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紅羽
まるで、地獄の番犬を起こしたかのような不機嫌さ。
美しい人の怒った顔は普通の人より怖く見える。
すこし怯んだが、よく考えれば、私は紅羽さんの配信に間に合うように起こしにきてあげているのだから、感謝こそされるべきだが、怒られるいわれはない。
そう思って気を取り直す。
すみれ
すみれ
紅羽
紅羽
紅羽
紅羽
そう言って無言でベッドの海へ戻って行こうとする彼を、私は慌てて引き留めた。二度寝されたらたまらない!
すみれ
すみれ
すみれ
紅羽
紅羽さんは毛布を体に巻き付けながらも、緩慢と充電器に繋がれたスマホに手を伸ばした。
そして、猫のように丸まったまま、スマホの液晶を見る。
紅羽
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
すみれ
あまりの衝撃に、思わず絶句する。
そりゃあ、紅羽さんにとってしてみたら、目の前に突然得体の知れない女が現れて、意味がわからないだろう。
同じ状況なら私だってきっと不快に思う
でも、こうして面と向かって「消えろ」という強い言葉を初対面の男性から浴びせられるのは、生まれて初めての経験だったから
少なくないショックが、私の胸中に走った。
ネットではあまりに日常的に見かける言葉。
でも、直に投げかけられるとこんなに衝撃があるなんて、まったく知らなかった
正直、すごく………怖い。
…………でも。
すみれ
紅羽
でも、私は怯まなかった。
19時からの配信。きっと楽しみにしているファンがたくさんいる。
私がなんと言われようと、別にいい。
でも、今もきっと配信を楽しみに待機しているたくさんの人たちをがっかりさせるようなことは、
私がしていいことじゃない。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
紅羽
紅羽さんは、じっと黙って、冷たい目で私を見つめた。
そのまま、少しの間、けれど永遠にも思えるような、短い沈黙の時間があった。
私も、紅羽さんも、譲らず睨み合う。
いま、目を逸らしたら負ける。
直感的にそう思って、私は一歩も譲らなかった
ややあって、ついに根負けした紅羽さんが、ハアーッと大きなため息をついた。
紅羽
すみれ
紅羽さんは乱暴に掛け布団をはらうと、勢いよくベッドから降りた。
そして、ようやく床に降り立つと、両手を上げて大きく伸びをした。
その様子に、私は嬉しさがこみあげる。
すみれ
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
すみれ
私は嬉しくなって、すぐにタクシーを呼ぶためアプリを立ち上げた。
紅羽さんが起きてくれたことは嬉しいけど、配信に間に合わなければ何の意味もない!
速やかに配車手配をすませ、ママに現状報告のメッセージを送っていると、不意に視線を感じて、私は顔を上げた。
すみれ
紅羽
少しだけ怯んだが、紅羽さんに嫌われていることは今の私には関係ない。
すみれ
紅羽
すみれ
グイッ
紅羽さんは、突然、自分の着ているTシャツを脱ぎ捨てた!
突如あらわれた美しい腹筋。
私は一瞬、何が起こったか分からず、完全にフリーズしてしまった!
すみれ
紅羽
すみれ
すみれ
私は慌てて寝室を出ると、バタンと思い切り扉を閉めた!
緊張か興奮か驚愕か、よく分からない感情でドクドクドクと心臓が早鐘を打っている。
部屋の中からは紅羽さんの笑い声が聞こえた。
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
私はまだ落ち着かない鼓動を深呼吸して宥めつつ、
すぐに気持ちを切り替えると、時間の逆算しながら、紅羽さんが出てくるのを扉の外で待った。
バタバタバタバタッ
すみれ
ママ
紅羽
ママ
紅羽
タクシーの車内でママ達と連絡を取り合いながら、私たちは無事に配信開始時刻に間に合った。
紅羽さんはすぐにスタッフさんに拉致されて、身体中に器具を装着されていく。
そういえば、この人はVtuberだった。
すみれ
すみれ
スタジオには、すでに共演者のVtuberも来ていて、彼はすでに全身に装置を装着していた。
奏
紅羽
奏(かなで)と呼ばれた彼は、気の知れた様子で紅羽さんに話しかけた。
奏
紅羽
奏
紅羽
奏
紅羽
奏
彼もまた紅羽さんと並び立つ美男子で、栗色の髪に、優しそうなアーモンドアイが笑うたびに、愛嬌たっぷりに細められる。
すみれ
すみれ
周りのスタッフ達がバタバタと忙しそうに走り回る中で、彼らだけは悠然と構えて、配信が始まるのを待っている。
すみれ
すみれ
そんなことを思いながらも、私はようやく母に任された使命を全うできた実感がじわじわ湧いてきて、ふう、とひとつため息をつく。
現場は配信スタート秒読みでまだ慌ただしくしているが、私のできること自体はもう終わったし、
究極的には部外者なので、そろそろ立ち去るべきかと周りを伺う。
ママ
すると、そわそわし始めた私を見つけて、ママが優しく私の肘を掴んで引いた。
ママ
すみれ
ママ
そう言ってママはおちゃめにウィンクする
ママ
ママ
私はスタッフの邪魔にならない場所にそっと移動し、ママの言葉に甘えて、そのまま収録を見学させてもらうことにした。
ママの言っていることはすぐにわかった
紅羽
奏
紅羽
奏
配信が始まった瞬間、スタジオの空気がガラッと変わった。
先ほどまでの緩慢な空気が嘘のように、2人とも軽やかにトークをしだす。
ポンポンと出てくるキャッチーなフレーズに、思わず笑ってしまう仲の良さそうなやり取り。
私は一瞬一瞬、すべての瞬間に目が離せなくなった。
これが、面白いということ。これが、超人気Vtuberの実力。
すみれ
さっきまで、目の前のこの人がどんなに有名でどんなにすごい人かなんて、少しも考えてなかった。
でも、今ははっきりとわかる。
この人達は、超人気配信者なのだ。
慌ただしい雰囲気からどこか不安げだったスタジオ内も、今やみんなが笑いに包まれて、その中心に紅羽さんと奏さんがいた。
すみれ
話しどころか、家に行って、寝室まで上がり込み、なんなら上裸も見てしまった。
すみれ
突然、凛々しい上半身の筋肉を思い出してしまってボッと顔が熱くなった私は、慌てて頭の中のイメージをかき消した。
奏
紅羽
配信も無事終了。
緊張の解けていく空気の中、体につけられた器具を外している紅羽さんに、ママが近づいていった。
ママ
紅羽
ママ
紅羽
ママ
紅羽
出ていっていいものか悩んでいたが、私の話が出たので、そっとママの隣に近づいた。
紅羽さんの赤く充血した目が、私を見た。
紅羽
ママ
紅羽
ママ
紅羽
ママ
紅羽
奏
紅羽
奏
奏さんは私の方を見ると、目を合わせてニコリ、と笑った。
優しく甘やかな雰囲気に、少しどきりとする。
奏
すみれ
奏
すみれ
奏
奏
すみれ
奏
すみれ
奏
すみれ
奏さんから差し出された手を取っていると、横からぬっと紅羽さんが割り込んできた。
紅羽
奏
紅羽
奏
奏さんは、そう言って紅羽さんを軽くあしらうと、私に向かってニコリと笑った。
奏
すみれ
紅羽さんは不満げな顔のまま、ジトッと私の方を見る。
すみれ
紅羽
すみれ
気に入られたもなにも、自分はただ言われた仕事をこなしただけなのだが…
そう思って返答に詰まっていると、不意にママが紅羽さんの後頭部を台本で引っ叩いた。
バシンッ!!
紅羽
紅羽
ママ
紅羽
ママ
紅羽
ママ
紅羽
紅羽さんは誤魔化すように顎の辺りを長い爪で掻くと、気まずそうに私に向き直った
紅羽
すみれ
紅羽
すみれ
紅羽
紅羽さんは満足げに笑って頷いた。
ママ
奏
ママ
すみれ
私は紅羽さんと奏さんを見て言った。
すみれ
すみれ
紅羽
奏
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
すみれ
紅羽
奏
2人は、一瞬、呆気に取られたみたいにぽかんとした。
そして、2人で顔を見合わせると、私に向かってニカッと笑った。
紅羽
奏
最後に笑って私に親指を立てて見せた紅羽さんの顔は、少年のように輝いていて、わたしはなんだかおかしくなって、思わず笑ってしまった。
紅羽
奏
紅羽
すみれ
そうして私は紅羽さんと奏さんと笑い合いながら、しばらく、思わぬ大仕事を終えた余韻に浸っていた。
近い将来、また彼らに会うことになるとは、つゆも思わずに。