テヒョニヒョンの言葉1つで、 僕はなんだって頑張れるような気がした。
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グクの母
JUNGKOOK
学校のテストが返ってきて、 お母さんに渡した。
国語、理科、社会のテストは無事に満点が取れたけど、 算数の問題を3問も間違えてしまった。
お母さんは、 94点と書かれたテストをぐしゃぐしゃに丸めて、 僕のほうに投げつけた。
頭に丸められたテストが当たる。
紙だから、 それほど痛くはない。
けれど、 心臓は張り裂けそうなほど痛かった。
グクの母
お母さんはそう言い捨てると、 キッチンへと行ってしまった。
投げ捨てられたテストを拾って、 こっそりと家を出る。
きっと今日はテヒョニヒョンはいない。
5年生は6時間授業だし、 帰ってきていないはずだ。
それを知っていて、 ピアノルームへと逃げ込んだ。
誰もいない部屋で、 涙が止まらなくなる。
いらないって… 言われちゃった。
JUNGKOOK
もっともっと頑張らないと、 お母さんに怒られちゃう。
また、 いらないって言われなくない…。
ゴシゴシと涙で濡れる頬を擦っていると、 背後から、 重たい扉が開く音が聞こえた。
V
大好きな声が聞こえて、 驚いて振り返る。
JUNGKOOK
そこには、 息を切らしてランドセルを背負ったままのテヒョニヒョンの姿があった。
JUNGKOOK
V
V
涙が止まらなくなって、 止められなくって。
どうして分かったんですか?とか、 どうしてきてくれたんですか?とか、 聞きたいことはいっぱいあるのに…、 頭の中でそれを理解することができなかった。
V
テヒョニヒョンは、 僕の頭を優しく撫でながらそう聞いてくれる。
その優しさがうれしくて、 僕なんかに…お母さんにいらない子って言われる、 お父さんには相手にしてもらえない…
そんな僕なんかに、 テヒョニヒョンだけが『優しさ』を向けてくれる。
JUNGKOOK
口から、 ポロリポロリと情けない声が漏れた。
V
テヒョニヒョンの言葉に、 僕は素直に頷くことができない。
だって、 お母さんはグクのことバカだって、 バカな子だって言ったんだ。
ぐちゃぐちゃになったテストを、 テヒョニヒョンの前に出す。
テヒョニヒョンは一瞬不思議そうな顔を浮かべたあと、 その用紙を見つめて表情を明るくさせた。
V
JUNGKOOK
V
V
再び僕を撫でる手は、 ひどく暖かい。
涙は止まるどころか勢いを増して、 僕の頬を濡らした。
テヒョニヒョンだけが。
テヒョニヒョンだけがグクに優しい。
テヒョニヒョンの隣だけが、 僕の安らげる場所だった。
JUNGKOOK
V
V
そんなことを言いながら、 テヒョニヒョンは僕をギュッと抱きしめる。
僕はテヒョニヒョンの服が濡れるのもお構いなしに、 泣きやまない赤子のように泣いた。
JUNGKOOK
目の前に広がる、 テヒョニヒョンの笑顔。
僕は子供ながらに、 この人が大好きだと感じずにはいられなかった。
僕に初めて、 無償の優しさをくれた人だった。
ある日、 あれはお母さんがピアノのコンクールで地方に行っていた日のことだった。
もう日が暮れた、 夜に染った時間。
僕はテヒョニヒョンに会いたくなって、 家をこっそり抜け出し、 いつものようにピアノルームへ向かおうと思っていた。
ゆっくり部屋の扉を開けて、 玄関に向かおうとした時。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
お父さんの部屋から、 女の人の声が聞こえた。
お母さん、 もう帰ってきてたの?
「おかえりなさい」を言おうと思って、 ゆっくりとお父さんの部屋の扉を開ける。
けれど、 お母さんの姿はなく…。
代わりに、 お父さんと…なぜか、 テヒョニヒョンのママがいた。
そして2人は、 唇を重ね合っていた。
JUNGKOOK
お父さんと… テヒョニヒョンのママが?
どうして?
2人はドアが開いたことにも気づいていなかったようで、 僕は気づかれないようそっと扉を閉める。
今の… なんだったんだろう。
JUNGKOOK
そして僕は、 バレないように家を出て、 目的の部屋に向かった。
V
JUNGKOOK
やった…!
ピアノルームには、 ジュースを片手に漫画を読んでいるテヒョニヒョンの姿があった。
テヒョニヒョンがいたことに、 事前と笑みがこぼれる。
V
JUNGKOOK
JUNGKOOK
僕はそう返事をして、 プロコフィエフの前奏曲、 テヒョニヒョンが1番好きだと言った曲を奏でる。
今日は指の調子がいいなぁ… 勝手に動いてるみたい。
目をつむりながら、 僕もこの曲のメロディーに酔う。
……あ。
ふと、 さっきの出来事を思い出して、 鍵盤を叩く指を止めた。
不思議そうな顔で、 ストローを加えたまま僕を見るテヒョニヒョンと視線を交わし、 口を開く。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
V
V
JUNGKOOK
JUNGKOOK
僕の言葉に、 テヒョニヒョンは目を大きく見開いた。
そして、 その顔が悲痛に歪む。
V
こんなに険しい表情のテヒョニヒョンを、 今まで見たことはなかった。
そう思うほど、 何かに、 酷く焦っているテヒョニヒョン。
数秒悩みこんだあと、 僕の肩を掴み、 瞳をじっと見つめてきた。
V
V
JUNGKOOK
V
V
僕と、 テヒョニヒョンの、 秘密?
2人だけの?
僕は、 秘密にする理由はわからなかったけど、 それでも、 テヒョニヒョンと2人だけの秘密… というのが嬉しくて、
小指を握りあったのだ。
今になって思う。
…どうしてこの時、 この小指を握ってしまったんだろう…と。
この時、 テヒョニヒョンではなく他の人に話していたら…。
…僕たちには、 別の未来があったのかな。
そして、 悪夢の時はやってくる。
V
その日は、 ピアノのレッスンが終わって、 お母さんが夜ご飯の買い出しに行ったので、 居残りをしてから1人家へ帰ってきた。
すると、 テヒョニヒョンが、 テヒョニヒョンのママの服を掴んでそう叫んでいたのが見えた。
JUNGKOOK
テヒョンの母
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V
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顔を真っ青にして、 テヒョニヒョンのママにしがみつくテヒョニヒョン。
けれど、 テヒョニヒョンのママはそんなテヒョニヒョンを振り払い、 マンションの廊下の向こうへと消えていった。
その先に、 よく知る人物が見える。
JUNGKOOK
あれは、 紛れもなくお父さんの姿だった。
僕は何があったのかわからなくて、 とりあえずテヒョニヒョンのもとへと駆け寄る。
JUNGKOOK
JUNGKOOK
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JUNGKOOK
僕のほうを見たテヒョニヒョンの表情はまるで、 この世の終わりを告げられたような悲痛なものだった。
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駆け落ち?
JUNGKOOK
当時小学4年生だった僕には、 わからない単語だった。
テヒョニヒョンは顔をしかめ、 何かを考えるように頭を抱えた。
そして、 ひらめいたかのように顔を上げて、 僕の両肩を掴む。
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V
JUNGKOOK
テヒョニヒョン、 そんなに慌ててどうしたんだろう。
駆け落ち、 って言うのは、 そんなに大変なことなの?
お父さんとテヒョニヒョンのママは、 どこに行ったんだろうか?
すると、 背後から、 カツンカツンと、 ヒールを鳴らす足音が聞こえた。
V
振り返れば、 そこにはスーパーの袋を持ったお母さんの姿が。
グクの母
V
V
テヒョニヒョンは、 何かを勘づいたように笑顔を消して目を見開いた。
グクの母
そう言った、 低い、 お母さんの声が廊下に響く。
V
今にも消えそうな、 テヒョニヒョンの声。
お母さんはみるみる表情を変えて、 眉の端を吊り上げた。
どこからどう見てもこれは間違いなく、 怒っている時の顔。
グクの母
グクの母
グクの母
V
グクの母
なに? なに…?
いったい、 何が起こっているの?
グクの母
V
グクの母
グクの母
グクの母
わからない、 わからない。
JUNGKOOK
すると、 スーパーの袋を投げるように置いて、 先程きた道を走っていくお母さん。
コメント
19件
はい。泣いたの6回目ー
好きすぎてやばい
♥️♥️