昼下がりの静かな住宅街。 住民たちは家の中に、あるいは街の外へ引き払っていた。
住宅街という空間は、その時、彼らの物になっていた。
八岐 若桜(やまた わかさ)
頭部と手足を伸ばし、何となく人型を形成したような肉塊たち。それらから飛ばされた波動を避けるため、一人の少女が素軽い身のこなしで飛び回っていた。
八岐 若桜(やまた わかさ)
彼女は確信を持って笑みを浮かべた。 背後にある肉塊に向き直ると手を突き出す。
たちまちの内に手から橙色の光が放たれ、それが縄のように伸びて肉塊を巻き込んだ。
うごめいていた肉塊は動きを止めたのだった。
神功皇后
神功皇后
上空から降り立ち、コツコツと歩みを進めた女性。 刀を振るうと一瞬で肉塊を消し払った。
八岐 若桜(やまた わかさ)
神功皇后
手を叩く若桜に神功皇后は優しく微笑む。
若桜は張り切って地を踏み締め、拳を握る。
八岐 若桜(やまた わかさ)
そのそばにて。上背のある神功皇后は優しい眼差しを降らせていた。
かつて、若桜は神功皇后のように悪霊どもと戦う分柱体だった。
しかし若桜はある任務に向かった後、海辺で倒れているのが見つかる。救助したところ深刻な記憶喪失が判明し、力の使い方も途絶えていた。
何度も復旧を試みたが目処は立たなかった。
個体の記憶だけでなく、本来本柱とリンクしているはずの記憶も失われていた。そこで本体の記憶を送信したが、彼女の魂は受け取らなかった。 それは本柱とのリンクが一部切れたということを意味する。
本柱と分柱体はネットワークを構成し、記憶を共有してきた。
リンクが一部だけ切れることは前例がなく、その原因も不明だ。 事故か、悪霊悪鬼の仕業か……
悪霊悪鬼の仕業であれば、ネットワークを介してデータベースを侵略される恐れもある。
このままリンクを続ければ彼女の深刻なエラーが全体に影響するかもしれない、と本柱や守護の女神総出で処分されかけた。
しかし面倒を見てくれていた先輩を見捨てておけない。また彼女が記憶を失ったのは自分の不始末があったから、と感じた今の神功皇后が処分の中止を嘆願した。
本柱とのリンクは出来ないかもしれない、ですが個体の記憶は彼女の中である程度バックアップされているはずです。 きっと悪霊たちに手を出されないよう奥底に。
外からの干渉では復旧できないだけで、時間が経つにつれ思い出すかもしれません。 私が責任を持って保護し、もしも害を及ぼすようであれば処分しますから、経過を見てください。
そこまで言うのならと、見切りをつけるのは守護の女神たちの判断であることを条件に、存続を許可された。
そして保護下に置かれると、分注体としては若桜の方が先に作られたが、神功皇后を姉様と慕うようになる。 神功皇后が先輩にそう言われて戸惑っても、私を守ってくださったのだから姉様です、と意見が変わることはなかった。
このように完全に記憶を失った若桜だが、現在は時を操る力を持ち、少しの時間であれば止める事ができる。
神功皇后
八岐 若桜(やまた わかさ)
八岐 若桜(やまた わかさ)
若桜はテスト期間中の自習前に任務に当たっていた。
学校へ向かう坂道を元気よく駆け上がり、神功皇后はその無邪気な姿を見送っていた。
神功皇后
いつの間にかそばに来ていた骸骨武者に対し、怪しく思いながらも、何かしてきた訳でもないので努めて冷静に声をかける。
平清盛
骸骨武者はヘラヘラと笑っている。
平清盛
神功皇后
骸骨武者、 平清盛の軽口にあっさりと返した。
神功皇后の仕事は魂のデータベースの管理であり、うつしよに転生して秩序を乱す存在を排除することである。
平清盛は隙あらば転生しようとする悪霊で、神功皇后は幾度も対立し、いつの間にかお目付役のようになっていた。
神功皇后は当初、平清盛が転生すると逐一つついてきたが、長い年月を過ごす中で被害がないならすぐさま攻撃しない、という程々の距離感を掴んだ。
神功皇后
平清盛
神功皇后
神功皇后が呆れると、平清盛はケラケラと笑いながら姿を消した。
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コンテストふぁいとです!!🫶🏻🔥