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翌日夕方

カタヅケ屋本舗事務所

渋谷大

ただいま帰りましたー

久留間悟

帰りましたぁ……

ポスト

お、帰ったか作業員!

渋谷大

誰が作業員だ

久留間悟

今お前の軽口に付き合う気分じゃないの

久留間悟

あっち行ってて

ポスト

なんだよ、つまんね

本田芙蓉

よぉ帰った、二人とも

本田芙蓉

はるばるの出張、お疲れさんじゃったな

本田芙蓉

くーちゃんはどうしたんじゃ

渋谷大

んー、忘れ物しちゃって

本田芙蓉

忘れ物?

久留間悟

トイレの花子さんに情報もらったんだけど

久留間悟

報酬に鬼ごっこするの忘れてて……

久留間悟

花ちゃん怒るとすっげー顔変わるじゃん……

久留間悟

次に会ったら絶対首しめられる……

久留間悟

もう学校の女子トイレ行けない……

渋谷大

その言い方、誤解を招くぞ

渋谷大

あくまでも仕事だからな

渋谷大

それ以外だと逮捕されるからな

本田芙蓉

……まぁ、その辺は自分でなんとかおし

本田芙蓉

渋やんも長時間の運転、ご苦労じゃったな

本田芙蓉

本来ならばすぐさま労ってやりたいが

本田芙蓉

お客人がおられる以上、そうもいくまい

そう言って卓上に置かれたのは

風呂敷に包まれたままの一葉の絵画

そしてその上にあぐらをかくようにして

画霊が仏頂面を見せていた。

画霊

客人とはよくも言う

画霊

そのメガネ面がわしをヒトに害する存在と言ったように

画霊

もはや祓う対象だろうに

本田芙蓉

ほっほっ

本田芙蓉

これはまたずいぶんとヘソを曲げておられる

本田芙蓉

――くーちゃん

久留間悟

あ、はい

本田芙蓉

そんなことを言うたんか

久留間悟

えっと、言ったというか

久留間悟

このままじゃ祓うしかないよーって

久留間悟

そう言っただけで

本田芙蓉

しかしこの御仁はあくまでも

本田芙蓉

子どもらを不憫に思って避難させたと

本田芙蓉

今朝のうちに報告だけ受けておったが?

渋谷大

です

渋谷大

やること多いしストレス溜めまくってるから

渋谷大

涼しいところで発散させてやりたかったって

本田芙蓉

で、あれば

本田芙蓉

くーちゃんの言いようは少々軽率じゃな

久留間悟

……すみません

本田芙蓉

画霊殿、申し訳ない

本田芙蓉

なんにせよ、わしらは貴殿を罰する立場にない

本田芙蓉

あるべき場所へカタヅケるだけじゃ

本田芙蓉

少々失礼があったようじゃが

本田芙蓉

ご容赦いただけまいか

画霊

……ふん

画霊

多少は礼儀を知る人間がいたか

画霊

しかし、纏め役がそう言うのであれば許そう

久留間悟

(腹立つなコイツ)

渋谷大

(あれ、俺も礼儀知らずって言われた)

本田芙蓉

ではまず、貴殿について伺おう

本田芙蓉

藤野継秋氏の絵画に憑いた画霊殿

本田芙蓉

愚察いたしたところ……

本田芙蓉

偉大な評価を得る以前の藤野氏が

本田芙蓉

絵の具に練り込みすぎた怨念

本田芙蓉

羨望、嫉妬、あせり、ジレンマ

本田芙蓉

そういった物の集合体でおられるのかな?

画霊

ほう

画霊

……皺だらけのまぶたで、よく見る

本田芙蓉

ほっほっ

本田芙蓉

他人からの評価に苦悩し、息苦しさにあえぎ

本田芙蓉

己の才能を疑問視しながら描いた苦悶の滝

本田芙蓉

後年、藤野氏がそう振り返っておられる

画霊

確かに

画霊

今や私を生んだはずのモノは昇華され

画霊

藤野継秋は巨匠と言われるまでになったらしい

画霊

わしはもう、取り残された過去の遺物よ

画霊

だからこそ、あの子どもらの苦しさを

画霊

取り除いてやろうと思ったまでのこと

本田芙蓉

確かに昨今の子どもらは、背負い込む物が多い

本田芙蓉

不満を言いながらも、義務感に足踏みする姿に

本田芙蓉

助力の手を差し伸べたくなるのも道理じゃろう

本田芙蓉

しかし所有者である小学校は既に所有を拒否し

本田芙蓉

作者である藤野氏も今や故人

本田芙蓉

さて、どうしたものか

画霊

……

画霊

別に、焼き捨てればよい

ポスト

スネたおっさんだなー

ポスト

投げやりになってると、マジで焼かれちゃうぞー

画霊

ッ!?

画霊

なんじゃ、この面妖な本は!

ポスト

絵に憑いた妖怪に言われたかねぇよ!

ポスト

過去も未来も書き記すミラクルブック

ポスト

ポスト様だっ!

渋谷大

ミラクルブックって自分で言うか

久留間悟

名乗りのセンスないなー

本田芙蓉

これこれ、ポスト

本田芙蓉

お客人を驚かせてはいかんよ

ポスト

ボスは甘いっ!

ポスト

こいつ、自分がめっちゃ高価な絵だって

ポスト

分かってて言ってんの!

ポスト

どんなに面倒くさいこと言っても

ポスト

人間が自分と依代を焼かないことで

ポスト

自分の価値を再認識してんの!

ポスト

ただのカマッテちゃん!

ポスト

優しくしたら付け上がるだけ!

ポスト

こんな奴、俺みたいな目に遭わせりゃいいんだ!

ポスト

カップ麺の重しにされたり

ポスト

近くで霧吹きシュッシュされたり

ポスト

天日干しにされろ!

渋谷大

俺らの方を見て言うなよー

久留間悟

文句言っても、冬は加湿器入れるからな

ポスト

オタクはマジで心を持ってない!!

本田芙蓉

これ3人とも

本田芙蓉

元気なのはよいが――

本田芙蓉

話の途中じゃということを忘れておらんかな

本田の言葉に、全員の背筋が伸びる。

口元だけは緩やかな笑みを浮かべていたが

その眼光は騒がしさを戒めるものだった。

ポスト

……すみません

渋谷大

黙ります

久留間悟

続けてください

本田芙蓉

うんうん、分かればよい

本田芙蓉

それにポストの指摘も一理ある

本田芙蓉

――画霊殿

本田芙蓉

なにゆえそんなにご自身を卑下なさる

本田芙蓉

ご自身の価値は、すでにご存じのはずじゃ

画霊

ふん

画霊

取引もされぬ価値になんの意味がある

画霊

賞賛もされず、流し見られ

画霊

子どもらを見守りながら埃にまみれるだけ

画霊

それのなにが……!

本田芙蓉

平穏に価値はないと?

本田芙蓉

賞賛され、ライトの中に身を置き

本田芙蓉

常に遠巻きに眺められる

本田芙蓉

そんなものが、お望みか

本田芙蓉

……いささか、哀しいものですな

本田芙蓉

金銭をかけられることが価値ではない

本田芙蓉

ふとした折に心癒やされるもの

本田芙蓉

それが絵画じゃと、わしは思う

返事はない。

しかしそれを責めるでもなく、本田は目尻を下げた。

本田芙蓉

しかし考えはそれぞれある

本田芙蓉

どちらにせよこの絵の処遇は

本田芙蓉

早急に決めねばならんのぉ

本田芙蓉

くーちゃん、案はあるかの

久留間悟

妥当な線なら博物館

久留間悟

ただ、今は状況が悪い

久留間悟

子ども達が帰ってきた代わりに絵が紛失

久留間悟

警察側の落としどころとしては、

久留間悟

子どもと引き換えに絵を要求した犯人がいた

久留間悟

ってことにしたいでしょ

久留間悟

すぐさま人目につくのは問題だ

渋谷大

そんならうちの事務所に置くか?

渋谷大

どうせ保管してるいわく付き品は多いんだし

本田芙蓉

それではこの御仁の意向が叶わんよ

本田芙蓉

賞賛も受けられつつ、一般の目に触れぬ場所

本田芙蓉

――渋やん

渋谷大

はいな

本田芙蓉

色摩くんに連絡を取ってくれんかな

久留間悟

げっ

渋谷大

タケんところでいいの?

本田芙蓉

うむ

本田芙蓉

彼の所なら特殊な事情を理解してくれようし

本田芙蓉

金銭に不自由ない暮らし向きの者が多く来る

本田芙蓉

審美眼のある者なら賞賛もしよう

本田芙蓉

カタヅケ先としては適任じゃ

久留間悟

……俺、オススメしないなぁ

久留間悟

この画霊、偉そうでムカつくけどさぁ

久留間悟

あいつの所だとトラウマ作りそう

画霊

……ん? なんと?

ポスト

誰?

ポスト

ボス、俺そいつ知らない

本田芙蓉

ほっほっ

本田芙蓉

そのうち会える案件も来るじゃろう

本田芙蓉

くーちゃんも心配しすぎじゃ

本田芙蓉

連絡して、了承がもらえれば翌日に運搬

本田芙蓉

渋やん、任せてもよいかな

渋谷大

ん、了解っす

渋谷大

いちおう業務上の連絡だし、メールのがいいかな

久留間悟

文面さえちゃんとしてりゃ、どっちでもいいんじゃない

渋谷大

はいよー

画霊

なんだ、わしはどうなる

本田芙蓉

今晩はここにお泊まりいただくことになるだけじゃ

本田芙蓉

真に、焼き捨てられる覚悟がおありならば

本田芙蓉

ほかのなにも恐れる必要はございますまい

にこやかな本田の言葉に少しだけ愕然とした顔を見せた画霊は

それきり物も言わず、するりと絵の中へと戻っていった。

それが未来を不安視したものと知りつつ、

しわがれた手はポンと手を打った。

本田芙蓉

さあ、ではこの件も一区切り

本田芙蓉

明日は後始末が山積みじゃろう

本田芙蓉

定時になった事じゃし、皆、退社じゃ

事務所の留守を任されているポストを除いて

帰宅準備が進められていく。

明かりの消えた部屋の中、中央に置かれた絵を見返り

久留間は短く溜め息を吐いた。

久留間悟

……確かにカタヅケ先としちゃあ適任なんだろうけど

久留間悟

じっちゃんも荒療治するなぁ

久留間悟

俺なら絶対やだよ、あんなとこ

久留間悟

同族が食われるところを見せられ続けりゃ

久留間悟

アンタも子どもの愚痴になんて共鳴せず

久留間悟

小学校で飾られてりゃ良かったと思うようになるよ

渋谷大

悟ー、帰っぞー

久留間悟

ほいほーい

久留間悟

そんじゃな、画霊

久留間悟

客がアンタをオーダーしないことを祈ってるよ

言い捨て、事務所の鍵をかける。

車が遠ざかっていく音を聞きながら、

絵は確かに、むせび泣くように震えた。

カタヅケ屋霊異記【完結】

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コメント

17

ユーザー
ユーザー

助けてあげたいという気持ちが多すぎてしまったのかも知れないですよね… 教室を冷やすとかは普通に優しいなって思うんですけどね… 今回も面白かったです!

ユーザー

なんだかんだ言いながら心配してあげる久留間様♡♡カッコ良い✨

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