主
主
主
_________________________________ _________________________________ ____________ありがとうございます___________ _________________________________ _________________________________
きょろきょろと周りを見渡して、人がいないことを確認してから抜き足差し足で理系コースの靴箱の棚に近づいた。
昨晩必死に悩んだ末、返事は靴箱に入れるという安易な方法をとることにした。
さとみ君の靴箱はどこなのかわからなかったけど、 理系コースがどの棚を使っているのかは知っている。
失礼ながら手当たり次第に扉を開けて上履きの名前を確認して探し出す。
上履きに名前を記入するのを義務付けられていたことがこれほど役に立つとは思ってもみなかった。
靴箱を漁っているような姿も、さとみ君の靴箱に手紙を残す姿も、どちらも誰かに見つかったら、たちまちいろんな意味で噂になってしまう。
そう思い、いつもは8時30分のところを、今日は7時30分過ぎに学校につくようにした。
その甲斐あってか、校舎にはまだ人の気配も感じれず、誰かに怪しい姿を見つかることはなさそうだ。
数十か所目の靴箱でさとみ君の上履きを見つけると、 心臓が激しく動き、胃がキリキリと痛み出す。
くちをすぼめて息を吐き出しながら、カバンの中の返事を取り出した。
あまりの緊張に小刻みに震える手で、そっと上履きの上に置く。 よし、と小さな声を出して、扉を閉める。そして瞬時に立ち去った。
全速力でろうかをかけだして、誰もいない自分の教室に入った瞬間、 ずるずると、床に腰を下ろす。
走ったせいなのか、それとも、緊張からなのか、 心臓がものすごい勢いで血液を体内に巡らせて、気持ち悪くなってくる。
ころん
渡してしまった。
渡してしまった!
実際は靴箱に置いてきただけだけど、そんなことはいいとして。
顔が真っ赤になっていることが自分でもわかるくらい、熱を感じてる。
ころん
何度か深呼吸を繰り返し、自分の書いて返事をもう一度思い返す。
彼の3文字には負けるけど、短い文章。
もしもの場合を考えて自分の名前は書かなかった。
例えばさとみ君がどこかに手紙を落として、誰かが見つけて中身を見てしまうとか、誰かがさとみ君と一緒にこの手紙を発見するとか。
返事とは言えないような内容だったけど良かったのだろうか。
やっぱりもっと違う言葉の方がよかったかもしれない。
それに、ルーズリーフなんかじゃなくてちゃんとしてレターセットの方がよかったかもしれない。
あの返事を書くのに費やした時間は“3時間”
おかげで布団に入ったのは2時過ぎだ。
“気持ちはうれしいけどごめんなさい”
みたいな返事を書いていたけど、どうもしっくりこなかった。
そもそも、“好きだ”だけで“付き合ってくれ”と書かれていなかったのだから 僕が断るのはおかしい
だからってお礼で返すのはやっぱり変だったかもしれない。
ころん
あんなに考えたのにもっといい返事があったのではと思ってしまう
今ならまだ引き返せる。
さっきの手紙を回収してくればいい。 まだ誰も、学校に来ていないだろう。
頭を抱えてしばらくして
ころん
と、声を出して腹を決めた。 これ以上悩んでも堂々巡りになるだけだ。
床からすくっと立ち上がって、自分の席に腰を下ろした。
昨晩寝るのが遅くなったうえに早起きまでして寝不足だからみんなが車で少し休んでいよう。
まだうるさく鳴り響く心臓も落ち着かせなければならない。
机に頭をのせて、ゆっくりと呼吸を繰り返しながら自分の胸の音に耳を澄ませる。
瞼を閉じれば、なんだかふわふわしてきて、すべてが夢だったかのように思える。
あの手紙は、狭い靴箱の中でさとみ君を待っている。
さとみ君が学校に来るまであとどれくらいの時間があるだろう。
彼が靴箱を開ける、手紙を見つける。 その姿を想像するとまた鼓動が早くなった。
あの返事を見たさとみ君はどんな反応を示すだろう。
肩を落とすのだろうか。それとも、返事が来てうれしいと思うのだろうか。
また返事があったりして。
なーんて。ないよね。そんなこと。
ちゃんと断ったわけではないけど、あの一言にどんな意味が込められているのかはきっと伝わるはずだ。
悩みに悩んで手紙を書き、早起きして、手が震えるほど緊張して、手紙を彼のもとに置いてきた。
まるで僕がさとみ君にラブレターを出したみたいだなあ。 と思ってふっと笑みが浮かんだ。
“ありがとう”って書いただけ。
意味としては遠回しに断ってる。
なのにどうしてこんなに悩んで、さとみ君のことばかり考えて、 心臓が早鐘を打つのだろう。
それはきっとどんな内容であれ、初めて自分の気持ちを 自分の言葉で相手に伝えようとしたからだ
さとみくんも.....こんな感じだったのかな
心拍が落ち着いてくると、ああ、渡しちゃったんだな、 と改めて思って、大仕事を終えたような達成感に満たされる。
同時にすうっと意識が遠のいていく感覚が僕を襲った。
主
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主
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コメント
4件
続きも待ってます!!
とても面白い作品です💫✨続きも楽しみにしてます!🎶
次からはやり取りが始まるのかな!?気になりすぎて眠れそうにないです!!✨