コメント
10件
利広さん! 本当に本当に素敵なお話でした!! 兄妹恋愛というものを亡くなった妹とそれが見える兄との恋愛。というように、表せる方法を私にはとても考えられませんでした…! 読んでいる間にとても心惹かれ、感動するものがありました!表現もとてもお上手ですね!この度は、小説大会にご参加いただき本当にありがとうございました!素敵なお話をみることが出来て良かったです!!
ユキト
ぼくの1日は ルカコにおはようを言うことから はじまる
カーテンを開け 部屋の中に光をとり入れ
姿見のように大きな 鏡の前に立つと
ルカコはそこにいる
ルカコ
ぼくはルカコに微笑みかけると 両手のひらを鏡に当てた
するとルカコも 同じように手のひらを出し
ぼくのそれと重ねた
ルカコ
鏡越しに手を合わせると
鏡はつめたい
それがじんわりと ぼくの体温で
暖まるだけだ
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
手のひらを離し
ぼくは鏡の前を離れた
ルカコはにこにこしながら 手を振っていた
そもそもぼくとルカコは なぜこんな奇っ怪な
兄妹なのか
まずはそれを 話しておかなくてはならない
ぼくが産まれた時
母からはもう1人 ぼくと双子の赤ちゃんが産まれたのだ
すぐに名前が与えられた
ぼくはユキト もう1人はルカコ
でも産まれて3日後
突然ルカコは心停止した
唐突に訪れた死を 父と母は悼んだ
そんな話を 物心ついたころ話されて
ぼくには本来妹がいるのだと 思うようになった
それから少し時が流れ
自分の部屋にしつらえられた 大きな鏡の中に
ルカコが見えるようになったのだ
なぜそんなことが起こるのか
いま14歳のぼくにはわからない ただ
この小さな幸せが ずっと続いていけばいいと思った
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ぼくはルカコと顔をあわせて 笑いあった
ルカコ
ユキト
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコはすこし頬を赤らめて
こう言った
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ぼくの顔も かあっと熱を帯びた
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコはこんなことを話した
いまルカコのいる世界は
生と死の狭間にある 暗い場所だということ
ルカコは そこにある霊魂であるということ
なにかの繋がりがある人が その場所に現れた時
魂はすべて浄化され 昇天して分解し
元どおりには ならなくなること
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコは真摯なまなざしを ぼくに向けていた
ルカコ
ユキト
ルカコ
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコは両手を鏡についていた
ぼくもそれに倣い 手を重ね合わせる
ルカコの顔が近づいてくる
ぼくも顔を近づける
目を閉じる
ルカコ
鏡面のひんやりとした感触に 唇が触れている
それなのに その奥になにかあたたかな
ルカコの温もりを感じている そんな気がした
重なり合った
ふたりの荒い呼吸
長く短い時間が いつまでもそうしていたいと思うほど
痛々しく過ぎた
やがてふたりは唇を離し 元の状態にもどった
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
その夜寝る前に 将来のことを考えた
ぼくもルカコもこれから どんどん大人に近づいて
ぼくは成人して仕事をして 30歳になり40歳になり
やがて年老いて 静かに息を引き取る
そのときまで いまの状態のまま
いられるだろうか
ルカコを好きな気持ちに 変わりはない
でもなんだか不安だ
いつか思いがけず引き離される そんな日が来るかもしれないと
まだ14歳のぼくは ぼんやり考えた
嫌だ
いつまでも
ふたりで一緒に過ごすときが 続いてほしい
でもいまは
ちゃんとふたりで生きているんだ
それだけは確かだ
だから好きという気持ちを
たくさん これでもかってくらい
ルカコにあげないといけない
とにかく それだけは確かだ
ユキト
カーテンを開く
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ルカコ
ユキト
ルカコ
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ルカコ
ルカコ
担任
クラスの全員が 一斉に問題用紙を開く
帰ったらまたルカコと キスできる
そう自分に言い聞かせ
筆圧の強い文字を 走るように書きつける
そのときだった
問題用紙がふるえた
かと思うと 座っている椅子が左右に揺れだした
いたるところで悲鳴が上がる
ぼくは机の下に 咄嗟に潜り込んだ
ユキト
1分くらい経っただろうか
揺れはおさまった
担任
幸いにも 教室に破損はなく
臨時の町内放送によれば 余震の心配はないという
だがテストは打ち切りとなり
全員下校することになった
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコの声はない
ユキト
ユキト
ルカコがうつっていた 大きな鏡は
鏡面が下になる形で 床に伏せられてあった
さっきの地震で倒れたのだろう
ユキト
ユキト
ユキト
立て直した鏡には 大きなヒビが入っていた
まるで鏡を裂くように
そしてそこに写っていたのは ぼく自身の姿だった
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
そこに写るのは 狼狽するぼくの姿だけだった
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ぼくはよろよろと 鏡から遠のき
ベッドにへたりこんだ
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
いろんな可能性を考えた
あらぬ考えも 頭をよぎったのだが
ぼくはとにかくにもルカコに会いたい その一心だった
会う方法 会う方法を見つけないと
そう考えながら
意識はまどろみゆく
ユキト
ルカコ
ユキト
ルカコ
ユキト
ルカコ
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
ユキト
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ユキト
滝のような汗をかいて 飛び起きた
悪い夢を見ていたようだった
ユキト
部屋には相変わらず
ぼくの写った 鏡があるだけだった
ひび割れた鏡に もうそれ以外写るものが
無いのだとしたら
ユキト
ぼくはある決意をかため 制服に着替えた
試験開始から 20分が過ぎたころだった
ぼくは「それ」を 実行するため
右手を上げた
担任
ユキト
担任
ユキト
ぼくは静かに教室を出ていった
さようならだ
もうここに戻ることはない
皆テスト中だから 誰もここにくることはない
4階分の高さがあるから おそらく成功するだろう
ぼくは たとえ一瞬でもいいから
愛する人に会いたいのだ
もしかしたら ずっと一緒にいる方法だって
見つかるかもしれないからだ
ぼくはフェンスを乗り越え
上体を前に倒した
警官
警官
警官
母
母
母
警官
母
母
母
母
警官
母
母
母
母
警官
警官
警官
母
母
母
母
母
母
母
警官
警官
母
母
母
母
母
母
警官
真っ白な世界で目覚めた
死後の世界、なのだろうか
ユキト
ユキト
ユキト
ぼくは目を閉じる この世界は白すぎて
ずっと見ていると 変になりそうだ
しゃがみこむ 少しずつ身体が溶けていくような
不思議な感覚があった
そのとき 耳元で
「お兄ちゃん」と 囁く声があった
ルカコ
顔を上げるとそこには ルカコの姿があった
ユキト
ぼくたちは 昔からそうしていたように
手のひらをゆっくり 重ね合わせた
鏡ではない ルカコの体温は
熱すぎるくらいだった
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコはとめどなく溢れる涙を 拭いもせず
ぼくをぎゅっといだき
背中に手を回して爪を立てた
そして咽び泣きながら ぼくの耳元で大声を上げた
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ルカコ
ぼくはルカコの両肩を持ち
涙でボロボロになった顔を見た
ユキト
ユキト
ぼくはルカコの後ろ髪に ゆっくり両手を差し入れ
ぼくとルカコとの距離を ゼロにした
どんなものより熱い感触を 唇は味わっていた
どのくらい そうしていたのかは分からないが
ぼくはゆっくり、ゆっくりと
ルカコと唇を重ねたまま
意識が溶けるのを感じていた
もし生まれ変わることがあったら
どれだけ障害があってもいい どれだけ遠い存在でもいい
次もまたルカコに会いたい
そんな贅沢をこい願いながら
命の幕はおだやかに下りてゆく
でもきっと大丈夫だと思った
つぎはどんなルカコに 出会えるだろうか
神様はきっと 素敵な出逢いを用意してくれるはずだ
それじゃあ ここでこの物語は終わりだ
さようなら、ルカコ
さようなら――
Gemini(ジェミニ)
[名詞]双子
また、中世のラテン語では 「二重の」の意味
Fin.
最後までお読みくださり ありがとうございます
またこのノベルを 執筆するにあたり
お題と大会の場を与えてくださった みーちゃん様に謝意を表します