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夜。窓の外では雨が細く降っていた。

柔らかなベッドの上、世一はシーツの上で小さく丸まり、誠志郎の指先が彼の髪をゆっくりと梳いていた。

誠志郎

ねえ、世一。もう誰にも触れられたくない?

世一

……うん

誠志郎

じゃあ、誰にも見せたらダメね?

世一はゆっくり頷く。その頷きだけで誠志郎は満足そうに笑みを浮かべた。

誠志郎

俺だけの世一やから

誠志郎の声は穏やかで優しい。でも、その裏にあるものは、本人すら気づかぬまま深く深く沈んでいた。

そうしてふたりは“ルール”を交わす。

──外では手を繋がない。 ──他人の前では話さない。 ──他の誰にも笑いかけない。 ──匂いを残さない。 ──どんなことがあっても、ふたりだけの秘密にする。

世一はそのルールを守ることで、安心を得る。守られることで、自分の壊れた心が繋がっている気がした。

翌朝。

学校に凪だけが現れ、教室内に少しざわめきが走る。誰も何も言わないが、“あの噂”はもう半分真実になっていた。

廻がちらっと視線を送る。口元に笑みを浮かべながら、声もかけずにそっと視線を落とした。

そしてその昼休み。

教室の片隅で玲王が廻と何やら話していた。

玲王

……やっぱ、おかしい、誠志郎。世一が来なくなってから、急に冷たくなった。あいつの家に行ったとき、世一の香水がソファに残ってた

廻は無表情で頷く

世一が…なにか、隠してる気がする。最近妙に……変わった。壊れてる、って感じ

玲王は唇を噛んだ。

玲王

なあ……一回、世一に会ってみないか?

いいよ。誘い出す?

玲王

……嘘を使う

玲王の目に、黒い影が浮かんだ。

その日の放課後。世一のスマホにメッセージが届いた。

玲王

誠志郎くん、保健室で倒れたって。俺も今行くところ

世一の心臓が跳ね上がる。

すぐに制服を羽織り、震える足で玄関を飛び出した。

誠志郎が倒れた

その思いだけで、身体は勝手に動いた。

けれど、保健室の扉を開けた瞬間、そこに誠志郎の姿はなかった。代わりにいたのは、玲王。

玲王

やっと来た、世一

世一

……っ、え……なんで……

玲王

どうして逃げる?俺、まだ何も終わってないのに

玲王の笑みは、もはや優しさを装うものではなかった。

玲王

誠志郎とは別れてない。今でも、俺のこと好きだよ。そう言ってた。世一はただ、都合よく甘えてるだけだろ?

言葉のひとつひとつが、鋭い刃になって世一を裂いていく。

世一

……やめて……やめて……っ!

玲王

誠志郎のために身を引いてよ。あいつ、無理してるよ。お前のこと、哀れに思ってるだけ

それは、潔にとって“いちばん言われたくない言葉”だった。

ぐらりと世界が揺れた。

世一

あ、あ、あ……っ……

息ができない。酸素が薄い。心臓が暴れてる。

玲王は口角を上げて、世一に近づこうとする。が、扉が乱暴に開かれた。

誠志郎

そこまでにしろ

現れたのは誠志郎だった。息を切らせ、冷たい目で玲王を睨みつけていた

誠志郎

……お前、今すぐ離れろ

玲王

凪、でも──

玲王が戸惑っている間に、誠志郎は世一のもとへ駆け寄った。

ぐしゃりと抱きしめる。震える潔の背中を、静かに、優しく、なで続けた。

誠志郎

ごめん、間に合わんくて。もう大丈夫。俺が、いるから

あの夜に作った“ふたりのルール”は、こうして、ひとつの嘘で強化された。

そして、もう一歩。

ふたりの世界は、外界から孤立していく。

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今日もお兄ちゃんはいい子でした

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