コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
事件は解かれた
新居宗介が人々に手をかけ 新城綾香が裏で糸を引いていなければ 不可能な犯罪になる
俄には信じ難いが 真相は残酷なものだった
新城賢太郎
新城賢太郎の咆哮が轟く
だが、僕には分かった
娘が殺人事件の首謀者であることより 自身がコケにされた事に怒りのボルテージが溜まり、心が壊れたのだ
プライドと自己中心的な世界が 彼の中に渦巻く
しかし、そんな事で1人の人間を 未遂とはいえ手にかけようとしたのだ
かつて尊敬した師の正体は 今では見る影もなかった
新城秋穂
新城秋穂の悲鳴が響く
新居宗介
新居宗介の絶叫が届く
新城綾香
新城綾香……
なぜか少女は、冷静だった
眉一つ動かさず 皆の様子を観察している
じっと見つめている
何を考えているのか解らなかった
心が解らない
加賀春樹
僕は……
探偵の役割を果たした
人が次々と殺されていくなか 防ぐことはできなかった
ただ 真相を解き明かすことはできた
真相
こんな残酷な真相を見せることは 正しかったのか
新城賢太郎
新城秋穂
新居宗介
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
少女が何か言ったような気がする
しかし 周りの喧騒と悲嘆がそれをかき消す
一体、何を……
新城綾香
新城綾香
新城綾香
少女……悪魔の笑い声が空気を伝った
悪意を大いに含んでおり 聞いているだけで吐き気を催した
外見は美しい可憐な少女 実態は人間性を欠如した恐ろしい悪魔
この事件の黒幕だと認識するには 十分すぎる冷酷さだった
心が壊れた傀儡たちの声は止まった
呆けたように悪魔を見ている
悪魔の心が解らなかったのではない
心はなかったのだ
悪魔は笑うのをぴたりと止めて 僕と目を合わせた
目は真っ黒だった
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
新居宗介
新居は完全に崩壊していた
記憶にない殺人
しかし、自身の手を見て 口をぱくぱくとさせている
人を殺した感覚が
ナイフで皮膚を切り裂く感覚が 思い出されたのだろうか
絶望だった
新居宗介
新居宗介
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
新居宗介
新城綾香
悪魔はニヤリとした
その笑顔に粟立った
恐怖が全身に襲いかかる
僕はなんとか口を開いた
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
秋穂は母として必死だった
母は娘に抱きついた
取り乱しているが 目一杯優しい声で聞いている
温かな顔だった
その温かな顔で 母は縋るように娘を見た
しかし 悪魔はその手を振り払った
新城綾香
新城秋穂
新城綾香
新城綾香はニッコリとした
温かな顔だった
新城秋穂
新城綾香
新城賢太郎
クズと呼ばれた実父はただ見ていた
新城秋穂
新城綾香
新城秋穂
秋穂は完全に崩壊した
髪を振り回して言葉に抗っている
目からは止めどなく大粒の涙がこぼれ 嗚咽が止まらなかった
母は今では 言葉通りの子供になっていた
絶望だった
新城賢太郎
新城綾香
新城賢太郎
新城綾香
新城綾香
新城賢太郎
賢太郎は完全に崩壊した
目が血走って震えている
怒りと恐怖で口の端には 唾液の泡が溜まっている
それが汚らしさを増大させ 見る側が辛いほどだった
絶望だった
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
僕は無言で 絶望に堕ちた3人に近付いた
1人、また1人、最後の1人
耳元で囁いて心の深奥を見た
そして、頬を叩く
患者達はショックを受けて 正気へと戻った
まだ絶望は解かれていないが 会話はできそうである
そして、 1人の少女を指差して僕は聞いた
加賀春樹
新城賢太郎
新城秋穂
新居宗介
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
新城綾乃は虚空を睨んでいた
何かを必死で考えている
この状況の打開策か
だが、ここで終わらせる
探偵は最後の追及をした
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城綾香
悲しい声だった
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
加賀春樹
新城綾香
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
「"新居宗介、お前が犯人だ!!」
「"お前が犯人!!お前が犯人!!お前が3人も殺した殺人犯だ!!"」
「うわああああああ!!」
獣の声が響いた
見ると新居は 顔をかきむしって苦しんでいる
机の物が散乱する 椅子から転げ落ちる 秋穂の悲鳴が聞こえる
阿鼻叫喚だった
新居宗介
新居宗介
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
新城綾香
新城綾香
加賀春樹
新居宗介
新居はポケットからナイフを取り出した
……不味い
新城綾乃は最終手段として 犯人だと指名された場合に暴れ出すというプログラムを組んでいたのか
恵体の新居には敵わない
ここは、逃げるしか……
新居宗介
新居がものすごい速さで走り寄り
ナイフを振りかぶった
刃先は額を目掛けて飛んできていた
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
ダメだ
死ぬ
ここで
終わる
熱い
刺されたんだ
痛い
刃が肉に食い込んで 鮮血が滴りおちている
気を失ってしまう
だが
最期くらい
格好をつけたかった
僕は吠えた
新城賢太郎
新居宗介
加賀春樹
新城さんは胸を刺されていた
大量に血が流れている
ナイフで刺している新居を 思い切り殴り飛ばした
流石の新居もよろめいて離れた
新城賢太郎は言った
新城賢太郎
新城賢太郎
加賀春樹
新城秋穂
新城賢太郎
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城賢太郎
加賀春樹
加賀春樹
僕達は走り出した
ホールに出ると、火の海になっていた
見ると 大量のポリタンクが転がっている
……やはりいない
気付けば 綾乃がいなくなっていた
そういえば 食堂にも既にいなかった
あの騒ぎに乗じて 綾乃が灯油を撒いていたのだ
それに着火して……
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
僕達は走った
先頭は僕だった
無我夢中で熱気が押し寄せるなか ただ走り続けた
書斎の前を通り過ぎる
そこで
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
新城秋穂
その時だった
加賀春樹
新城秋穂
僕と秋穂の間に天井が落ちてきた
道は分断されてしまい とても秋穂側には行けそうもない
僕は叫んだ
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
新城秋穂
新城秋穂
加賀春樹
僕は再び走り出した
熱い
今にも肌が焼け上がりそうだ
とてもじゃないが、戻れそうもない
逃げないと死ぬ
早く
早く脱出口に辿り着かなくては!!
焦りが最高潮に達したとき 目に例の非常口が飛び込んできた
加賀春樹
加賀春樹
ドオオオオオン!!
爆発音が響いた
何かに引火したらしい
耳が痛くなるほどの爆音だった
後ろでは床が大きな音を立てて 抜け落ちた
急がなくては
加賀春樹
扉に手をかける
開いた!!
その瞬間、後方から爆発が再び起こり
加賀は吹き飛ばされて意識を失った
ー25年後ー
……
加賀春樹
僕はようやく説明し終えた
テーブルに乗ったコーヒーは 既に冷めてしまっている
相手側のコーヒーも同様のようだ
量はほとんど減っていない
お互いに話に集中しすぎた
だけど、当然かもしれない
これほどの大事件が 世間で知られることもなく存在したのだ
……いや
彼女の言葉で言うなら 存在しないという真実が創られたのか
喉が渇いたので 僕はコーヒーを流し込んだ
冷たかった
相手もそれに同調して コーヒーを飲んでいた
1人の若い男が質問した
「それで結局、生存者はどうなったんだ?」
コーヒーの後味がかなり苦く感じた
加賀春樹
加賀春樹
悲惨な結末である
僕が自身の言葉にうつむくと同時に 相手方の嘆息が漏れ聞こえた
ますます辛気臭い空気になる
咳払いを二、三度してから 若い男は気まずそうに尋ねた
「そうだな……それから、あんたはどうやって助かったんだ?」
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
「それで、貴方はありのままを伝えたわけですか?」
もう1人の老いた男が聞く
加賀春樹
「そりゃそうかもな」
若い男は笑った
が、すぐに笑いを引っ込めると 神妙な顔で言った
「で、あんたも新城綾香の居所は知らないってことか」
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
「そうかも、な」
若い男はため息をついた
老いた男は考えるような表情で 一言漏らした
「彼女の心はまだ、紡がれてはいなかった……か」
心は解らなかった
僕はコーヒーをもう一杯注文した
「はい」
店員が近付いてくる
金田
加賀春樹
金田
金田
金田
女は戻って行った
カウンターでは楽しそうに 夫婦がコーヒーを淹れながら話している
夫婦が経営しているこの喫茶店は 昔からずっとある
" KANEDA Coffee "
この喫茶店の名前だった
金田という姓名は確かだが 下の名前は知らない
金田直人 金田涼子
これは僕の幻想だった
しかし 無意識とは無から作られるものではない
必ずどこかに、答えはあるのだ
目の前の2人には黙っておいて 無心でコーヒーを飲む
今度は熱かった
加賀春樹
加賀春樹
「動機なんて幻想だけどな。後からつくられるもんさ」
若い男は投げやりに言った
「それはそうかもしれないが、それでも彼女を知るには手がかりになる。無下にはできないぞ」
老いた男は嗜めた
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
加賀春樹
「……そうだな」
「そうですね」
2人の男は頷いた
僕は……
僕は心を確かにした
……
空に浮かんでいたのは 眩い太陽だった
その姿を眺めていると 自身が解放されるのではないか
そんな妄想が働き 思わず目を合わせてしまった
……が 当然の如く日光によって目が痛む
目下に転じると 青々と澄んだ海があった
その姿を眺めていると 自身が解放されるのではないか
そんな妄想が働き 思わず目を合わせてしまった
……が 当然の如く反射によって目が痛む
結局 太陽と海を挟んだ中途半端な地点に 目を這わせた
私は、何故なんだろうと
問うてみた
新城綾香
答えはなかった
代わりに 海鳥がきゅーきゅーと独り言をいう
数羽の純白と漆黒が混じる海鳥が 優雅に岩礁の上で休んでいる
あれは、家族だろうか
それとも ただの友達同士なのだろうか
いずれにせよ 疑問が更に増えただけである
彼らはなぜ 心が通じあったように暮らしていけるのだろうか
人間などは 上手く暮らしているようで大小問わずの諍いが絶えない生き物だ
人間と他の動物の間には 何があるのか
心、だろうか
しかし 動物にも心があるという研究も盛んになってきているではないか
なかには 植物までも、単細胞生物さえもが心の存在を指摘されることがある
それが本当だとしても 何かが違うということだけは確かだ
人間以外にも心があるとして その差異は質的な問題だろう
すべての生物がプログラムが組まれているイメージを持っても、人間はあまりにも素子が多すぎるのだ
故に、全体構造が複雑なのである
人はその存在を"心"と呼んでいる
だから
だから 人間以外の動物を見ると謎が生まれる
そうでしょう?
新城綾香
返す言葉は
いつまでもなかった
探偵もいなかった
場所はあの時と同じなのに 景色は全く違っている
堤防に腰掛けた私は どう映っている?
新城綾香として映っているだろうか?
新城綾乃……
だから言ったじゃない
新城綾香
声は消えていく
何故だろうか
夜の月と海を見ているより
救いを求める今の方が
とても辛くて悲しかった
辛い? 悲しい?
あら、何を言ってるのかしら
私は……
新城綾香
新城綾香
答えはなかった
新城綾香
新城綾香
答えはなかった
新城綾香
新城綾香
パタパタッ
私の声で休んでいた 海鳥達が驚いたようだ
空高く飛び立って行った
しかし一番驚いたのは 私自身だった
私が感情を波立たせている
いつぶりだろうか
20年前……
いつしか私は 20年前のことを思い出していた
……私がまだ綾乃だったとき
新城綾香
……ふふ
私がなるべき存在
この子は、もう用済みね
本を取りに行くふりをして 横目で様子を窺う
淡い陽光に照らされる 可憐な少女
少女は事も知らずに 静かに本を読んでいた
その隙に 本棚に隠してあったゴム製手袋とナイフを取り出す
手袋は万が一のため 指紋が一切残らぬよう厚めにしておいた
もちろん 大人を想定したサイズのため ぶかぶかだった
本来の機能を果たすため 指先までしっかりと着用する
次に肝心のナイフだ
柄には 「K・S」とイニシャルが彫ってある 新城賢太郎の特注品である
手に取ってみると 幼い自身の手に収めるには難しいほど 一回り大きさがあった
見た目通り ずしりと重さが伝わってくる
このために 全てを事前に用意していたため あとは堂々と行為に及ぶだけである
途端に脈拍が速くなる
息も乱れる
軽く汗ばむ
私は自身が人間であることを 自明であるはずだが改めて実感する
……人を殺す時って、結構怖いのね
でも チャンスはここしかない
これで 私を縛るものが無くなる
縛る側は私だけで十分
これからの世界は私が創っていくの
……そう
そのための犠牲として
……別に、貴方個人に恨みはないけれど 貴方を消すしか道はないのよ
新城綾香…… ……いえ、新城綾乃さん
ゆっくりと歩みを進める
ぎぃ、ぎぃと嫌な床の軋む音がする
他には 遠くからうっすらと3人の哀れな羊たちの不毛な議論が聞こえてくる
それに 目の前の少女がページをめくる 心地よい乾いた音
静謐と殺伐は共存していた
緊張する一瞬のうち ますます心臓は運動を速める
落ち着いて
確実に一歩一歩、足を動かすだけ
そして 腕を軽く運動するだけで終わる
大丈夫、大丈夫よ
ぎぃ……ぎぃ
彼女はこちらに背を向けていた
絶好のチャンス
……今!!
袖に隠したナイフを取り出し 思い切り振り上げた
瞬間
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
綾香が振り返った
私は咄嗟に腕を組み 手袋とナイフを袖の下に隠した
そんな様子を綾香はじっと観察する
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
まずい
棚をごそごそとする音がして 普段何冊も読みふけっている妹が 手ぶらで姉の背後に立っている
不審極まりない行為である
それでも 何とか言い訳をしないと……
新城綾乃
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾香
……変に鋭いところがある
それも何だか気に食わないので 罪悪感を感じないために動機を強化する要素として使える
……いや、そんな場合ではないわね
これも 上手くかわさなくては
新城綾乃
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾香
そう言って 綾香は一脚の椅子に腰掛けて目を閉じた
……うふふ
愚かで疑うことを知らない姉
残念だけど ゲームオーバーよ
そろりと腕を解く
ぎゅっとナイフの柄を握りしめ 気配を消して大きく上げる
狙いは脳天だ
さあ、これで終わり!!
新城綾香
新城綾乃
心臓が止まるかと思った
ぴたりと体が硬直して 視界がくらくらした
恐る恐るみると 綾香は目を閉じたまま微笑んでいる
私が何も言えないでいると 勝手に姉は話し始めた
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
ダメだ
早く殺ってしまわないと
生かしておけない危険な存在だ
歯を食いしばる
それでも なぜかわたしの体は動かず、綾香は臆することなく言葉を吐く
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
綾香は依然、目を閉じたまま答える
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾香
何が、何が言いたい?
どこまで知っている?
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
奇妙な状況である
これから殺そうとする相手から 殺害方法のアドバイスをもらっている
悪い冗談で済まされない
済まされないと分かっておきながら なぜだ?
何故なのかしら?
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾香
新城綾乃
喉にグッとナイフを押しつける
綾香の首から一滴の血が流れる
尚も絢香は微笑んで話した
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾乃
新城綾乃
新城綾乃
ナイフを持つ手に力を込める
新城綾乃
新城綾香
新城綾香
綾香は目を閉じたままだ
その隙間から 涙のしずくがこぼれ落ちている
もう嫌だ
辛いよ苦しいよ悲しいよ
終わらせてやる
新城綾乃
私なんてこの世に生まれ落ちなければ 幸せだった
綾香はそう言っていた
それなら こんな思いをしなくて済んだんだ
でも逆だよ
綾香が先に産まれたんだから
私の方こそ いなくなれば良かったんだ
だから
だからこそ!!
私が私であるために
私は、新城綾乃ではなく 新城綾香として生きるんだ!!
こうして 心の糸は裁ち切られた
……
新城秋穂
新城綾香
燃え盛る炎
この館を包み込む炎は 親子を再会させてしまった
もう、見られたくなどなかったのに
それに……
新城綾香
新城秋穂
新城綾香
新城秋穂
新城秋穂
新城綾香
新城秋穂
新城秋穂
新城綾香
新城綾香
新城秋穂
新城秋穂
ああ、鬱陶しいわ
やっぱり 会わなければ良かった……
後悔して辺りを見る
パチパチと建物を侵食する炎
時折、ドカンと崩れる音が響く
もう、長くは持たなそうだ
見切りをつけて立ち去ろうとした
母の横を通り過ぎる時 ふっと声をかけられた
新城秋穂
新城秋穂
新城綾香
新城秋穂
……まただ
どいつも、こいつも
私に対する侮辱をする
そんなものなくとも もう既に、綾香として生きる私には 不要な協力だ
1人で生きていける
私は無視をして 早足で別の出口へと向かう
新城秋穂
か細い声が聞こえた
次の瞬間
ドオオオオオン!!
鼓膜が裂けるかと思うほどの とてつもない爆発が起こった
火器類にでも引火したのか
炎が加賀が逃げたであろう方向へ ものすごい勢いで伸びていった
目で追えないが 巻き込まれれば死んでいるはずだ
……どちらでもいいわ
まだキーンと鳴る耳を押さえて さっさと去ろうとした
新城秋穂
振り返ってみると 先ほどから崩れかかっていた屋根が落ちてしまっている
秋穂……母は下敷きになっていた
新城秋穂
新城綾香
冷たい視線で見下ろす
慈悲なんてかけるつもりはなかった
ただ、私は自分を確認していた
この事態に対してどう思うのか
これは天罰か? それとも……
炎は轟々と揺らめいた
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
新城秋穂
バゴン!!!
あっと思った時だった
完全に瓦礫が崩れ落ちてきた
もう、絶対に助けられなかった
その刹那に
新城秋穂
母は言葉と笑顔を遺した
……
新城綾香
新城綾香
すべて 自分が望んだことだったはず
あの日から誓ったはず
そう、私は許されないことをした
だから全てを受け入れて 悪に堕ちる決意をした
もう、後戻りなどできない
どうせ、心は壊れているんだ
そうでしょう?
新城綾香
新城綾香
新城綾香
新城綾香
太陽は逃げなかった
いつまでも 狂った心を明瞭に映しだした
しかし もう景色には何もない
そこにあったのは
ただ『マーダーゲーム』という 継ぎ接ぎの心の残骸が一つ
彼女のなかに浮かんでいた