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広間を見渡せる特等席に座れることを今夜ほど嬉しく光栄に思ったことは無い
吸い込まれるように美しい白髪、神秘的な光を宿した紫色の瞳、真っ白な肌、整った鼻梁、優美で上品な立ち振る舞い
金の魔法陣が刺繍された黒い外套があまりにも似合っているし、トレードマークのガーネットのピアスが耳元で揺れているのが最高にカッコいい
由緒正しい男爵家の二男で、人柄は清廉潔白そのもの
その上それをちっとも鼻にかけない謙虚な方
誰にでも後輩で優しくて、神様が気まぐれで帝国に遣わした天使というか聖人というか…もはや人と同列に語ることは許されない
どこを切り取っても完璧な男性…彼こそが我が帝国が誇る最強魔術師初兎様、僕の推しだ
彼はその天才的な魔術手腕で若くして数々の手柄を立てていたのだけど、他国からの侵略を退け、国境を守りきったことにより、英雄としての呼び声が高くなっている
だけど、僕からすれば英雄なんて呼び方は生ぬるいし、彼を崇め称えるには不十分だと思う
そんな初兎様が今、この広間に降臨している
これを奇跡と呼ばずしてなんと呼ぼう
僕は感動のあまりむせび泣いた
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ひっきりなしにやってくる挨拶の合間を縫って、僕はお父様に耳打ちをする
今夜この会場に初兎様を招待してくれたのはお父様だ
僕自ら推しを招待するなんて、おそれ多くてとてもできない
だけど、誕生日に初兎様の正装姿をひと目拝めたんだもの
どんな宝石よりも、ドレスよりも、ご機嫌とりの美辞麗句よりも、最高の誕生日プレゼントに決まっている
帝国の歴史に書き加えるべきだと思うほど素晴らしい所業だ
父
父
半ば感心、半ば呆れたような微笑みを浮かべつつ、お父様は僕のことを見遣った
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初兎様の横顔を見つめながら、僕はゆっくりと目をつぶる
彼を推しはじめて既に4年
ちっとも熱が冷める気配がないというか、永遠に冷めないでほしいというか、一生推し続ける気満々だ
こうして初兎様のことを考えている時間が最高に幸せだし、人生が光り輝いている感じがする
今後、誰かに苦言を呈されたところで、考えや行動を改めるつもりはない
父
父
僕が決意を新たにしたその瞬間、お父様が急に改まった様子でそんなことを言い出した
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父
父
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僕ももう16歳
お母様が早死したせいで兄弟がいないから、僕が次期皇帝になる予定だ
本当はお父様には今からでも遅くないから再婚してほしいところだけど、本人の意思が固いから無理だろう
だから、さっさと身を固めて国を安定させるために頑張らなきゃなぁと思っているのだけど
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父
父
父
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言いながら、僕はチラリと視線を動かす
年齢も同じだし、皇帝の血を引いているし、優秀で美形だから、彼が僕の夫になるんだろうって前々から予想していた
他にも候補がいないわけじゃないけど、僕の提示した最低条件を満たす人かどうかを見極める時間とかを考えたら、彼を選ぶのが手っ取り早いもん
父
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僕の問いかけに、お父様はすぐに頷いた
それから、背後に控えた従者に目配せをし、僕のほうへと向き直る
父
父
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とそのとき、僕は自分の耳を疑った
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爽やかで透明感のある極上の低い声音
神様がいるならきっとこんな声をしているんだろうなぁと思うほどに綺麗で、美しくて、それから神々しい
耳から喜びが広がって、全身の細胞が若返ったかのような心地がする
ゆっくりと振り返ったら、僕の推しが…初兎様が目の前にいた
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間違いない、初兎様の瞳の中に僕が写っているもん
こんなこと、許されるんだろうか?
っていうか、同じ空気を吸っていていいのだろうか?
いや、息を止めるわけにはいかないんだけど、ありがたすぎて息をする間も惜しくなってしまう
父
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お父様と初兎様が親しげに挨拶を交わしはじめた
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頭のなかが完全にお祭り状態。自分でもどうかと思うけど、こればっかりはねぇ…病気だから仕方がない
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そんなどうしようもない僕に向かって、初兎様は優しく微笑みかけてくれた
どうしよう…嬉しすぎて涙が出てくる
推しに誕生日を祝ってもらえるなんて、幸運すぎる
僕、皇女に生まれて本当によかった
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とはいえ僕はこれでも皇女
みっともない姿を周りに晒すわけにはいかない
実際の感情の100分の1ぐらいの言葉を口にして、ニコリと優美に微笑んでみせる
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なっ! なな! な、な、ななな! なんで⁉ 一体何が起こったの! どうしよう…僕今、初兎様に手を握られている!
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だけどその割には五感がバッチリと存在している
なめらかな肌の手触り
温かくて、それなのにひんやりしていて、杖ダコの感触がゴツゴツしていて
初兎様にピッタリの爽やかで神秘的な香水の香りが鼻腔をくすぐって、密やかな息遣いが聞こえてくるようで
初兎様、ファンサービスが過剰すぎません?
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もちろん、こんなことをしてくれるのはお父様に頼まれたからだろうけど、それにしたって最高すぎる
心のなかで何度も何度もお礼を言いつつ、僕は初兎様をがっつり見つめた
だって、この機会を逃したらこんなふうに手を握っていただけて、しかも名前を呼んでもらえる機会なんてないに違いないんだもの
しっかりと目と心に焼き付けておかなきゃ、だ
父
お父様の声にハッとする
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僕は居住まいを正しつつ「はい」と小さく相槌を打った
父
父
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お父様がニコリと笑う
次いで初兎様に視線を移すと、彼は困ったように微笑んだ
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どうしよう、どうしよう、どうしよう!
どうやらとんでもないことが起こってしまったらしい
僕は驚愕に目を見開いた