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刑事

…はぁ

目の前に、刑事。

クシャクシャになった髪とだらしなくシワのついたYシャツから

相当やつれているように見える

…なんか、すんません

刑事

…さっきからずっとそれしか言ってねえじゃねえかよ

刑事

謝る暇あんならとっとと喋ってくれ

何についてですか?

刑事

はぁ?

刑事

っち…

刑事

岡本湊ぉ!

刑事

刑事

お前は何故…

刑事

18歳で、同級生の倉石優子を殺した!?

刑事

なんで!

刑事

被害者の心臓を剥き出しにしてナイフで刺したんだ!!

刑事

答えろ!

刑事

答えろよっ!!

……たいから…っ

何故だか目から涙が出てくる

刑事

…なんだ?

…もっと人を殺したいです、俺

でも、この時の俺は 人生で1番の笑顔だった気がする

俺だって別に殺人鬼になりたかったわけじゃない

ドンッ

優子

っぐぁっ…!

ガンッ

優子

っうぇっ……!

あははは!

きったねーの!

優子

うっ…うぇっ…

吐いてんじゃねーよ!

ドカッ

優子

っがっ…!

(…今日もやってる…)

(毎日毎日…辛いだろうに)

(なんで優子さんは学校に来てるんだろう…)

(なんで明るく居れるんだろう…)

優子

っぁっ…!

うーわ
コイツ泣いてるよ

面倒くさ!帰ろー

優子

優子

……!!

…あ、いや

優子

──ごめん!

優子

気に…しないで!

そういって優子さんは足早に教室を後にした

…えっ…

ゆ、優子さんっ!

あの時、なんで優子さんを 追いかけたのか 自分でもよく分からない

普段、あまり話さない子に 声をかけた自分に驚いた

優子

…え…?

え…、あ、えっと…

大丈夫?

優子

……

優子

優子

大丈夫だよ…!

(また笑顔…)

そっか…!

優子

優子

あの…もし良かったら、一緒に帰らない?

優子

方面、同じだったよね

あ、優子さんがいいなら…

優子

やった!

優子

ありがとう!

(気まづい…)

(さっきから…沈黙続きじゃないか…)

学校から10分しかかからない家までの帰り道でさえ 長く感じた

(なんか…話題を……!)

優子

──湊くんのさ

優子

髪の毛って黒いよね

……

え?

優子

あ、ごめん!

優子

悪い意味とかじゃないよ!

あ、大丈夫だよ

気にしてないから…

優子

いや、ほんとに違うの!

優子

…いいなって思って

…良い?

優子

優子

…なんで私がいつも笑ってるか知ってる?

…え?

優子

私の名前、優しい子って書くじゃん

優子

「優しい子でいてね」
「どんな事があっても明るくいてね」

優子

そういう思いが込められてるんだよって、この間お母さんから聞いたんだ

優子

だから、名前の期待に応えられるように生きてきた

優子

──そのうちさ

優子

「嫌なことをされても明るくいれば大丈夫」

優子

って思うようになっちゃって

優子

ずっと笑顔でいることにしてた

…そう、なんだ

…俺は、優子さんの笑顔は天使みたいで素敵だと思うよ

優子

…!

優子

ありがと…笑

優子

優子

でももう、疲れちゃった

…?

優子

天使も楽じゃないよ?

優子

いつもにこにこしてたら、気持ち悪いって言われて

優子

騙されて、舐められて…

優子

天使って、辛いの…

優子

この世に【天使】は要らないの

…優子さん?

彼女の目から 1粒の涙が流れた

偽りの無い、 悲しみに充ちた粒。

優子

…だからさ、私
心が黒い人になりたい

優子

…心が黒くなったら
こんな辛い思いをしなくて済む気がして…

優子

心臓の血が、酸素に触れると
「サンカ」で黒くなるの

優子

そしたら、
何もかも…楽になれる

え…?

優子

優子

…ほ、本にそう書いてあったんだ!

優子

ご、ごめんね!
冗談だから!

優子

気にしないでね!
じゃあ!

気持ちを誤魔化すように 彼女は去ってゆく

(…冗談、か)

翌日、 体育倉庫に連れていかれる 優子さんの姿を見た

その顔は、絶望的だった

(ここから…中が見える…)

────

────

優子

──────!!

(くそっ…もう少し近くで…)

ガンッ!!

(しまった…)

(足を滑らせて…つい…!)

あれぇ?

なんで湊がここにいんの?

もしかして覗き見?

変態じゃーん~!

──お前ら

ゆ、優子さんを虐めるのはやめろよ

は?

第2軍のくせに何様?

今からこの女の髪の毛切ってやんだよ

邪魔しないでくれない?

…こんなの、卑怯だ

なんで優子さんが虐められなきゃならないんだよ!

あー、うるさいうるさい

何?
もしかして…好きとか?!

うわ!

え?彼氏?w

ちがっ、そういうんじゃ…

優子

優子

…湊…くん…

優子さん?!

優子

大丈夫だから…私大丈夫…だからっ…

優子さんの目は涙で真っ赤になっていた

でも

……なんでこんな時まで、笑ってるんだよ…

彼女は笑顔を絶やさない

その理由が、おぞましくも 分からない

何イチャイチャしてんのー?

そんなに好きなら、あんたがやりなよー

ほーい、はさみっ

そんなこと、できるわけ…

あーっそ

なら、私らがやるから出てって?

…何するかわからないけど

あはははは!

性格悪すぎ~!

…貸せよ

わっ!

まじキモイわ、コイツ!
さっき私の手触った!

はぁ?

セクハラじゃん!詫びろ!

優子

湊くん、もうやめて…!

優子

私の事はいいから──

うるせぇよ!

パンッ!

……!
優子さん!!

優子

うっ……

あっ、そーだ

湊、コイツ殺っちゃってよ

優子

……?!

どうせあんたも生きてる意味ないし

コイツ殺ったら後追いでもなんでも自由にやればいいからさ~笑

何言ってんだよ……

え?
だったらあんたが代わりに死ぬ?

……っ

早く決めなよ~

ねー、どっちにすんの?
え?え?!

……俺が代わりに死ぬ

さっすがぁ!
男前~

じゃあ、2人で仲良くイチャイチャしてから

死んでくださーい!

あんたがやる自殺に関わると面倒だから私ら帰るわ

あ、でも体育倉庫に鍵かけて帰るから安心してねぇ!

は?!

まじあんたやっぱり性格悪すぎ!笑

死ぬのは俺1人なんだろ?!

優子さんを解放──

バタンッ!

くそっ…!

なんか、巻き込んじゃってごめん…

お、俺が死んだら直ぐに助けを呼んで外に出るんだ

絶対に逃げて──

優子

優子

…殺して

…え?

優子

優子

私を殺して

優子

もう辛いの!

優子

苦しいの!

優子

天使、やめたいの…!

彼女の顔を見て 昨日の会話がよぎった

「天使って、辛いの」

「天使はこの世に要らないの」

優子

【天使】はこの世に要らないの…!

……!

優子

ねえ…湊くん…

優子

私を殺してよ…

優子

私の心、黒くしてよ…

彼女が必死に声を絞り出して 俺にねだる

…そんなこと…

優子

私、湊くんにだったら殺されてもいい

…!

優子

虐められてた私に声を掛けてくれた湊くんは

優子

本当の【天使】だよ

……っ

たとえ天使だったとしても、
優子さんを殺すなんて出来ない──

優子

…お願いだよ…

優子

私を殺して…

優子

私の心を黒くして欲しい

優子

もう辛い…苦しいの…

優子

…【悪魔】になりたい…

……!!

【悪魔】になりたい

優子さんはそれ程までに追い込められていたんだ

殺されることを望むくらい 苦しんでもがいていた

救えなかった

その思いに 胸をえぐられる

救えないのなら…

…っわか…った…

楽にして…あげ…る…

からっ!
…もう、そんな顔しないでくれ…

優子

…!

優子

…そうだよね、笑顔でいないと

助けられなくて、ごめん…!

優子

本物の【悪魔】になれるなら、
私はそれ以外望まないよ…

優子

──刺して

優子さんは笑顔だった

あぁ、神様は不公平だ

俺はナイフを持つ両手に 力を込めて、優子さんの息の根 を止めにゆく

優子

湊くん…

優子

──ありがとう

あ゛ぁっ…!

最期に優子さんが流した涙は 悪魔に相応しくない、儚くも 美しい涙だった

…もっと人を殺したいです、俺

刑事

はあっ!?

刑事

てめぇ!自分が何したか分かってんのか!?

……

…はいっ…

もっともっと人を殺して

沢山の人を…救いたいです…っ

もっともっと沢山の人を 【悪魔】にしたい

苦しんでいる【天使達】のために、俺は生きる

「本当の悪魔になりたかったな…」

…END…

この作品はいかがでしたか?

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コメント

15

ユーザー

天使を救いたい、か。学校という閉ざされた空間で人間関係に悩むと、ツラいですね。 転校も、簡単には出来ないし。切ない話ですね。

ユーザー

可哀想

ユーザー

笑ってばかり.... この理由が分かり納得しました....  でも、本物の悪魔になりたい。という主人公....もう心が黒くなってしまったのでは内のでしょうか....?

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