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野嶋隆

つまりね、私達は………

野嶋隆

"化け物と対峙しているということだ"

化け物、か

……面白い響きね

私は可笑しくて笑いそうだったが 一同は真剣なようだ

新城綾香

で、その化け物を打ち倒すにはどうすればいいのか、という話かしら。

野嶋隆

それもあるな。しかし、その化け物は一体何をやってのけたのか、これを明らかにしよう。

神崎隼也

明らかにしようって……野嶋さん。どうやってですか?

野嶋隆

推理だよ。神崎くん。

神崎隼也

推理……とは言え、一体…。

野嶋隆

分からないかな。

新海拓馬

おい、じいさん!
まさか、その化け物みたいな犯人が僕達にしたこと……それが、わかるとでもいうのか!!

野嶋隆

ああ。わかるとも。

新海拓馬

い、一体なんだっていうんだ?

また 野嶋の面相は険しくなり

こう断定した

野嶋隆

"記憶操作"だよ。

新海拓馬

きおくそうさ……?

中村雨音

記憶操作って、記憶を、あの、改変……と言うか、改竄することですか?

野嶋隆

そういうことだな。

新海拓馬

おい、じいさん!
ふざけてる場合じゃないだろが。

野嶋隆

ふざけてなんかいない。私は推理の結果、この記憶操作が犯人によって、私達に行われたと確信した。

新海拓馬

は、はぁ?

神崎隼也

分からない……ですよ。

皆、混乱している

陰謀論めいていて 簡単に受け入れられるものではないだろう

それを見越してか 野嶋は説明を始めた

野嶋隆

いいかい。これだけの人数が同じタイミングで、同じ箇所の記憶を失っているんだ。

野嶋隆

集団ヒステリーなんてものは、この際通用しないだろう。それに、随所で犯人によって示唆される事件の展開。

これは明らかに作為的なものであり、犯人が記憶操作を行なって、私達を拐引したと考える他ならない。

新海拓馬

おい待て待て待て!!

野嶋隆

何だね、新海くん。

新海拓馬

何だね、じゃねえだろが。
その記憶操作か、それがあると仮定してだな。僕達にそんなことできる奴がいるって言うのかよ。

新海拓馬

組織的犯行じゃないんだろう?
なら、単独犯でそんなことをしでかす野郎がいることになる!

野嶋隆

一人だけ、いるんじゃないかね。

新海拓馬

一人だけ…?

神崎隼也

……まさか。

中村雨音

嘘……そんな。

野嶋隆

ああ、そうだ。

視線が私の網膜に集中する

ああ、今疑われているのか

野嶋隆

"新城綾香"
あなたが犯人だ。

新城綾香

……。

神崎隼也

し、新城さんが?

新海拓馬

や、や、や、やっぱりこの女じゃねえかよ! おい!!

中村雨音

う、嘘。新城さんが犯人だなんて……野嶋さん、何か根拠でもあるんですか?

野嶋隆

根拠か。これだよ。

野嶋が一冊の本を出す

私にはよく見覚えのある本だ

タイトルは 「心は紡がれている」 と書いてある

……そう、これは

野嶋隆

貴方の本だ。新城さん。記憶操作……または、心理操作と表現した方が、より正確かな。

野嶋隆

貴方の著書の中には、これに該当した記述がある。

新海拓馬

そうか。確かにそうだ。
心理操作が確実に僕達に行われているとするなら。さらには犯人が単独犯なら。"新城にしかできねえ"!!

神崎隼也

ま、待ってください野嶋さん。
心理学が専門だからといって、そんな心理操作が可能かどうかなんて…。

野嶋隆

本文を引用してみようか。

そして私の稚拙な文を読み上げた

「……タイトルにあるように、心というものは紡がれている。人の行動、発言は意思に基づくものである。この意思を服に例えるならば、それを構成するファクターは糸に当たる。この糸を自在に編んだり結ったり、ほどいたり切ったりする事が可能になると、自分好みの色やデザインの服が完成する。それはつまり、意思の乗っ取りは実際問題として不可能ではないということだ。メカニズムは、時に人を壊す無秩序と化してしまう」

野嶋隆

……だそうだ。正に、今の状況に酷似してないか。

新海拓馬

ま、まんまじゃねえか。

中村雨音

ほ、本当なんですか新城さん!

意見を求められている?

でも どうしようかなあ

"早かったなあ"

神崎隼也

なんとか言ってくださいよ。
新城さん。

新城綾香

……。

中村雨音

新城……さん。

野嶋隆

黙るのなら、もう少し言わせてもらおう。

新海拓馬

まだあんのかよ!
もう真っ黒じゃねぇか。

野嶋隆

犯人はこの事件を解き明かしてもらいたいようだったな。それに、この状況を楽しんだり、事件の展開が進むように手がかりを"あえて"沢山残した。

野嶋隆

それは新城さんの本の中に、その思想が相似している部分がある。

さらに野嶋は 「心は紡がれている」 の最終ページ

そこに書かれた一節を読んだ

「……心は醜く美しいものである。この心が揺れ動く時、人は世界を創造する。この心理の移ろいは、私を満たす。そして私は、この移ろいを芸術に捉える」

野嶋隆

……このことからも、犯人は事件というものを作り上げ、作者の気持ちで私達、探偵役が懊悩する姿を見て楽しんでいた。

野嶋隆

その為には、それなりに推理力を備えているものを集めなくてはならない。……そうしないと、事件は解決できないのだからな。

野嶋隆

この思想……いや欲求か。これを満たす為に、自身を追い込む証拠までたくさん残したんだ。そうじゃないのか……

「新城さん」

聡明な老人は よく通る声で言い切った

場はすっかり静まっている

誰もこれ以上は 言葉を出そうとはしない

そう、待っているのだ

私が話し出すのを

野嶋隆

……。

……ふふ

"馬鹿ねぇ"

新城綾香

……あらあら。

新城綾香

……野嶋さん、貴方は馬鹿ですか?

野嶋隆

……なに?

新城綾香

言いたいことは沢山ありますけども、まさかそれだけの根拠で私を追い込んだおつもりでしょうか。

新城綾香

「心は紡がれている」というこの本は、確かに私が書いた本です。しかし、それは"言葉の綾"というものです。

野嶋隆

言葉の綾だと?

新城綾香

ええ。例えば、最初に述べた「タイトルにあるように……」の箇所ですけれど、私はその後にこう記しています。

「……しかし、こうした公共の福祉に準じない誤った知識の悪用は、断固禁ずるべきである。心理学は、国民の心の健康の保持増進に寄与できるよう、福祉的なものとして扱われなければならない。では、先程の服に例えたメカニズムを有効に扱うには、どういった用法で適切に行われるものなのか…」

私は暗唱してみせた

新城綾香

その本には確かに今述べたような事が明確に書かれています。証明は簡単ですわね。その本にちゃんとあるんですから。

新城綾香

「心理は醜く美しい…」というご指摘頂いた箇所についても、私は自分の欲求なんかを満たすためではないですし、芸術として捉えるという言葉は何の後ろめたさもない純情の上に成り立った言葉ですわ。

新城綾香

そうした解釈の相違を確固たる根拠として利用するのは、悪意として映ります。大変遺憾、ですわねぇ。

新海拓馬

……じいさん、この女の言ってることも一理あるぜ。

神崎隼也

新海?

新海拓馬

じいさんが言ったことは全部、観念の中の状況証拠にしかならないと思う。

新海拓馬

この女がどんな思想を持っていようが、それは証拠ではなく推測に終わっちまう。こいつは仮にやってたとして、自白もしねぇだろ。だったら、無理がある。

野嶋隆

しかし我々は、確実に心理操作が行われているんだぞ。それは事実だ。そこにハマるピースは新城綾香。この人物しかいない。

野嶋隆

最も気にかかるのは、"橘真衣の写真"を受け取っていたことだ。これは、犯人である貴方が癒着していることの証明じゃないか。

新城綾香

全く証明にならないわ。あのとき私は、雨音ちゃんと橘真衣の密会を不審に思っていたわよね。それは何か犯人に関係する事実に違いないと直感したの。

新城綾香

橘真衣は最初から、異常なほど落ち着いていたわ。私自身も冷静になれる質だけれど、自身が犯人じゃないことは知ってる。
だから、全てを見透かしたように見る彼女の目を見て、あの子を疑ってかかった。

新城綾香

「何かを隠してるんでしょ」って、側から見れば強い物言いと形容してもいいほど問い詰めたわ。すると、素直に吐露してくれたというワケ。

野嶋隆

本当なのか?

新城綾香

逆に嘘と言い切れるかしら?

野嶋隆

…………全く、手強いな。

どうやら老人は諦めたらしい

最初から無理だとわかっていて 少しの希望から自白を狙ったに違いない

あとは 形式的に追求するだけだ

新城綾香

それに何も触れなかったけれど、なぜ犯人は密室にしたのかという問題。夜と夜明けに雨音ちゃんが聞いた異音の問題。自殺のカモフラージュと殺人を仄めかす証拠から類推される犯人像の相違。

新城綾香

解決していない事柄はたくさんあるの。これを問題視しないのが不思議でしょうがないわ。

……まるで

新城綾香

まるで、"犯人のなすりつけ"って感じねぇ、野嶋さん?

野嶋隆

……。

神崎隼也

ま、まぁ、あまり言い合っても仕方がないですよ。二人とも。

神崎隼也

この話は、これ以上続けても堂々巡りするでしょう。予定通り、お互いの事件当夜のアリバイや証言を聞いていきませんか……いや、その前に確認しておきたいこともあるな。

新海拓馬

……何だよ?

神崎隼也

工具だよ。工具を隠し持ってる奴がいたら、そいつの部屋から出てくるだろう?

中村雨音

あ、そうだったね。
話に夢中で忘れちゃってた……。

新城綾香

じゃあ、まずは部屋を見てまわりましょうか。

中村雨音

あ、待ってください!!

中村は橘真衣の部屋へと入っていき すぐに戻ってきた

手には 化粧道具が持ち出されている

中村雨音

……これ、部屋を見た時にあったんです。多分、真衣ちゃんの形見だと思います。処分されるなら、私が真衣ちゃんを受け継いで使ってあげたいなって、思ったんです。

神崎隼也

……へぇ。中村って化粧するんだ。

中村雨音

するよ。高校生だけど、休みの日とかには自分の部屋でやってみたりするの。

神崎隼也

ふーん、そういうもんなのか。

新海拓馬

どうでもいい。早く行くぞ。

中村雨音

やっぱり、新海くん嫌い!

私達は 工具のありかを探しに行った

野嶋隆

………………。

しかし 念入りに各自の部屋を探したのに

工具はどこにもない

みーんな焦り始めた

さて

どこにあるのかしらねぇ

私は大いに楽しんだ

…………

私達は食堂に舞い戻った

ここに来るときは いつも疲れているようで

やはり 皆はどっかと椅子に座った

そして 儀礼的に新城と中村は厨房へ行き

男陣はただ黙る

しばらくすると 夕食が運ばれてきた

神崎隼也

……さあ、各自のアリバイについて話し合いましょう。

神崎隼也

まず俺からいうと、アリバイはないです。昨日の0時過ぎに眠って、朝まで起きてないですから。あと、23時頃に中村が聞いた音、ですか。それについても、俺は聞こえてないですね。

新城綾香

私もないわね。1時頃に眠ったから、殺人のあった23時頃には起きていた、ということになるけれどね。音も聞いてないわ。

中村雨音

わたしも、ずっと起きてるって言いましたけど、それを証明する方法もないですから、ないのに等しいですよね。

新海拓馬

ずっと起きてたけど、僕もないね。あとは同じだ。

野嶋隆

私は……あれ、新海くんが証明してくれるんじゃないか?

新海拓馬

あ、そうか。そう言えば、じいさんは確実にアリバイがあるってことだな。

神崎隼也

そうか。新海が付きっきりで寝ずの番をしてくれていたから、アリバイを証明できるんですね! 野嶋さん!

新海拓馬

ちっ。僕はじいさんと相互監視したわけでもないから、アリバイは結局ないってこった。

新海拓馬

全く、いいことないな。

野嶋隆

すまない、新海くん。君には助けられてばかりだな。

新海拓馬

……おう。別にいいよ。

神崎隼也

……とにかく、アリバイの確認は全員済みましたね。何か、メモするものでもあればわかりやすいんだけど……。

中村雨音

あ、わたし部屋からとってくるね!

中村が駆けていった

すぐに戻ってきて 恐らく、もともと部屋にあったメモ帳を持ってきた

中村雨音

ペンもありましたから、わたしがメモとっておきますね。

神崎隼也

ああ、頼むよ中村。

神崎隼也

……次に聞くべきは、昨夜起きたことについての証言かな。

神崎隼也

俺はアリバイの説明の時にも言ったけど、特にないんだ。

新海拓馬

ずっと起きてたけど、別に気づいたことなんかないよ。

新城綾香

私もないわねぇ。

野嶋隆

私も承知の通りない。

中村雨音

わたしはもう言いましたけど、昨日の23時と朝の4時に、真衣ちゃんの部屋の方から何か音がしたんです。

中村雨音

……で、わたしの記憶に頼ることになるんですけど、確かその音は、"扉の開閉音"でした。

野嶋隆

開閉音? と言うと……

新城綾香

犯人は一度部屋に入ったきり、4時までそこにいたんじゃないということ?

中村雨音

そうなんです。確かに、23時にはドアを開ける音がして、それから10分くらいすると閉まる音がしたんです。朝の4時にも、入る音と、5分くらいしてから閉まる音がしましたから、ずっとこもっていたわけではないようなんです。

野嶋隆

それは妙な話だな。死後硬直を待つのなら、人と出会うリスクもないし、ドアスコープも付いている扉なんだからずっと部屋にいればいいはずだ。

新海拓馬

わざわざ犯人は、時間をおいて二度訪問した……何故だ?

さっぱり分からない

中村雨音

………メモ、置いときますね。

野嶋隆

ああ……ありがとう。

それからはもう、沈黙が続いた

野嶋隆

……。

神崎隼也

……。

新海拓馬

……。

中村雨音

……。

新城綾香

……。

私は考えた

先程の新城との対話

あれは一つの賭けだった

しかし 結果は芳しくなく、見事に反論された

賭けとはいうものの この事件のを絵を描いたのは 新城綾香しかいない

また、何かが足りない

輪郭は見えてきたのに 犯人だと断定できる証拠がない

それは 新城自身が指摘してきた事件の細部

そこに真相があるのか

野嶋隆

……。

神崎隼也

……。

新海拓馬

……。

中村雨音

……。

新城綾香

……。

解らない

真相が、解らない

野嶋隆

……。

神崎隼也

……。

新海拓馬

……。

中村雨音

……。

新城綾香

……。

皆、コーヒーを飲んでいる

私は右手でカップを持ち ブラックのままコーヒー飲んだ

神崎はミルクを入れてスプーンを左手で持ち かきまわしている そして右手でカップを持ちコーヒーを飲んだ

新海は右手でカップを持って ブラックのままコーヒーを飲んだ

中村は意外にもブラックのまま 右手でカップを持ってコーヒーを飲んだ

新城もミルクを入れている スプーンは右手で持ちかきまわしている そして左手でカップを持ちコーヒーを飲んだ

右 左 右 左 右 左 右 左 右 左

ずっと思考は落ち着きがない

何かを思いついては却下し 何かを繋げては却下し

右往左往しているのだ

野嶋隆

……。

神崎隼也

……。

新海拓馬

……。

中村雨音

……。

新城綾香

……。

私は立ち上がった

野嶋隆

……もう、解散しましょうか。

神崎隼也

……えぇ。そうですね。

野嶋隆

みんな、部屋の戸締りはちゃんとしておくんだ。各自、ドアに鍵がついているはずだからな。

神崎隼也

はい。わかりました。

中村雨音

わかりました。

新海拓馬

……言われなくてもやるっての。

次々と席を立つ

私は、ポケットをまさぐる

野嶋隆

時間は……

懐中時計を見た

時刻は19時30分だった

まだ朝が来るまでに時間はあるが 私達は解散した

色々とわかったようで 解らない

何度議論を重ねようが 今のままでは何も結論なんか出ない

朝を待つのが得策だ

野嶋隆

……寝ようか。

それだけ言って、私は床に入った

…………ス

コロス

コロス ベキダ

ジタイハ ヨクナッテ イル

コノママ イカシテオケナイ

カノウセイハ ツブスベキダ

カノウセイ

イツシカ

ヒトヲ ソンナモノデシカ

ミレナクナッタ

イノチナンテ キゴウニスギナイ

ソウダロウ?

タチバナ マコト

2日目の夜

一輪の花が散った

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