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加賀春樹

犯人の名は……

加賀春樹

"新居宗介"

加賀春樹

"新城綾香"

加賀春樹

"貴方達2人だ!!"

新城賢太郎

……。

僕の勝ち誇った心は

まず、理解を放棄して保たれた

そのまま数十秒……もしかすると たった数秒だったかもしれない

完全に現実から逃避していた

僕以外の者達も言葉を失って 意味を理解っていないようだった

静寂の内に加賀から発せられた 言葉を組み立てていく

犯人は 新居宗介と新城綾香

2人が犯人……

何度も復唱してみせた

ぶつぶつと言葉を呟いてみる

そうすることでしか 僕の心は戻ってこないと思ったのだ

……そして

激烈と心が反抗する

新城賢太郎

……ありえない。

新城賢太郎

ありえないよ。

新城賢太郎

加賀くん。

加賀春樹

何か?

新城賢太郎

何か?じゃない。

新城賢太郎

君の推理はまったくのでたらめで、君の心と同じように常軌を逸した狂気の推理だと言っている!!!!

新城秋穂

そ、そうよ!!

新城秋穂

いくら加賀さんでも、聞き捨てならないわ!!

新城秋穂

今の言葉、訂正してください!!!!

新居宗介

加賀様!!

新居宗介

貴方も私を犯人だと決めつけてかかるのですか!?

新居宗介

それに、私に加えて、子供の綾香ちゃんを犯人扱いとは……見損ないましたよ!!!!

新城綾香

……。

集団ヒステリーが起こっていた

加賀という対象に 怒りという感情が波及する

自分自身を守るために 心が抵抗しているのだ

それは 先程、加賀から聞かされた……

「"真実を見てください"」

黙って聞いていた加賀が口を開く

加賀春樹

……僕は心の働きで、マインドコントロールに抵抗して虚構のストーリーを創っていました。それはある意味、真実を見失わないようにしたことです。

加賀春樹

しかし、その虚構のストーリーの中で生きていた僕自身が、無意識に真実から目を背けていたのも事実です。金田夫妻や佐久間浩樹という人間が、ここに居ないという矛盾に気付くことはもっと早くても良かったはずです。

加賀春樹

それでも、都合よく情報を解釈して現実に存在する人たちであると結論していた。そのことを、僕の理性は指摘さえしてていました。

新城賢太郎

何が言いたい?

加賀春樹

……つまり。

加賀春樹

事件を解決するためには、"恐れずに理性的に真相を見つめてください"

加賀春樹

そうしてから、僕の推理に誤りはないか。本当に僕が犯人として挙げた2人は無実なのかということを判断して頂きたいんです。

新城賢太郎

……。

新城秋穂

……。

新居宗介

……。

新城綾香

……。

このままでは何も解決しない

そんなことは初めから理解っていた

だが、信じたくもなかった

それに……

"僕こそが黒幕だろう?"

加賀春樹

皆さん、少し落ち着きましたか?

新城秋穂

……ええ。少しね。

新城秋穂

でも、今も動揺を隠せないわ。加賀さんの言葉も信じられないの。

新城秋穂

綾香が犯人……?

新城綾香

……。

新城綾香

違いますわ。

新居宗介

ほ、ほら。綾香ちゃんもこう言っていることですし、仮定だとしても酷な話なのでは……。

新城賢太郎

……聞こうじゃないか。

新居宗介

え?

新城賢太郎

君の推理を話してごらん。

新城賢太郎

反論はそれからだ。

加賀春樹

……分かりました。

加賀の咳払いが食堂に響くと あとは横槍を入れる者も居なかった

ついに、推理は語られる

加賀春樹

……始まりは、僕がこの新城邸へとやってきた時です。食堂へ招かれたことをよく覚えています。そこで、皆さんの名前をお聞きしたことも。

加賀春樹

各人が紹介していき、綾香ちゃんと綾乃ちゃんの番になった。初めて2人を見た時、正直驚きました。2人は瓜二つで人形のように可愛らしかった。それに、物腰まで丁寧で少女のようには思えず、一挙手一投足が同じだった。

加賀春樹

そんな2人と目を合わした時、視界がぐにゃりと曲がり、何かに飲み込まれてしまったような感覚に襲われました。

その時は、疲れているのかと皆さんも心配してくださいましたね。僕自身も長時間の移動に、汗が噴き出るほどの猛暑から身体の調子が悪くなったのかと納得していました。

加賀春樹

しかし、今だから分かる。"それは間違っていたのだと"

新城秋穂

どういう……ことですか?

加賀春樹

つまり……。

加賀春樹

"あの時、僕はマインドコントロールをかけられたんです"

あの時だと?

あんな一瞬で……

目を合わせただけで 加賀は理性が守らなければならぬほど 操作者に暗示をかけられたというのか

「ナイフを額に突き立てる」 という正確な指示を伴った暗示を……

ありえない

僕はすかさず反論した

新城賢太郎

加賀くん。せっかくの推理に水を刺すようで悪いがね。それはありえないよ。

新城賢太郎

マインドコントロールは今でこそ悪いイメージが付いているが、元々は心理療法としてあったものだ。僕が事前に言ったように、普通は長い時間をかけて専門的な技術を応用した上で、ようやく操作ができるかどうか、というレベルのものなんだよ。

新城賢太郎

目を合わせただけで他者を操れるなんていう超能力的なものではない。歴とした科学的根拠がなければ信用に値しないよ。

加賀春樹

ええ。新城さんの言っていることはもっともです。マインドコントロールに即効性など求めてはいけません。本来はそんなものではあり得ないのですから。

加賀春樹

しかし、現に僕はかけられた。そして説明した通り、理性が抵抗した結果として、強大な力を持つ指令には逆らえないのなら、虚構のストーリーを創りあげて殺人を回避する、という働きが起こったわけです。

新城秋穂

でも、どうして綾香がかけたって分かるんですか?

加賀春樹

なぜ、マインドコントロールの操作者は新城綾香だと解るのかと言われれば、マインドコントロールをかけられたからだと言えるでしょうね。思い出してください。一時的に分離した理性そのものは、僕のプロットの中では、佐久間浩樹という別人の像を取っていた。しかし、それはもちろん僕自身です。

マインドコントロールをかけられたタイミングで、僕が危機回避をしたのですから、誰がかけたのかは火を見るよりも明らかだと思いませんか。そして、全てを知っている理性が僕の中へと、さっきようやく戻った。

というわけで、確実にあのタイミングでマインドコントロールをかけられたのだと断定できます。

新城賢太郎

到底信じられないね。仮にそうだとして、マインドコントロールを解かれると操作者がバレてしまうのでは、事件自体は計画的であるのに、その点だけリスキーな賭けになってしまうとは思わないか。犯人像とは矛盾しているように見えるが……。

加賀春樹

いいえ。犯人は、

"自身が操作者だとバレる自信が全くなかったんですよ"

新城賢太郎

なに?

加賀春樹

一つに、現実的に考えて子供がマインドコントロールをかけるなんて夢にも思わないだろうという心理的な信用があった。二つに、操作者の力はあまりに強大で、そもそも解かれることを想定していなかった。

あるいは、解かれたところで、操作者を特定するなんてことは、普通はあり得ないことです。僕のように意図しない心理的防衛があり、そこで記憶の改変、もしくは欠如を回避するなんて方法が使われない限りは、ですが。

加賀春樹

だから、堂々とマインドコントロールをかけることができた。

一見筋が通っている

ように見えるが

新城賢太郎

しかし、一つ気になることがある。

新城賢太郎

では、加賀くんはそれを我々に "どう証明する" つもりだ?

新居宗介

加賀さん。貴方の説明はあまりに主観的なのではないかと……。

新居宗介

これでは、推理を信用することができませんよ。

新城秋穂

そうね。とてもじゃないけれど、事実として受け取れないわ。

加賀春樹

そうですね。今は受け入れられなくても、仮定として頭の片隅にでも置いていてください。

新城賢太郎

分かったよ。それで、次はどうするつもりなのかな?

加賀春樹

はい。次に、今までの推理を総合して第一の殺人の謎を一つずつ解決していこうと思います。

加賀春樹

最大の謎として、総太郎さんが椅子に座ったまま額にナイフを突き立てられて即死していた、という事実がありましたね。

新城賢太郎

そうだね。父の性質上、それは不可能だと思われている。

加賀春樹

そこでお聞きしたいのですが……。

加賀は軽く息を吸って

何かを吐き出すように言った

加賀春樹

……総太郎さんは。

新城賢太郎

……ん?

加賀春樹

"総太郎さんは、子供まで財宝を狙っていると危険視していましたか?"

「きゃっ!!」 と、秋穂は短く悲鳴をあげた

 その声は震えていて 悲痛さを物語るには十分だった

加賀は容赦なく続けた

加賀春樹

ある操作者のマインドコントロールにいくら即効性があるとはいえ、遠隔操作なんて不可能です。それこそ、人間業ではありません。必ず、操作者と操作を受ける、被操作者は対話をしなければなりません。つまり、前提として近付かないとマインドコントロールをかけることはできない。

加賀春樹

すると賢太郎さんが犯人だとすれば、マインドコントロールをかける必要なんかなくなってしまいます。どうせ騒がれてしまうのなら、初めから堂々と向かった方が安全なくらいです。

その点が、仮に賢太郎さんが強大な力を持っていたとしても、総太郎さんに騒がれずして殺害するのは不可能だと断定できる根拠となります。

加賀春樹

しかし、総太郎さんは現に椅子に座ったまま大人しく殺されているんです。マインドコントロールはかけられていたんですよ。

いいですか。綾香ちゃんは総太郎さんに近付ける唯一の人間です。それに先に話した、僕自身が一瞬でマインドコントロールをかけられてしまったということを考え合わせると、この事件の絵図をかいたのは綾香ちゃんしかいない。

新城綾香

……。

新城秋穂

待って!!

新城秋穂

綾香がそんなことをするはずないですし、そもそも額にナイフを突き立てるなんて、そんな力は大人じゃないと無理ですよ!!

新城賢太郎

大人……。

新城秋穂

………大人……大人じゃないと…‥無理……。

新城秋穂

……まさか!!

加賀春樹

そう。

加賀春樹

その大人という傀儡を、操作者は選定していた。しかし、僕という人間はどうやらマインドコントロールから解かれたのだと勘違いをした。まあ、どちらにせよ、僕はもう使えなくなったんです。

加賀春樹

残されたものの中に、"どれが使いやすい" かとなると……。

新居宗介

何を言っているんですか!!!!

傀儡の容疑者は怒鳴った

怒りは 息を荒くし肩を震わせている

当然だ

"ふふ、傀儡か"

 "それは間違っていないな"

僕は、ほくそ笑んだ

新居宗介

加賀様は、私が綾香ちゃんに操られていたと言いたいのですか!?

新居宗介

そんな非常識なことがありえますか!?

加賀春樹

この状況こそ、正にそうでしょう。

加賀春樹

ありえてしまうのですよ。

新城賢太郎

落ち着け、新居。

新居宗介

賢太郎さん……。

新城賢太郎

加賀くんの話を最後まで聞いてみようじゃないか。それから、僕たちはケチを色々と付けていこう。

新城賢太郎

まったく、馬鹿馬鹿しいよ。

新居宗介

そ、そうですね。

新居宗介

失礼ながら、加賀様の推理は滅茶苦茶だと言わざるおえません……。

蔑むように探偵を見てやった

探偵は顔を伏せて 何かを考えているようだ

滑稽だな

考えは全く持って大外れ

幾ら推理を重ねても 僕は潔白な身になることだろう

慢心を大いに楽しんだ

そこで ようやく探偵は顔を上げたかと思うと

僕と目を合わせた

加賀春樹

新城さん……。

新城賢太郎

なんだい、加賀くん?

加賀春樹

貴方も……。

加賀春樹

"新居さんをマインドコントロールにかけようと試みていたんですね"

……なに?

意味がわからない

何を言われた?

僕が固まっていると 探偵は言葉を紡いだ

加賀春樹

忘れていませんよ。貴方に不正資料を突きつけた時、漏らした言葉を。

加賀春樹

貴方は確かにこう言いましたね。

"最初しか知らないんだよ" と。

新城賢太郎

……あっ……。

何かを言おうとした

何でもいいから反論をしようとした

しかし 残酷にも言葉にならなかった

何も言えない

加賀春樹

あれは言い換えれば、"最初の事件しか自分は関与していない" ということではないのですか。

新城賢太郎

……。

新城秋穂

あ、あなた……!!

新居宗介

けん…たろうさん?

不味い

だめだ だめだ だめだ だめだ

黒幕であることを

看破されてしまう

何かを言え!!

容疑が晴れるように……

何かを……!!

「貴方は黒幕でもなんでもないですよ」

……は?

「貴方は……」

「"ただ黒幕役を押し付けられた可哀想な人です"」

 声は射るように響いた

顔を上げると 射手は加賀春樹だった

冷淡な目をしていた

加賀春樹

新城賢太郎さん。

加賀春樹

貴方も総太郎さんを殺害する計画を立ていたんですね?

新城賢太郎

あ……。

加賀春樹

新居さんをマインドコントロールにかけて、総太郎さんを殺してしまおうと考えていたのでしょう。

新居宗介

そ、そんな!!

加賀春樹

ところで、なぜ、操作者は犯人役として新居さんを選ぶのか気になりませんか。その答えは、新城家に従順に仕える執事という立場にあったからです。特に、賢太郎さんには信頼を置いていて、暗示にかかりやすい性質だった。

それに、殺人が起こって犯人探しをする際にも、ただ操られた新居さんは多くの証拠を残してしまうと予測していた。例えば、指紋や返り血です。他には、大声を上げられて現行犯となることも考えられます。

動機としても十分です。執事とは言え、財宝を狙う立場にありますし、新居さんは総太郎さんに対してよく思っていなかった節があることは、客人の僕でさえ知るところですからね。

どうですか。色々な面から、新居さんは犯人にとって好都合なんです。

新居宗介

そんなことが!!!!

加賀春樹

新城さん。貴方は自分の力を過信してしまった。日々、気付かれないように新居さん相手に暗示をかけていたのかもしれませんね。

加賀春樹

そのことを含めて、綾香ちゃんに付け入られたんですよ。綾香ちゃんからすれば、前述した都合のいい被操作者と、都合のいい操作者をプロットに使えるんですからね。

新城さんを黒幕としてでっち上げる利点として、マインドコントロールを使って統計操作したという "実績" がありますからね。これは、黒幕と推理するには大きすぎる要素です。

綾香ちゃんが黒幕であると解ることがなければ、どう推理してもマインドコントロールを使えるのは新城賢太郎しかいないという事実に陥る。貴方は選ばれるべくして選ばれた。

新城賢太郎

……………。

加賀春樹

以上の理由から、綾香ちゃんは新居さんをマインドコントロールにかけ、明確な指示をした上で総太郎さんを殺させた。

そうなると、毎日の成果がようやく実ったと貴方は勘違いをする。直接的にマインドコントロールにかけられていなくとも、殺害を指示したのは自分自身だと錯覚する。

加賀春樹

これが事の真相でしょうね。

いや

間違っている

違うだろう

それはない

それはない

新城賢太郎

それは……ない。

新城賢太郎

そんなことは、ない。

新城賢太郎

ない。

新城賢太郎

ないないないないないないないないないないないないないない!!!!!

加賀春樹

証拠としては、"貴恵さんや綾乃ちゃんが殺害されたことを、新城さんは全く知らなかったということですよ"

加賀春樹

マインドコントロールをかけた新居さんが勝手に暴走して、自分の力の範囲外へと至った結果が、第二の殺人や第三の殺人だと思っていたのですか?

加賀春樹

それにしては、密室殺人なんかは随分と計画的ですよね。貴方がマインドコントロールしていたのでは、矛盾してしまいますよ。

新城賢太郎

うるさい!!!!

新城賢太郎

僕が!!

新城賢太郎

僕が黒幕でなければならないんだよぉぉぉぉぉぉっっ!!!!!

醜い咆哮だった

自分でも解っていた

だが 理性はもうどこかへ行ったのだ

こうなっては仕方がない

仕方がないんだ

「"仕方ないわけがありませんよ"」

まただ

また、心を読みやがった

こいつ!!

加賀!!

加賀春樹

我が子が犯人扱いされて否定しているのかと思いきや、自分が駒にされていたことに激情している。あくまで、黒幕という特性にこだわり、相手をやり込めることに悦楽を覚えている。

加賀春樹

どこまでも、自己中心的な人ですね……貴方は。

新城賢太郎

くそ!!くそ!!くそ!!

新城秋穂

貴方、本気なの!?

新城秋穂

こんな幼稚なことを本当に貴方は考えていたの!?

新城賢太郎

うるさい!!!!!!

新居宗介

け、賢太郎さん……。

新居宗介

そんな……。

新城賢太郎

そもそも!!!!

新城賢太郎

僕以外にマインドコントロールを使えた奴がいるとして、犯人が綾香だということはありえない!!!!

新城賢太郎

そして、その根拠を君はまったく説明していない!!!!

新城賢太郎

すべて主観に基づいている!!!!

新居宗介

それは確かに、賢太郎さんのおっしゃる通りですし……

新居宗介

……私自身が犯人だなんて、そんな嘘はまっぴらごめんですよ。

加賀春樹

分かりました。では、第二の殺人についてもはっきりとさせましょう。

加賀春樹

最大の謎は、"密室殺人" ということでしょうね。

新居宗介

しかし加賀様、それはもう穴の発見によって否定されたことでは?

加賀春樹

新居さん。おかしいとは思いませんか?

新居宗介

何が……です?

加賀春樹

綾香ちゃんは額にナイフを穿てるほどの腕力がありません。なら、殺人を行うことができないということです。

しかし、操られた新居さんが犯人だとしても、穴を抜けるのは無理でした。密室はどう作られたのでしょうか?

新居宗介

……。

新居宗介

私が犯人だと決めつけられるのは、どうも納得いきませんが、仮の話として進めさせてもらいますと……

操作者……というのですか。その方が貴恵様にマインドコントロールをかけ、操られた犯人が貴恵様を殺害し、犯人は部屋から出ていく。残った操作者が鍵をかけて、身体的特徴から、壁に開けられた穴から脱出することができる。

加賀様は、こう仰りたいのですか?

加賀春樹

素晴らしいです。全くもってその通りですよ。

加賀春樹

例の20センチ四方の穴は、"小柄な女性か子供くらいしか" 通ることができませんでした。なら、状況から考えると綾香ちゃんが鍵をかけた後、そこを通っていったということです。

新城秋穂

信じられない……。

加賀春樹

思い出してほしいことはまだあります。

"穴の先に続いていたテレビスタンドの中が整理されていた事実"

"鍵の行方"

"物音が聞こえたという証言"

この3つです。

新居宗介

それがどうされたのですか。

加賀春樹

まずは、テレビスタンドの中が整理された事実からいきましょう。

これは、綾香ちゃんが抜け道を利用するために整理したということは自明ですが、重要なのは "中の物が元に戻されていなかった" ということです。

言い換えれば、"物を元に戻す時間すらなかった" ことになります。それはなぜなのか……。

加賀春樹

次に、鍵の行方についてです。

鍵が総太郎さんから貴恵さんに渡っていたことを知る人物は、本人である貴恵さん。そもそも提案をした新居さん。それを聞いた僕の3人だけです。

その鍵が、貴恵さんの部屋からなくなっていました。貴恵さんはポケットに入れていたようですが、部屋に持ち帰ってからずっとその中に入れておくと言うのもどうでしょうか。涼しいとはいえ、季節は夏です。風呂に入るのが普通ですよね。その際に、服を当然脱ぎます。服に鍵を入れたまま洗濯するなんてありえませんから、どこかに保管しておいたはずですよ。

それがどこにあったのか、僕は知りません。しかし、簡単には人に見つからない所に隠すのが自然です。

加賀春樹

最後に、物音が聞こえたという証言についてです。これは、新城さん。貴方が証言したことで間違いないですよね?

新城賢太郎

警察みたいな質問だね。

新城賢太郎

ああ。間違いないよ。

僕はようやく落ち着いてきていた

未だにこの男は憎いが

まあ、いい

僕の名声を傷つけたのだから 必ず借りは返してやる

無言で睨んだ

しかし 加賀は既に僕を見ておらず話していた

加賀春樹

賢太郎さんと秋穂さんが部屋の前に行ったその時、部屋から人が動いているような音がした、という証言。

僕の推理によれば、綾香ちゃんがその時、居たということになります。さあ、この3つの事実を踏まえて、よく考えてください。

新城賢太郎

……。

新城秋穂

……。

新居宗介

……。

新城賢太郎

…………まさか。

加賀春樹

新城さん。分かりましたか。

新城秋穂

な、何よ?

新城秋穂

綾香が本当にこんなことをしたとでもいいたいわけ?

新居宗介

どういうことなのですか?

穴 音 鍵

そして

密室

殺人

新城賢太郎

あ、ああ!!

証明

加賀春樹

そう。整理するとこうなります。

加賀春樹

綾香ちゃんは次のターゲットとして、新城貴恵を選んだ。寝静まった頃を見計らって、こっそりと貴恵の部屋に入る。この時は、ノックでもして貴恵さん自身を起こしたのでしょう。マインドコントロールは、対話が必要ですからね。

そして、実際に貴恵さんにマインドコントロールをかけ、操っていた新居さんを部屋へと招き、ナイフを使って殺害する。綾香ちゃんはここで新居さんを部屋から出した。その理由がわかりますか?

そうです。鍵が移行した事実を知っていたのは、"貴恵さんと新居さんと僕の3人" です。貴恵さんが亡くなれば、"新居さんと僕の2人" しかいない。物陰に隠れていた可能性も、新城さん夫婦の部屋に侵入した僕を見ている "賢太郎さんではありえない" し、食堂にいた "秋穂さんでもありえない" のですよ。残された綾香ちゃんはどうでしょう? 聞いていた可能性はゼロではありません。でも、そんなことをしなくても、操っている新居さんから "洗いざらい起こったことを吐かせる" のは容易いことです。

こうなると、"鍵がなくなったという事実自体が犯人は新居宗介である" ことを意味します。ご存知の通り、第三の殺人において、"僕はアリバイがある" んです。綾香ちゃんは、この事件の犯人を初めから告発することをプロットの中に組んでいたんです。

加賀春樹

それから、その事実を作るために必死で鍵を探したんでしょうね。しかし、なかなか見つからなかった。どこを探しても、鍵の在りかが分からない。鍵を手に入れることこそ、新居宗介犯人説を作るのに肝要なことだから、諦めきれなかったのでしょう。

そこに、新城さんたちがやってきてしまった。ノックが聞こえた瞬間、肝を冷やしたでしょうね。このままだと、自分が殺害現場にあることがバレてしまいますから。

鍵を諦めて、綾香ちゃんは急いで隠し穴から脱出したと同時に、多くの証拠を残してしまった。それが、新城さんの耳に止まった、

"人が中で動いているような音" です。

そして、

"テレビスタンドの中を元に戻すことができなかった" こと。

最後に決定的なものが、

"密室になってしまった" こと。

加賀春樹

綾香ちゃんも気付いていたことでしょう。密室にしてしまうことで、様々な事実が浮き彫りになってしまうと。ただ、目の前に2人いるのに、悠々と開けて殺人現場に招待するわけにはいかなかった。

だから仕方なく、密室を作ってしまったんです。そうすることで、何がわかってしまうのか?

それは、"新城綾香が事件現場にいたことの証明" になります。なぜなら、室内の鍵がかけられていて、自殺でもなく他殺だとわかっている状況で、古典的トリックが使われた痕跡もなく、また、そんな時間もなく犯人は室内にいたという音を聞かれています。しかし、犯人があの状況から抜け出すには、"隠し穴を通るしか方法がなかった" 。それを通れるのは、女性の秋穂さんは扉の前にいたのだから、"新城綾香ただ1人" ということです。

何も時間に関与していない者が、穴を事前に作っておくという計画的なことをする必要がありますか?

さて、この事実の重要性がわかりますか。今まで、僕視点だけしか分からないような事実を説明してきて、皆さんに納得して頂けなかったのは無理もない話です。しかし、この事実は客観的なものであり、絶対的です。

加賀春樹

第三の殺人……。これを後回しにした理由は明白です。これまでの説明を聞いていただかないと、納得できないためです。

綾香ちゃんは新居さんを犯人に仕立て上げたかった。しかし、鍵の在りかが分からずじまいで、どうしても決定的な証拠がない。

それでは、なぜ第二の殺人で現行犯にすることもできたのに、泳がせるようなことをしたのか。それは、"動機に関係している" からです。綾香ちゃんにも、こんなことをした動機があるはずです。最後まで目的を果たすまでは、傀儡を捨てることはできなかった。

そして、綾乃ちゃんは殺されてしまった。目的は果たされたんです。だから、新居さんが犯人でしかありえない状況を作った。僕と賢太郎さんと秋穂さんを一箇所に集めるように仕向け、新居さんと綾香ちゃんのみが残される。しかし、子供の綾香ちゃんがナイフで殺すことはできない。そうなると消去法で、新居さんが犯人だということになる。そして、それは事実でもあり、虚構でもある。

全てを創ったのは、綾香ちゃんでしかありえない。

"証明は以上です"

新城綾香

……。

加賀の声が響き渡ったとき 全ての鍵が外れたような爽快感があった

事件の形を埋めるには こうでしかあり得なかった

犯人は

"新居宗介"

黒幕は

"新城綾香"

これが真実

僕は?

僕はかませ犬だったのか?

僕が

この僕が

くそ

くそくそくそくそくそくそ!!

新城賢太郎

クソがぁぁぁぁっっ!!!!!

事件はこうして解かれた

マーダーゲームZERO

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