葉を偉人もミュージシャンも言っているが、それら全てが松雪には綺麗事に聞こえた
可能性の扉は1日また1日と閉じていく
松雪 総多
努力をするのも怖かった。努力をしたら自分の限界を知ってしまうから
自分はちっぽけで無力でどうしようもない人間だと思い知ってしまうから
それならば、生まれと環境のせいにすれば、悲劇の天才を気取っていられる
それこそ、死ぬまで
松雪 総多
松雪 総多
松雪はデザインナイフを喉元に持ってきた
このまま、ブスッと刺す勇気があれば、こんな人生から解放されるのだが
松雪 総多
怖くてできなかった
ネットで『自殺 楽』と検索をかける
一番上に出てくる役に立たないと評判な自殺防止の為の電話番号が鬱陶しい
松雪 総多
その時、机の上に置いていたデザインナイフが落ちて太ももに刺さった
松雪 総多
傷は深くないが、慌ててティッシュを傷に当てた
さっきまで死のうとしていた人間とは思えない、みっともない生への執着
松雪 総多
自分は何のために生きているんだろうか、死ぬことも生きる気力もない
次に寝たら目が覚めないでほしい
隕石でも落ちて地球が消えてほしい
松雪 総多
横になっていた松雪は、いつの間にか寝てしまった