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『ターゲット、朝のキッチンにて。』
静かな朝。 まだ薄明るい光がカーテン越しに差し込んでいる。
なおきりがベッドから身を起こすと、ふわりと香ばしい香りが鼻をかすめた。
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キッチンの方から、小さく食器が当たる音。 静かに立ち上がったなおきりが向かうとーー
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彼女はなおきりのシャツをゆるく羽織って、トースターの前に立っていた。 シャツの袖は指先まで覆って、肩のあたりは少しずり落ち気味。 その下はーー たぶん、何も着ていない。
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えとは振り返って、にこりと笑った。 けれどどこか、照れ隠しのように視線は泳いでいて。
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なおきりは少し黙ってえとを見つめた後、 ゆっくりと後ろから腕を回す。
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えとの肩がピクリと揺れる
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首筋に唇を近づけ、そっと押し当てる。 えとは小さく肩をすくめた。
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囁くように言った彼女の声が震えていた。 なおきりは微笑んで、そのまま彼女の顎に指をかける。
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えとは、顔を赤くしながらコクリと頷いた。
次の瞬間、二人の唇がそっと重なった。 トースターのチン、という音も気にならないくらい、朝の空気は、 ふたりだけの時間に染まっていた。
それは“彼女”と夜を過ごした次の日のことだった。 朝から妙な空気が漂っていた。
なおきりの通信機に届いたのは、機密度の高い暗号メール。
《機密任務:分類E-a》 対象:同居中の女スパイ•Eto 任務:行動監視および感情の切除 上層部より特命
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目を伏せ、なおきりは小さく息を吐いた。 その指先がわずかに震えている。
一方、えとも別のルートでーー自分に新しい任務が下されたことを知っていた。
「相手スパイ•Naokiriとの接触を控え、関係の構築を一時保留せよ」
要するに、「仲良くするな」ってことだ。 誰よりも冷静なはずの彼らが、二人同時に“関係にブレーキ”を命じられた夜。 なのにーーその夜は、奇妙なほど静かで、甘かった。
雨音がする。 夜のリビング。 えとは黙ってソファに座っていた。なおきりの姿を、そっと横目で追って。
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ぽつりと。
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目を伏せるえとの声は、いつになく弱くて。 それが、なおきりの胸をーー何か柔らかく、締め付けた。
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近づいてきた彼の気配。 えとの前髪をそっとかき上げて、目をのぞき込む。
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そのまま、えとの頬に唇が触れた。 一瞬のキス。けれどすぐにまた重なってーー
今夜は、止まらなかった。
唇が、何度も。 名前も呼ばず、ただ確かめるみたいに。 触れ合いの中に、答えを探すみたいに。
けれどふたりとも、どこか怯えていた。
「……命令がなければ、僕は君にこうしてたのかな」 「それとも……命令があったから、こうなったのかな」
誰にも届かない疑問だけが、雨の音といっしょに夜の部屋に落ちていった。
ラストシーンーー
ふたりが眠ったベッドの枕元で、 通信機が無機質な光を放っていた。
《新任務通告》 ※いずれかを排除する可能性あり。監視続行せよ。
彼らの“関係”は、もう恋か任務かの選択じゃ済まないーー 命がけの賭けへと、踏み込もうとしていた。
『ターゲット、決別の時』
任務か、恋か。 その答えが「選べない」ならーー 自分ごと、壊すしかなかった。
同じ家にいても、まるで見えない。 えとは黙ったまま、なおきりを避けるようになった。 なおきりはなにも聞かずに、黙って彼女を見送る。 いつもより、玄関の靴が遠く感じる。 同じスプーンでカレーをすくう音が、うるさすぎた。
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えとが告げた“別れ”に、なおきりはたった一言、
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それだけだった。
本当は、止めたかった。 でも言えば、彼女の命が危うくなる。 そんな未来が透けて見えていた。
夜。 それぞれの部屋。 壁越しに、お互いの息遣いだけが聴こえる。
声をかけたら、すべて崩れる気がして。 声をかけなきゃ、もう戻れない気がして。 それでも。
「ーーこれで、よかったんだよね」
そう言い聞かせて、どちらもベッドに背を向けて、眠れない夜を過ごした。
暗号通信が一つ、表示される。 《ターゲットNaokiri、またはEtoの抹消指示を検討中》 ※感情による命令違反の疑い ※互いに執着の兆候あり
この世界は、愛した瞬間、“命取り”になる。
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その声は、決して冷たくなかった。 けれど、その一言が、何よりも鋭く刺さった。
部屋の中。引っ越し準備も終えたえとの姿。 もう、なおきりが手を伸ばせる場所に彼女はいなかった。
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静かな瞳。 でも震えてる指先。 なおきりは、それを見逃さなかった。
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えとが目を見開いた。 なおきりは一歩、近づいた。
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その瞬間、えとの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
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震える声とともに、えとはなおきりに抱きついた。 感情が決壊する。
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ふたりの心が、ようやく重なる。
でも、次の瞬間ーー
「ピピッ」
警告音。 ドアに仕掛けたセンサーが反応した。 モニターが光り、通信が入る。
《対象のふたりに感情的接触の確認》 《なおきり=離反の可能性有》 《えと=監視対象へ移行》
その文字列を見て、なおきりが静かに息を吐く。
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えとを抱きしめながら、囁く。
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光弾とともに、えとの本気の戦闘が始まった。
研究施設地下•隔離エリア
「このまま投降すれば、君の処分は免除される」 「君ひとりの裏切りじゃないと証明できればーー」
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なおきりの声は静かだった。 目を伏せたまま、手には拘束具。
でも、心は折れていない。 守りたかったものがある。 それが、彼の全てだった。
そのときーー
「警報!警報!未登録IDが施設内に侵入!」 「警戒レベルAに移行!」
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なおきりが、静かに目を伏せて笑った。
通気口から侵入中央管制室へ
「顔認証、ハッキング完了」 「ロック解除まで……3.2.1ーー」
爆風。 煙が上がる中、黒いスーツのえとが堂々と姿を現す。
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モニター室の敵スパイたちが一斉に武器を構える。 でもえとは一歩も引かない。
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えとの本気の戦闘が始まった。
次回予告 第16話「ターゲット、共犯者として」 脱出を図るふたり。 手を繋ぎ、走るその背中に、追手の銃口が迫る。 でも、離さない。 ふたりはもう、 組織じゃなく、 命令じゃなく、 “自分の気持ち”で動くーー。 「一緒に、最後までいこう」 「ああ。ーー共犯者として」
コメント
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私の心を奪った男 かぁ ー 、 なんかめちゃ言い方好き、🫶🏻 et彡の本気は強いからね ー ! !❤️🔥 続き楽しみにしてるね ー !