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〜木之下 side〜
木之下姫乃
彼方
笑みを崩さず、一ノ瀬に先手を振る
彼方
黙ったままカードを見つめる一ノ瀬
1枚目で迷っていたって、 何も意味はないのに
木之下姫乃
けど……この勝負、 確実にわたくしが勝つ
だって……
わたくし、この場にある伏せカード、 半分の52枚が、何のカードか 分かっているんだもの
このトランプは、一見流通している うちの既製品と変わりない
けれど、実はわたくしが私的に作った ラインで生産している、別のトランプ
製品とは、たった一つだけ 違うところがある
それは、「一定以上の温度で、カード の裏に模様が浮き上がる」こと
鞄にはカイロを仕込んであるから、 こうして並べた後、冷めるまでの 2、3分、浮き上がった模様は 残り続ける
細かい変化だし、すぐに消えるから バレることはない
木之下姫乃
つまり、わたくしが負けるはずがない ということ
「ダブル」神経衰弱にしたのは、 ゲームの難易度を上げて、 相手のラッキーパンチを防ぐため
カードの内容が分かれば、ポーカー でもババ抜きでも、まず勝てる
覚えるのは苦労したけれど、 その分リターンは大きかったわ
木之下姫乃
木之下姫乃
彼方
最初に開かれたカードは、ハートの4
そして、次は……
彼方
木之下姫乃
けれど、それもいつまで続くのかしら
彼方
ふと、一ノ瀬が手を止めて 話しかけてきた
彼方
木之下姫乃
それはみんなが知っている。 けれど、それが何なの？
彼方
彼方
先程の焦り顔とは裏腹に、 いつの間にかすっかり元の調子に 戻っている一ノ瀬
彼方
木之下姫乃
相手の意図が分からず、 つい声を荒げそうになってしまう
木之下姫乃
彼方
木之下姫乃
わたくしは、絶対に勝てる自信が あるからこの額にした
あの時の負け分を取り返す為と、 こいつから全てを奪い去る為
もちろん、負けて6000万を支払う つもりはさらさらない
まず、わたくしにそれ程の金額を 動かせる力もないし、お金自体も、 そう易々と動かせる金額ではない
さっきは見栄を張ったけれど、 前回はお父様に無理を言って、 やっとどうにかしてもらった
だからここで負けてしまったら、 会社にとっては赤字。 取り返しのつかないことになる
でもそれは、わざわざ一ノ瀬が 気にすることではないはず
木之下姫乃
木之下姫乃
彼方
嫌な予感がして、 冷や汗が一粒頰を伝った
彼方
とうとうにこりと笑って、 そう言い放った一ノ瀬
何を言っている……？ わたくしの実家……？
木之下姫乃
木之下姫乃
イカサマに、気づいている……！？
木之下姫乃
たしかに、トイメーカー自ら イカサマカードを作っているなんて、 バレれば会社が傾くほどの不祥事
木之下姫乃
木之下姫乃
彼方
一瞬だけ、視線が交わる
木之下姫乃
あの時と同じ。 重圧感のある、痛い視線
思わず、ゾクリと身体が震えた
木之下姫乃
それをすぐに回収して、 普通のデックとすり替える……
木之下姫乃
そう考えている間に、 一ノ瀬が次々とカードをめくっていく
木之下姫乃
木之下姫乃
木之下姫乃
一定数めくり終えて、 ぴたりと止まった一ノ瀬
彼方
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