ママ
ママ
ママ
ママ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
ママ
ママ
ママ
ママ
ママ
ママ
学校が終わって、帰り道。
ソシャゲのイベントでも叩きながら家に帰ろうとスマホを開くと、ママからそんなメッセージが来ていた。
すみれ
うちのママは、いわゆるバリキャリだ。
エンタメ系の会社に勤めていて、朝はゆっくりだけど、夜はすごく遅くまで働いている。
私はそんなママをとても尊敬していて、よくママの会社まで、泊まり込み用の着替えを持って行ってあげたり、忘れ物を届けてあげたりするのだけど…
すみれ
すみれ
すみれ
私は自宅へ向かう電車を降りて、ママの会社へと向かう地下鉄へと乗り換えた。
ママの会社は、都心にある大きなビルの中に入っている。
広くて綺麗なエントランスは学生の自分にはなんだか不釣り合いな感じがして、 いつも少しだけ緊張する。
すみれ
すみれ
ビルのエレベーターホールの前にはセキュリティゲートがあって、部外者は勝手に上の階まで上がれない。
私はいつものようにママにメッセージを送り、置いてあるソファに座って、ママを待った。
エントランスには、私以外に向かいのベンチに座ったフードパーカーを被ったラフな格好の青年と、かなり背の高い外国人の男性がフロアを歩いている。
ママは忙しいのか、なかなか返事がない。
すみれ
メッセージでは慌ただしいようだったし、電話をかけたらタイミング悪く、仕事の邪魔になってしまうかもしれない。
すみれ
私は気長に待つことを決め、いつも遊んでいるソシャゲ、『イミグレ』を開く。
『イミグレ』は『イミグレーション・ラブ』の略で、入国審査官のイケメン達と恋と入国の駆け引きをするソーシャルゲームだ。
ちなみに、このソシャゲもママの会社のゲームである。
推しグループのイベントのランキングボーナスを狙うため地道に液晶を叩いていると、不意に、視界の端にさきほどの外国人がチラチラとよぎった。
すみれ
すみれ
よく見れば、外国人の男性は不安そうな表情で、オロオロと入口とセキュリティゲートの間を行ったり来たりしている。
すみれ
私は辺りを見回したが、ビルの管理人らしき人も、受付嬢もいない。
会社員であろうスーツの人たちは、みんな慌ただしそうに早足でセキュリティゲートを出たり入ったりして、エントランスを過ぎ去って行く。
彼が困っていることは誰の目から見ても明らかだったけれど、
威圧感を感じるほどの大きさ。その上、言葉の通じなさそうな外国人。
健康に問題を抱えているようには見えないし、みんな自分の忙しさを言い訳に、我関せずと言った感じで、彼を無視していた。
すみれ
すみれ
私は勇気を振り絞って、彼に声をかけた。
すみれ
外国人の男性
すみれ
外国人の男性
すみれ
案の定、降り注ぐ英語の雨。なんとなく言っていることはわかるけれど、答え方がわからない。
すみれ
???
私がどう伝えようか言い淀んでいると、不意に、もう1人の人間が歩み寄ってきた。
向かいのベンチに座っていた青年だ。
???
外国人の男性
青年が流暢な英語で話しかけると、外国人の男性はパッと顔色を明るくしてお礼を言った。
すみれ
声をかけたくせに結局なんの役にも立たなかった私が圧倒されて見ていると、青年はふとこちらを向いた。
フードの中からさらりとした黒髪と、すっきりと凛々しい目元が見える。マスクをしていて全ては見えなかったけれど、それでも彼の容姿が整っていることは明らかだった。
私がぼうっとしていると、不意に彼と目が合う。
彼はニヤリと不敵に笑って、言った。
???
すみれ
すみれ
突然、話しかけられて、私はなんのことかと慌ててしまう。
スマホにメッセージの通知が来て、さらにわたついていると、その黒髪の青年は「あはは」と笑った。
???
すみれ
確かにそうだ!翻訳アプリを使えばいいなんて、思いもよらなかった。
???
私が返答に詰まっていると、彼はそう意地悪に笑って、
???
外国人男性を連れて、セキュリティゲートの奥へと消えてしまった。
私は呆然と立ち尽くす。
すみれ
すみれ
すみれ
先に声をかけたのは私なのに、横から良いところだけ持って行かれ、
挙げ句の果てには機転の効かなさを馬鹿にされ、私は面目を潰されたのだ!
すみれ
すみれ
でも、私が困ってる時にさりげなくさっと入ってきてくれて、英語はペラペラで…
あの最後の一言がなかったら、きっと少しだけ、ときめいちゃってたかも。
それでも最後の上から目線の煽りで台無し!
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
そんなことを考えていると、セキュリティゲートの奥のエレベーターから、見知った姿が現れた。
ママ
ママは私を連れて、ビルの1階にあるカフェへと入った。
私はチョコフラペを、ママはコーヒーとサンドイッチを頼んで、2人で席に着く。
ママは盛大にため息をついた。
ママ
すみれ
ママ
すみれ
すみれ
ママ
ママはサンドイッチをコーヒーで流し込むように爆速で頬張りながら、私に言った。
ママ
すみれ
ママ
仕事と言われ、ドキッとする。
ママの仕事は、新進気鋭のエンターテイメント会社のプロデューサーだ。
ちょっと前までは、イミグレのプロモーションに携わっていて、3Dライブやイベント前には特に忙しそうにしていたのだ。
私は自分の大好きな、それでいて世間的にも大人気のゲームに母親が携わっていて、娘として非常に鼻が高かった。
すみれ
私は下心満載で、ママに返事をする。
すみれ
ママ
ママはとても喜ぶと、なにやら肩から下げたポシェットの中から鍵を取り出した。
チャリ…
家の鍵に見えるが、うちの鍵じゃ無い。
これがイミグレと何の関係があるのだろうと私が首を傾げると、ママはさっさとマグや皿を片付け始めて、片手でバババとスマホに何か打ち込んだ。
ママ
すみれ
ママ
ママ
すみれ
ママ
ママ
ママ
すみれ
ママ
すみれ
ママ
すみれ
ママから送られてきた住所は、いわゆる超高級住宅街。
たどり着いた場所は、ホテルみたいに綺麗なタワーマンションだった。
すみれ
ママの会社以上に怯えながらエントランスに入ると、奥のカウンターデスクに座っているスーツの人が丁寧にお辞儀をした。
コンシェルジュ
すみれ
すみれ
私がすっかり怯えていると、ママからメッセージが入った。
ママ
ママ
ママ
ママ
ママ
ママ
ママはすっかり私を部下扱いしていて、それほどにまで差し迫った状況に私も緊張で息が上がる。
すみれ
すみれ
すみれ
コンシェルジュ
すみれ
コンシェルジュ
私はコンシェルジュに通されて、エレベーターに乗せられる。
コンシェルジュ
すみれ
すみれ
ピンポーン………
ピンポーン……
ピーンポーン!
すみれ
一応インターフォンを鳴らしてみたが、部屋の中は全くの無反応。
本当に人がいるのか?と思いながらも、私はママからもらった合鍵で、玄関のドアを開けた。
すみれ
部屋の中は、とても広々としていたが、どこか殺風景だった。
ママからメッセージで教わった内容によれば、玄関入ってすぐの右の扉が寝室のはずだ。
私は緊張しながらも、ぐっと拳を握る。 時刻は17:55。カウントダウンはもう始まっている。
コンコンコン
すみれ
すみれ
室内から返事はない。
私はドアに手を当てて、しばし考える。
すみれ
すみれ
流石に初対面の、それでいて男の人の寝室に入っていく勇気はさすがの私にもない。
それでも、何度かドアをノックし続けるうちに、少しずつ不安が胸のうちに広がっていった。
すみれ
すみれ
私は突然その可能性に思い当たって、さぁっと血の気が引いた。
ドンドンドン!
すみれ
ガチャ…
中は薄暗く、遮光カーテンの隙間から夕陽のオレンジが滲んでいた。
部屋の真ん中にドンと置かれたキングサイズのベッドには、薄手の毛布がぐちゃぐちゃにかかっていて、こんもりと人型に膨れている。
ひどく緊張しながらも、私は手を伸ばして、そっと毛布をめくる。
すみれ
まず現れたのは、脱色した銀色に輝く髪。
そして、瞳を固く閉ざした長すぎるまつ毛に、高くツンと尖った鼻先、なだらかなカーブを描いた頬。
そして、毛布からちらりと覗く、形の良すぎる血色の悪い唇。
私は彼を起こすのも忘れて、思わず息を呑んだ。
すみれ
もし彼の耳まで尖っていたら、私はきっと彼をファンタジー物語に出てくるエルフに違いないと思っただろう。
そのぐらい、常識はずれの美しさだった。
紅羽
その美しすぎる柳眉が不機嫌そうにひそめられ、私は思わずハッとしてしまう。
すみれ
すみれ
サイドボードに置いてある時計をみれば、時刻はもう18:00を回っている!
私は慌てて彼に呼びかける。
すみれ
紅羽
すみれ
全く起きそうにない様子に痺れを切らして、私は彼を揺り起こそうと、彼の肩に触れた。
すみれ
およそ眠っている人の体温とは思えないほど低い体温。
驚きながらも、時間がないことを思い出し、私は彼を揺さぶった。
すみれ
紅羽
紅羽
掠れた、不機嫌な猫のような声。
キャンディみたいに甘やかな声音に、少しだけドキッとした。
紅羽
紅羽さんは猫のように背中を丸めて伸びと欠伸をして、ようやく上半身を起こした。
ゆっくりと少しだけ開かれた瞳は充血して赤く、ひどく機嫌が悪そうに私を睨んだ。
紅羽
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