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あの日見た桜は
この上なく煌めいていた
隣には小柄な男の子が居て
私はその子の名前を知らない
けれど
寂しげに咲き乱れた桜が
何よりも綺麗な事くらいは
言葉を交わさずとも通じ合った
柑奈
私は桜の花びらを見つめながら訊く
柑奈
柑奈
〇〇
男の子はすっとぼけて答える
柑奈
柑奈
〇〇
〇〇
〇〇
男の子は自慢気に嘘を吐く
柑奈
柑奈
私は執拗に名前を求めると
〇〇
と男の子は儚気に微笑んだ
〇〇
〇〇
〇〇
柑奈
本当に「何それ」と思った
柑奈
柑奈
〇〇
〇〇
柑奈
柑奈
柑奈
「待ってカンナ......」
喧嘩したくはなかった
名前を知らない君と別れるのが
本当に辛かったから
つい君に当たってしまったんだ
出来ることなら
もう一度君に逢って
仲直りしたい
そして次こそは
ちゃんと名前を訊き出したい
そう思った
ーーーーーそうして
君と別れてから六度目の春がきた
柑奈
ゾウのすべり台
リスのブランコ
サルのうんてい
そして一本の大きな桜の木
まだ小さい蕾のままでいる
ーー六年前と同じ景色だ
柑奈
柑奈
柑奈
柑奈
私は桜の木に話し掛けた
柑奈
柑奈
柑奈
柑奈
柑奈
桜の木がそよぐ
柑奈
柑奈
柑奈
柑奈
智也
柑奈
突然の声に心臓が飛び跳ねた
智也
智也
柑奈
いつの間にか
私の後ろに立っていたのは
名無しくんに似た小柄な男の子だった
智也
智也
男の子は申し訳なさそうに私を見つめる
智也
智也
智也
一瞬、想いが通じたのだと思った
けれど
その喜びはとうに哀しみに変わった
智也
智也
智也
智也
智也
智也君に彼の全てを訊いた
彼の中学校や部活
人間関係
そして
彼が智也君の義兄だということ
彼は幼少期に児童養護施設で過ごしていたこと
彼は五年前に亡くなっているということ
私は心臓の鼓動が早くなるのを感じた
どうしてあの時謝れなかったのだろう
どうして彼と喧嘩してしまったのだろう
私はどうしようもない後悔と絶望を感じた
智也
智也
智也
智也君に言われるがまま
私は無言でその手紙を読み始めた
ーーーーー
カンナへ
もし君がこの手紙を読んでいるならば
恐らく僕は僕としてではなく
他の形でこの世界に留まっているだろう
これは消滅というよりも再生に近い
だから、悲しい顔はしないで欲しい
僕は君の楽しんでいる顔が好きなんだ
別に悲しんでいないと強がっても良い
でも君がこの手紙を読んでいるという事は
少なくとも君は僕に
まだ少しの興味があるのではと
僕はそう考えているよ
そうなると
僕は君の質問に答える義務があるね
実は気付いていたかもしれないけれど
僕の本当の名前はクルーソウじゃないんだ
クルーソウは本の主人公で
ただ一人無人島で闘った英雄の名前だ
僕は幼少期に
この世界を無人島だと思っていた
この土地で、この世界で僕は
クルーソウの様に強く生きたいと願った
でも君と出会ってから
世界が変わった
僕は僕なんだと
そう思うことが出来た
だから君にはとても感謝しているよ
僕がクルーソウじゃないことを
君が教えてくれたんだ
僕の本当の名前は
春樹
クルーソウは君と会う前の名残で
ちょっとカッコいいからって
ずっと使っていたんだ
そうだ
名前を教えなかった理由はね
僕の名前を君に捧げるべきではないと
そう思ったからだよ
君には君の素敵な名前がある
だから君は
君の名前を大切にして欲しい
その代わりといってはなんだけど
僕の名前は
君と見た桜に捧げようと思うんだ
これで僕の居場所も見つかった
カンナ
本当の僕を見つけてくれてありがとう
春樹
ーーーーー
智也
柑奈
柑奈
柑奈
柑奈
柑奈
私の言葉に合わせる様に
桜の木が小さな風に揺らいだ