陽の光に照らされて暖かい温度のするアスファルトを踏みしめ、街の景色を楽しむ様、ゆっくり学校へと歩みを進めた。 商店街の人間から、色々話しかけられたが、人好きのする笑顔で、軽くいなした。彼らの好意は、悪いものでは無い。どちらかと言えば心地よい物だが、今の時間から、全ての好意を丁寧に返せば、学校に遅刻してしまう。 俺は、彼ほど優しくはないから。 脚を止める事無く、 笑顔だけを振りまいた。
ガヤガヤと騒音が絶えない賑やかな教室。けれど、嫌な感じは少しも感じない。この教室が奏でる音が、声が、心地よい気持ちにさせてくれる。 昨日の夜、散々考えた挙句に寝落ちしてしまい、気づけば1日が経過していた。
考えを振り払う様に眠ろうとした筈なのに、微睡む意識の中で、最後に考えたのは、結局の所彼の事なのだ。 彼の事は、人間として好きだったし、 優しい所も、自分を曲げない所も、少なからず好意を持っていた。 それなのに、俺は彼の行動に勝手に失望したのだ。
あの時の光景は、すぐにでも思い出せてしまう程、鮮明に脳へと刻み込まれている。頬を赤らめ照れる彼に、 冷たい視線を浴びせる自分。
すぐにでも記憶から消したい光景。今すぐにでも、時間を巻き戻して、なかったことにしてしまいたい事実。 戻れと考えても、時間は進むだけで、 嫌な現実だけを突きつけた。
教室に足を踏み入れた途端、 楡井が心配そうにこちらと桜を交互に見つめた。 そんなに心配しなくとも、彼とはしっかり話を付けるつもりだ。これからどういう関係でいるのかも。全て。 それに、上手く彼を避けた所で、楡井辺りが、無理やりにでも引っ張りだすだろう。
俺は1歩、また1歩と、彼のいる席へと歩みを進める。 コツコツと自分のカンフーシューズが音を鳴らす。 その間、教室には少しの緊張感が走り、時間がゆっくりに流れ始めたと錯覚する程であった。
蘇枋
桜
蘇枋
自分の口から、らしくない言葉が漏れる。それほどまでに、楡井と話す彼の言葉は衝撃的だったから。 自分の心臓がキュッとなり、 鼓動がドクドクと早く脈打つ。 嘘だ。嘘だろう? 記憶喪失?しかも俺だけ? 頭でも打った?喧嘩の強い彼の事だ。その可能性は低い。それに怪我でもしていれば次の日学校に赴くのは無理だろう。 それではなぜ? 自分の頭の中が、真っ白になって行く。自分の呼吸も、多少荒いかもしれない。
楡井
蘇枋
訳が分からないと、 今の状況を楡井に尋ねた。 楡井も、顔を青くして、混乱している様だった。それでも、自分自身よりも、今の彼を知っているだろうと、 混乱する中、自分の脳を動かし、口に出した。
楡井
昨日の夜、楡井の元に桜から一通のメッセージが来たらしい。 その拙い文章は、「蘇枋って誰だ?」 という物だった。初めこそ、楡井も何か冗談だろうと思ったが、 蘇枋じゃあるまい、それにあの桜だ。こんな笑えない冗談等言うわけが無い。 それじゃあ、本当に蘇枋のことが分からない…?そう結論を出し、 楡井は桜から詳しい事情を聞き出した。
桜曰く、自分のスマホにある、連絡先の名前を見ていた時に、見知らぬ"蘇枋"という名前が登録されており、物知りな楡井なら何か知っているかも、と連絡を入れたそうだ。
桜の話を聞く限り、本当に蘇枋隼飛という人物を全く知らない人間の様だったらしい。他、クラスメイト達は覚えているのに、何故か蘇枋だけは覚えていない。 蘇枋と何かあったのではと考えた楡井は、自分の手に握るスマートフォンで、蘇枋の名前が出るまで、画面をスクロールさせた。
蘇枋の元に、昨夜届いたメッセージは、こういった意味があったのだろう。 桜と話せと言ったのは、 話している内に蘇枋の事を思い出すかもと思ったかららしい。 クラスメイト達が、今まで通り普通に過ごしているのは、楡井と桜の話し声が聞こえていないのと、蘇枋以外の全員の事を桜は覚えていて、普通に挨拶も言葉を交わすことだってしていたからだろう。
そして今朝の会話に至るという訳らしい。 楡井の言っている事に嘘は何一つ無さそうだ。 蘇枋は深呼吸をする様に、深く息を吸い込んで、今の状況を呑み込もうとする。
桜
桜
不器用な桜が、こんなに上手い、まして蘇枋が見抜けない程の嘘を着けるはずがない。彼の色の違う双眸が、曇りなき眼でこちらを見つめた。 顔には、なぜ他クラスの奴がここにいるのか。と書いてある様だ。
こちらの話が聞こえてきたのか、 先程まで騒いで笑っていたクラスメイト達が、冷水を浴びた様に静かになった。 物音1つ立てず、ただ静かにこちらな話に耳を傾けている。
蘇枋
いつもペラペラと回る口は、 こんな時に限って、モゴモゴと口籠もるだけで、蘇枋の口から言葉が飛び出す事はなかった。 自分自身の口では無いようにすら思えた。
楡井
堪らずと言った様に、楡井が声をあげる。その声色は、必死さが伝わってくる。それでも桜は、訝しげに首を傾げるだけだった。
桜
この状況、蘇枋は使えると思った。 やり直しの聞かないはずの時間が、今からなら、きっとやり直せる。そう思った。自分の口の端が自然と持ち上がる。 彼とまだ、友人としていられるからだろうか。それとも、別の感情か。 今は分からない。 それでも蘇枋は、桜に近づく事を諦めない。彼が世界で一番大切だから。
蘇枋
蘇枋
彼に握手を求めたが、 振り払われてしまった。 それはそうだ。彼から俺への好感度は、0に等しい。しかも、こんな知らない奴に、握手など求められても、彼は簡単に手を握らない。 愛を知らない黒猫の様に。
本当に嫌な事があると、人間は記憶から消そうとする。 思い出したくない過去を、思い出そうともしないから、 ずっと忘れたままでいる。 その方が幸せで、 その方が、自分の心を守るから。
猫は、自分の死期を悟と、大好きな人の目の前から居なくなるらしい。 蘇枋の事が、好きだった彼は、どこへ消えてしまったのだろうか。
蘇枋は考えた。これは、神様がくれたチャンスなのだと。今なら、今の状態なら、彼を傷つけずに済むと。 今ならまだ、友達だったあの頃に戻れるんだって。 どこまで行っても彼が、世界で1番大切なんだ。
これからどう過ごす? 「桜との親睦を深める。」 「桜から距離を取る。」
シアワセのコマンドを見つけましょう。
コメント
9件
今回も素敵なお話ありがとうございます🙇♀ すみません、読んではいたものの忙しくてコメントできてませんでした💦 また少数派でしたね…悲しいです🤔 今回は「桜との親睦を深める。」の方に投票させて頂きました✨ 期待させて堕とす、というのも悪くないなと思いまして…! 続き楽しみに待ってます!! これからも頑張ってください💕
たまたま目が覚めたら通知が来て開いちゃった…() ナルホド?そう来るか( 'ω' )フム… 俺は、前に見た夢は未だに覚えてるね。まぁ、目が覚めてもまだビビってた(()) 選択肢は、一旦距離置いてから観察?とかでも良かったけど、この状態からどう桜と接していくのか気になったから話す方選んでみた。アゥ、明日(てか今日)早い、から寝る、ねぇ……(´-﹃-`)Zz
本当に嫌な事、怖いことがあった時、人間は無意識に忘れようとしてしまいます。各言う私も、昔あった本当に怖かった事とか嫌な事とかあんまり思い出せないんですよね…🤔 本当に怖かったなとかかルークそれくらいしか思い出せないんですよね笑 知らない方が幸せのこともありますから、無理に思い出そうとも思わないんですけどね 今回も選択肢は、コメントに書いておきます。彼らの運命を、皆様の多数決によって起きてください。