ひどく、寒かったのを覚えている。 その日は天気が悪くて。 降る雨と冷たい風に、 ―――ベタな状況だな。 なんてことを漠然と感じた。 目の前には無機質なフェンスが張ってあって。 廃ビルも形だけ「そういう事」の対策をしているのが分かる。 ふと下を見ると、おなじみのアスファルトと時折走っていく乗用車が見える。 何となくフェンスに手を掛けた。 そのまま上る真似事をしてみた。 「どうせ、止める奴なんていねえんだろ?」 そんな呟きが漏れた。 いっそ、このまま飛べば、 ニュースで報道されたりして。 少しだけ世間が俺に注目したりするんだろうか。 そんな馬鹿なことを考えた。 よれた制服が濡れて重くなっていく。 遠雷が聞こえた。この雨はいつまで降るのだろうか。 まるで世界が俺を追い出そうとしているような。 そんな錯覚に襲われる。 溢れようとする涙を、雨粒だと自分に言い聞かせて。 意味なんて無かった。ただ――――に会いたくて。 今の時代。 友情も。愛情も。割と何でも金で買える。 でも。 消えた人間は買い戻しできなかった。 「もう、いいや。」 不覚にもそんな言葉が出た。 生きる意味がどーとか。 今生きている今日がどーとか。 そんな言葉よりも欲しい言葉があった。 「ね、きみ。」 まずい。誰か来たのか。 「なんかごちゃごちゃ考えてるみたいだけど。」 『皆さ、意味なんてないのかもしれないよ? 死んでないから生きてる。ただそれだけって。 そうやってシンプルに考えるのも、悪くないんじゃない?』 「……誰だよ、あんた。」 「知りたい?」 「…………」 「いずれ分かるわよ。だから……」 「また会いましょう。」 そう言って彼女は階段を下りていく。 不思議と追いかける気はしなかった。 でも、 「ああ、また会おう。」 雨はほんの少し、弱まっていた。
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ポケモンのDLC最新情報でたぜいえい