加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
僕の勝ち誇った心は
まず、理解を放棄して保たれた
そのまま数十秒……もしかすると たった数秒だったかもしれない
完全に現実から逃避していた
僕以外の者達も言葉を失って 意味を理解っていないようだった
静寂の内に加賀から発せられた 言葉を組み立てていく
犯人は 新居宗介と新城綾香
2人が犯人……
何度も復唱してみせた
ぶつぶつと言葉を呟いてみる
そうすることでしか 僕の心は戻ってこないと思ったのだ
……そして
激烈と心が反抗する
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新居宗介
新居宗介
新居宗介
新城綾香
集団ヒステリーが起こっていた
加賀という対象に 怒りという感情が波及する
自分自身を守るために 心が抵抗しているのだ
それは 先程、加賀から聞かされた……
「"真実を見てください"」
黙って聞いていた加賀が口を開く
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新居宗介
新城綾香
このままでは何も解決しない
そんなことは初めから理解っていた
だが、信じたくもなかった
それに……
"僕こそが黒幕だろう?"
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城綾香
新城綾香
新居宗介
新城賢太郎
新居宗介
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀の咳払いが食堂に響くと あとは横槍を入れる者も居なかった
ついに、推理は語られる
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
その時は、疲れているのかと皆さんも心配してくださいましたね。僕自身も長時間の移動に、汗が噴き出るほどの猛暑から身体の調子が悪くなったのかと納得していました。
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
加賀春樹
あの時だと?
あんな一瞬で……
目を合わせただけで 加賀は理性が守らなければならぬほど 操作者に暗示をかけられたというのか
「ナイフを額に突き立てる」 という正確な指示を伴った暗示を……
ありえない
僕はすかさず反論した
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
マインドコントロールをかけられたタイミングで、僕が危機回避をしたのですから、誰がかけたのかは火を見るよりも明らかだと思いませんか。そして、全てを知っている理性が僕の中へと、さっきようやく戻った。
というわけで、確実にあのタイミングでマインドコントロールをかけられたのだと断定できます。
新城賢太郎
加賀春樹
"自身が操作者だとバレる自信が全くなかったんですよ"
新城賢太郎
加賀春樹
あるいは、解かれたところで、操作者を特定するなんてことは、普通はあり得ないことです。僕のように意図しない心理的防衛があり、そこで記憶の改変、もしくは欠如を回避するなんて方法が使われない限りは、ですが。
加賀春樹
一見筋が通っている
ように見えるが
新城賢太郎
新城賢太郎
新居宗介
新居宗介
新城秋穂
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀は軽く息を吸って
何かを吐き出すように言った
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
「きゃっ!!」 と、秋穂は短く悲鳴をあげた
その声は震えていて 悲痛さを物語るには十分だった
加賀は容赦なく続けた
加賀春樹
加賀春樹
その点が、仮に賢太郎さんが強大な力を持っていたとしても、総太郎さんに騒がれずして殺害するのは不可能だと断定できる根拠となります。
加賀春樹
いいですか。綾香ちゃんは総太郎さんに近付ける唯一の人間です。それに先に話した、僕自身が一瞬でマインドコントロールをかけられてしまったということを考え合わせると、この事件の絵図をかいたのは綾香ちゃんしかいない。
新城綾香
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
傀儡の容疑者は怒鳴った
怒りは 息を荒くし肩を震わせている
当然だ
"ふふ、傀儡か"
"それは間違っていないな"
僕は、ほくそ笑んだ
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新居宗介
新城賢太郎
新城賢太郎
新居宗介
新居宗介
蔑むように探偵を見てやった
探偵は顔を伏せて 何かを考えているようだ
滑稽だな
考えは全く持って大外れ
幾ら推理を重ねても 僕は潔白な身になることだろう
慢心を大いに楽しんだ
そこで ようやく探偵は顔を上げたかと思うと
僕と目を合わせた
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
……なに?
意味がわからない
何を言われた?
僕が固まっていると 探偵は言葉を紡いだ
加賀春樹
加賀春樹
"最初しか知らないんだよ" と。
新城賢太郎
何かを言おうとした
何でもいいから反論をしようとした
しかし 残酷にも言葉にならなかった
何も言えない
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新居宗介
不味い
だめだ だめだ だめだ だめだ
黒幕であることを
看破されてしまう
何かを言え!!
容疑が晴れるように……
何かを……!!
「貴方は黒幕でもなんでもないですよ」
……は?
「貴方は……」
「"ただ黒幕役を押し付けられた可哀想な人です"」
声は射るように響いた
顔を上げると 射手は加賀春樹だった
冷淡な目をしていた
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
それに、殺人が起こって犯人探しをする際にも、ただ操られた新居さんは多くの証拠を残してしまうと予測していた。例えば、指紋や返り血です。他には、大声を上げられて現行犯となることも考えられます。
動機としても十分です。執事とは言え、財宝を狙う立場にありますし、新居さんは総太郎さんに対してよく思っていなかった節があることは、客人の僕でさえ知るところですからね。
どうですか。色々な面から、新居さんは犯人にとって好都合なんです。
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新城さんを黒幕としてでっち上げる利点として、マインドコントロールを使って統計操作したという "実績" がありますからね。これは、黒幕と推理するには大きすぎる要素です。
綾香ちゃんが黒幕であると解ることがなければ、どう推理してもマインドコントロールを使えるのは新城賢太郎しかいないという事実に陥る。貴方は選ばれるべくして選ばれた。
新城賢太郎
加賀春樹
そうなると、毎日の成果がようやく実ったと貴方は勘違いをする。直接的にマインドコントロールにかけられていなくとも、殺害を指示したのは自分自身だと錯覚する。
加賀春樹
いや
間違っている
違うだろう
それはない
それはない
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
醜い咆哮だった
自分でも解っていた
だが 理性はもうどこかへ行ったのだ
こうなっては仕方がない
仕方がないんだ
「"仕方ないわけがありませんよ"」
まただ
また、心を読みやがった
こいつ!!
加賀!!
加賀春樹
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
新居宗介
新居宗介
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
新城賢太郎
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
新居宗介
加賀春樹
しかし、操られた新居さんが犯人だとしても、穴を抜けるのは無理でした。密室はどう作られたのでしょうか?
新居宗介
新居宗介
操作者……というのですか。その方が貴恵様にマインドコントロールをかけ、操られた犯人が貴恵様を殺害し、犯人は部屋から出ていく。残った操作者が鍵をかけて、身体的特徴から、壁に開けられた穴から脱出することができる。
加賀様は、こう仰りたいのですか?
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
"穴の先に続いていたテレビスタンドの中が整理されていた事実"
"鍵の行方"
"物音が聞こえたという証言"
この3つです。
新居宗介
加賀春樹
これは、綾香ちゃんが抜け道を利用するために整理したということは自明ですが、重要なのは "中の物が元に戻されていなかった" ということです。
言い換えれば、"物を元に戻す時間すらなかった" ことになります。それはなぜなのか……。
加賀春樹
鍵が総太郎さんから貴恵さんに渡っていたことを知る人物は、本人である貴恵さん。そもそも提案をした新居さん。それを聞いた僕の3人だけです。
その鍵が、貴恵さんの部屋からなくなっていました。貴恵さんはポケットに入れていたようですが、部屋に持ち帰ってからずっとその中に入れておくと言うのもどうでしょうか。涼しいとはいえ、季節は夏です。風呂に入るのが普通ですよね。その際に、服を当然脱ぎます。服に鍵を入れたまま洗濯するなんてありえませんから、どこかに保管しておいたはずですよ。
それがどこにあったのか、僕は知りません。しかし、簡単には人に見つからない所に隠すのが自然です。
加賀春樹
新城賢太郎
新城賢太郎
僕はようやく落ち着いてきていた
未だにこの男は憎いが
まあ、いい
僕の名声を傷つけたのだから 必ず借りは返してやる
無言で睨んだ
しかし 加賀は既に僕を見ておらず話していた
加賀春樹
僕の推理によれば、綾香ちゃんがその時、居たということになります。さあ、この3つの事実を踏まえて、よく考えてください。
新城賢太郎
新城秋穂
新居宗介
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
新居宗介
穴 音 鍵
そして
密室
殺人
新城賢太郎
証明
加賀春樹
加賀春樹
そして、実際に貴恵さんにマインドコントロールをかけ、操っていた新居さんを部屋へと招き、ナイフを使って殺害する。綾香ちゃんはここで新居さんを部屋から出した。その理由がわかりますか?
そうです。鍵が移行した事実を知っていたのは、"貴恵さんと新居さんと僕の3人" です。貴恵さんが亡くなれば、"新居さんと僕の2人" しかいない。物陰に隠れていた可能性も、新城さん夫婦の部屋に侵入した僕を見ている "賢太郎さんではありえない" し、食堂にいた "秋穂さんでもありえない" のですよ。残された綾香ちゃんはどうでしょう? 聞いていた可能性はゼロではありません。でも、そんなことをしなくても、操っている新居さんから "洗いざらい起こったことを吐かせる" のは容易いことです。
こうなると、"鍵がなくなったという事実自体が犯人は新居宗介である" ことを意味します。ご存知の通り、第三の殺人において、"僕はアリバイがある" んです。綾香ちゃんは、この事件の犯人を初めから告発することをプロットの中に組んでいたんです。
加賀春樹
そこに、新城さんたちがやってきてしまった。ノックが聞こえた瞬間、肝を冷やしたでしょうね。このままだと、自分が殺害現場にあることがバレてしまいますから。
鍵を諦めて、綾香ちゃんは急いで隠し穴から脱出したと同時に、多くの証拠を残してしまった。それが、新城さんの耳に止まった、
"人が中で動いているような音" です。
そして、
"テレビスタンドの中を元に戻すことができなかった" こと。
最後に決定的なものが、
"密室になってしまった" こと。
加賀春樹
だから仕方なく、密室を作ってしまったんです。そうすることで、何がわかってしまうのか?
それは、"新城綾香が事件現場にいたことの証明" になります。なぜなら、室内の鍵がかけられていて、自殺でもなく他殺だとわかっている状況で、古典的トリックが使われた痕跡もなく、また、そんな時間もなく犯人は室内にいたという音を聞かれています。しかし、犯人があの状況から抜け出すには、"隠し穴を通るしか方法がなかった" 。それを通れるのは、女性の秋穂さんは扉の前にいたのだから、"新城綾香ただ1人" ということです。
何も時間に関与していない者が、穴を事前に作っておくという計画的なことをする必要がありますか?
さて、この事実の重要性がわかりますか。今まで、僕視点だけしか分からないような事実を説明してきて、皆さんに納得して頂けなかったのは無理もない話です。しかし、この事実は客観的なものであり、絶対的です。
加賀春樹
綾香ちゃんは新居さんを犯人に仕立て上げたかった。しかし、鍵の在りかが分からずじまいで、どうしても決定的な証拠がない。
それでは、なぜ第二の殺人で現行犯にすることもできたのに、泳がせるようなことをしたのか。それは、"動機に関係している" からです。綾香ちゃんにも、こんなことをした動機があるはずです。最後まで目的を果たすまでは、傀儡を捨てることはできなかった。
そして、綾乃ちゃんは殺されてしまった。目的は果たされたんです。だから、新居さんが犯人でしかありえない状況を作った。僕と賢太郎さんと秋穂さんを一箇所に集めるように仕向け、新居さんと綾香ちゃんのみが残される。しかし、子供の綾香ちゃんがナイフで殺すことはできない。そうなると消去法で、新居さんが犯人だということになる。そして、それは事実でもあり、虚構でもある。
全てを創ったのは、綾香ちゃんでしかありえない。
"証明は以上です"
新城綾香
加賀の声が響き渡ったとき 全ての鍵が外れたような爽快感があった
事件の形を埋めるには こうでしかあり得なかった
犯人は
"新居宗介"
黒幕は
"新城綾香"
これが真実
僕は?
僕はかませ犬だったのか?
僕が
この僕が
くそ
くそくそくそくそくそくそ!!
新城賢太郎
事件はこうして解かれた