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胸の奥でざわめきが鳴っているのに、街の音はどこか遠い。 みんなが俺を見る。期待という名の光を当てて、"象徴"や"理想像"というラベルを勝手に貼り付ける。
ユカコ
セイヤ
その言葉は信頼に似ていて、けれど重い。肩に積もり、背に沈み、いつのまにか本当の俺を覆い隠していく。昔からの友達でさえ、少し距離を置くようになった。偶像になりすぎた俺に、どう触れればいいのか分からないのだろう。俺自身も触れられない。夜になると、その重さは形を持つ。 静まり返った部屋の中で、昼間に浴びた視線や言葉がゆっくりと再生される。拍手の音も、称賛の声も、少しの疑念も、全部が混ざりあって、胸の奥で鈍く鳴る。 期待に応えられなかったらどうしよう。 誰かを傷つけてしまったらどうしよう。 焦りと不安は、静かに、しかし確実に胸を締め付ける。逃げ場はない。弱さを見せる場所もない。 頼られる側でいる方が、楽だ。崩れなくて済むから。心配かけなくて済むから。 誰かの支えでいる限り、自分が揺れていることは隠せる。 だから、俺は窓の向こうの空を見上げる。 澄んだ青は、誰の価値も映さない。 何も背負っていない顔で、ただ広がっている。 風が髪を撫で、光が瞳に揺れる。その一瞬だけ、呼吸が軽くなる。 空はただ在る。 誰かに評価されることも、期待されることもなく。 家族は、見てくれた。 期待でも評価でもなく、ただ「俺」を。 何かを成し遂げあからではなく、失敗しても、迷っても、立ち止まっても、ただそこにいる俺を。 あの視線の温度を、今でも覚えている。 でも、もういない。 あの温度が消えてから、「見てくれる」ということがどれほど尊いものだったかを知った。 仲間はいる。声をかければ、きっと支えてくれる。きっと話も聞いてくれる。 それでもーーーー迷惑をかけたくない。 勝手に"象徴"にされて、勝手に"頼られる側"に置かれて、気づけば弱音を吐く場所をなくしていた。 強いと思われる方が、街の王様(偶像)のまま立っている方が、壊れなくて済む。 本当の俺を見せた瞬間、失望されるかもしれない。 「なんだ、そんなものか」と思われるかもしれない。 その想像だけで、胸がきしむ。
街の人
街の人
いろんな期待の声が聞こえる。 それに応えると決めたのは自分だ。 けどーーーー
恵美まどか
恵美まどか
恵美まどか
恵美まどか
恵美まどか
あいつの発言ももっもだと思う。 俺と同じで何かを抱えているあいつ。 似ていると思うし、似てないとも思う。 "あの時"のあいつの言葉が今でも心に響いている。あの雨の時の言葉があるから、ますます俺は空になりたいと思う。 何も抱えていないように見える、あの青に。けれど、本当は知っている。空は何も抱えていないわけじゃないことを。 雲も、嵐も、雷も、冷たい雨も、その奥にある。ただ、崩れないだけだ。 もし俺が空になれたなら、弱さも、喪失も、孤独も、全部抱えたまま、それでも静かにいられるだろうか。 誰かに期待されても、裏切られても、理解されなくても、それでも広がり続ける強さを持てるだろうか。 澄み渡る青を見つめながら、小さく息を吐く。期待の重さも、不安の影も、消えはしない。 それでも、手放せない想いがある。 背負うと決めたものがある。 誰かの光になりたいと願ったのも、この場所に立つと決めたのも、結局は俺自身だ。 だから逃げない。揺れたままでもいい。壊れかけていてもいい。この広さに少しでも近づけるなら、自分を失わずにいられるなら。空のように、完全でなくてもいい。 せめてーーーー嵐を抱えながらも、立ち続ける存在でいられるように。