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目的の街に着くと、少し寂しそうな表情の蜜璃が野点傘のある長椅子に座り、三色団子を傍らに置いて俯いていた。
奈那
時透無一郎
声を聞き、蜜璃は顔を上げてぱっと笑顔を見せる。
その表情は普段と比べて暗いものだったが、 それでも綺麗な笑顔だ。
甘露寺蜜璃
時透無一郎
奈那
ぱあっと明るくなる蜜璃の表情。
いつも程の元気はないが、その理由は誰もが分かりきっているため触れるものは居ない。
甘露寺蜜璃
「私に任せて!」と言わんばかりに歩き出す蜜璃に、無一郎と奈那は着いていく。
無一郎はぼーっと雲の形や着物の模様の名前について"なんだっけ"と首を傾げながら歩いていた。
甘味処に着けば真っ先に桜餅を大量に頼む蜜璃。
無一郎と奈那は悩んだ挙句、ふたりでよもぎ餅を頼むことにした
無一郎は適当に奈那に合わせただけであるが。
美しい盛り付けの桜餅とよもぎ餅が運ばれてくる。 蜜璃がこの店を気に入る理由が分かった。
恋柱の蜜璃と、その継子である奈那がいるのだ。必然的に話題は恋の話になる。
蜜璃の口から止まることなく語られる小芭内の話。
無一郎と奈那からすると想像もできないほど優しい小芭内の話に創り話を疑った。
しかし、どうやら事実らしい。誰が聞いても確実に両想いだ。
蜜璃と小芭内どちらの恋愛相談にも乗っていた奈那は勿論、無一郎ですらふたりが両想いであることを知っていたようだが。
話題は奈那に向けられる。蜜璃はまさに今隣に座っている男が奈那の想い人であることを知っているのに。
奈那
甘露寺蜜璃
思わず無一郎の方へと視線を向ける。心臓が煩い。
小さな口によもぎ餅を含む彼の姿が愛おしい。
髪を邪魔そうに耳にかける姿が愛おしい。
心も身体ももう傷付いてほしくないと思う程に深く彼に惚れ込んでいる。
あわよくば、彼の幸せになった人生の中に自分を映してほしい。
ええと……と話す内容を考えている間によもぎ餅を食べ終わった無一郎は他にすることがないからか、変わらずの無表情で話を聞く姿勢をとっている。
今話せば流石に勘付かれるだろう。話すような無一郎との甘い思い出はつい先程のことしかないのだから。
結局深くは話すことなく、なんとか誤魔化して乗り切った。
無一郎は想い人などと言っても過去にあった出来事を覚えておらず、その感情すらよく分からない様子だったため、収穫はなかった。
好みの女性も"わからない"とのことだ。
難しいわね、と言わんばかりに蜜璃は奈那をちらりと見た。
その後は杏寿郎との思い出話や尊敬する柱は誰かなど、雑談を交わした。
深く沈んでいた三人の心も話すにつれて少しだけ前向きになれたようだ。
蜜璃が桜餅を食べ終え、待たせた事への謝罪を述べて席を立った時
普段と変わらない顔で当然と言わんばかりに三人分の金額を払う無一郎。
大量に食べた蜜璃と奢られるつもりのなかった奈那は思わず声を上げる。
十四歳の若き少年に小銭を押し付けようとする同じく十四歳の妹と十九歳の姉。
この姉妹、あの霞柱を混乱させている。
鬼殺隊の誰かがこの場に居れば、瞬く間に噂になっていたことだろう。
時透無一郎
時透無一郎
時透無一郎
甘露寺蜜璃
甘露寺蜜璃
奈那
奈那はこれ以上の幸せはないと言わんばかりに目に涙を溜めて深々とお辞儀をする。
甘露寺蜜璃
時透無一郎
奈那
無一郎は普段通りの無表情で奈那をじっと見つめた後、蜜璃にぺこりと礼をして去っていった。
甘露寺蜜璃
この調子よーーっ!! と頬を染めて奈那の肩を叩く。
奈那は先程までの余韻と、泣き止むまでそばにいてくれたあたたかい記憶で吊り上がる口角を抑えることで必死だ。
奈那
甘味処での思い出から四ヶ月程経った頃。
その間奈那は小芭内の恋愛相談に乗ったり、蜜璃の好きそうなものを教えたり、一部の柱や隊士に無一郎のことでからかわれたりの毎日だった。
小芭内には無一郎の屋敷で奈那たちを置いて逃げたことへの文句も言え、しっかりと心のこもっていない平謝りをさせることが出来たが天元にはまだ会えていない。
とにかく、任務以外ではこのように平和な日々を送っていた。
そんな中でも当然任務へ行けば怪我はするもので、小さな切り傷を負った奈那は"念の為"と蜜璃に言われ蝶屋敷で治療を受けていた。
すると外からあまりにも聞き覚えのあるド派手な声が。
奈那は思う。
奈那
霞柱様の屋敷で裏切った音と蛇あのふたりにはしっかりと謝罪していただかなければ。
この人が大きな声で笑い話にしたせいで一般隊士にすら恋事情が広まり噂されることになったのだ。
あとは貴方に文句を言えば数ヶ月越しの恨みは晴れる
頬を膨らませながら声の方へ向かう。
するとなんということだ。天元が戦えない隊士の女の子を担いで無理矢理任務に連れていこうとしているではないか。
そしてそれに反対している同期の炭治郎、善逸。そして…あの猪の男
竈門炭治郎
きよ
なほ
奈那も思わず声をあげる。
奈那
宇髄天元
宇髄天元
宇髄天元
宇髄天元
神崎アオイ
落とされたアオイが悲鳴をあげる。炭治郎が受け止めた。
奈那
宇髄天元
我妻善逸
遊郭と聞いた途端に声を張り上げる善逸。
炭治郎も"どうなんですか人として"と反対している。
宇髄天元
奈那
???
声を聞いた瞬間、時が止まる。どうしてここに。
奈那は顔が急激に火照るのを感じる。
炭治郎と善逸はそれぞれ幸せそうな奈那を感じ取った。
善逸はかつて求婚した女性からの音に大きな衝撃を受け、膝から崩れ落ちそうになっているが。
嘴平伊之助
???
嘴平伊之助
宇髄天元
時透無一郎
宇髄天元
天元は潜入捜査のため、女の隊員を遊郭に売って嫁を探すつもりだったと言う。
奈那の恋事情を知っている天元はこちらを向き、ニィッと笑みを浮かべるとあっかりと奈那を解放した。
任務とはいえ奈那自身に任せられたものではない。あまり気乗りしないのは事実だ。
炭治郎達と、何故か私が任務に行くことに反対する無一郎のおかげで助かった。
何の気まぐれか、あの無一郎が自分の身を案じてくれた。あの霞柱が。
やはり根は優しいのか。それとも奈那だったからか。 それは本人ですら分からない。誰も知ることができない。
宇髄天元
時透無一郎
コメント
2件
え好きです続き待ってます