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第1話 - あ

2023年08月23日

#恋愛

結城　真矢

マキコ

今どこにいるの！ユカリさん、早く自首しなさい！

ユカリ

えっ、いきなりなんですか？お義母さん

マキコ

しらばっくれないで！スズちゃんはね、あなたに虐待されて死んだのよ！

マキコ

今から葬儀よ。まだ5歳なのに、可哀想に…

ユカリ

虐待？ちょっと、何の話ですか？スズちゃんって誰ですか？

マキコ

自分の娘の名前も忘れるなんて、それでも母親！？

ユカリ

私の娘？

マキコ

私のことが嫌いなのも怖いのもいい。だから今まで連絡しなかった

マキコ

だけど、今回ばかりは許せないわ！

マキコ

そりゃあ、子育ては大変なことよ。私も母親だからよくわかるわ

マキコ

時には苛々して手を上げたことだってあった

マキコ

だけど、自分の子供を邪魔になったから殺すなんて、人間のすることじゃないわよ！

ユカリ

待ってください！私、誰も殺してません！

マキコ

嘘おっしゃい！ツバサが泣きながら言ってたのよ！

マキコ

嫁がスズを虐待して殺したんだ…って

ユカリ

私、子供いませんけど

マキコ

へ？

ユカリ

そもそも、ツバサとは6年前に離婚が成立してます

ユカリ

しかも、私の不妊とあっちの浮気が原因で

ユカリ

疑うなら戸籍謄本もお見せします

マキコ

ちょっと、それ本当？私そんなの全然聞いてないわよ！

ユカリ

ツバサには『お義母さんは不妊のお前にカンカンに怒ってるから連絡するな』って言われてました

マキコ

何それ…私ユカリさんが不妊だったなんて知らなかったし、そんなことで怒ったりしないわよ

マキコ

というか、私も6年前から『ユカリは姑である母さんが嫌いで怯えてるから連絡するな』

マキコ

って言われてたんだけど…それから一度も顔を合わせてなかったし…

ユカリ

え？私、お義母さんのこと嫌ってないですし、怯えたこともありません！

マキコ

そう…つまり、ツバサは自分の不倫と離婚、再婚を隠してたってわけ…？

ユカリ

そうだと思います。あの時、『浮気相手が妊娠したから再婚する』って言われたんですけど、

ユカリ

その時の子供がスズちゃんって子なのでしょうか

マキコ

多分ね…今まで、ユカリさんの子供だとばかり思っていたわ

マキコ

さっきはごめんなさい。あなたの言い分も聞かずに罵ってしまって

マキコ

しかもうちのバカ息子が不倫して相手を妊娠させたなんて…本当に情けないわ

ユカリ

もういいんです。昔のことですし。お義母さんも、お辛いですよね。お孫さんが亡くなって…

マキコ

えぇ。スズちゃんは本当に素直な良い子で、ツバサもスズちゃんを溺愛してた

マキコ

ところが、ツバサが仕事で忙しくしている間に、

マキコ

母親がスズちゃんを虐待してバットで殴り、死なせたんですって

マキコ

しかも母親は、姑息にもバットの指紋をふき取った後、

マキコ

スズちゃんの死を確かめることもなく男と駆け落ちして出て行き、

マキコ

ツバサが見つけた時にはもう、息絶えていたって…

マキコ

スズちゃんの体中に、打撲の跡があったらしいわ…

ユカリ

可哀想に…正直、ツバサの浮気で出来た子だと思うと複雑でしたけど、子供に罪はないですよね

ユカリ

スズちゃんのためにも、早く母親が見つかることを祈ってます

マキコ

ありがとう、ユカリさん

～数時間後～

ユカリ

ツバサ、久しぶりだね

ユカリ

私達が離婚したこと、お義母さんには隠してたのね

ツバサ

あぁ…母さんから連絡が来たのか？

ユカリ

うん。お陰で自分の子を殺すなんてって言われたわ

ユカリ

誤解は解けたけど、私が通報されてたらどうするのよ

ツバサ

ごめん、ユカリを巻き込んで…

ユカリ

謝るんじゃなくて、説明してほしい

ユカリ

私達に嘘を吹き込んでまで、離婚と再婚の事実を隠そうとしたわけを

ツバサ

だって、再婚相手のチトセはどう考えても母さんの気に入るタイプじゃない

ツバサ

しかも、浮気して妊娠させたなんて知れたら、母さんに絶縁されるかもしれないと思ったんだ

ツバサ

ほら、母さんって浮気とか不倫とか大嫌いだからさ。だから、なかなか言えなかった

ツバサ

ユカリの子だということにしておけば、母さんもスズの面倒をよく見てくれてたし

ユカリ

だからって、殺人の濡れ衣なんて着せないでほしいわ

ツバサ

ごめん！そんなつもりじゃなかったんだ！スズの死があまりにショックで、

ツバサ

母さんに再婚のことを知らせてないのを忘れて、つい『嫁が殺した』って言っちゃったんだ

ユカリ

そう…スズちゃんのこと、残念だったわね

ツバサ

あぁ。俺の命より大切な娘だったのに…。チトセは連絡が取れないし、まだ見つかってない

ツバサ

チトセの奴、許せねぇ！

ツバサ

そして、もっと許せないのは気付かなかった俺自身だ…

ツバサ

俺は父親失格だ。俺が殺したのと同じだ…

ユカリ

ツバサ…

ユカリ

ツバサが忙しくしてる間、ずっとチトセさんが家でスズちゃんの面倒を見てたのよね

ツバサ

あぁ。俺がもっと気にかけていれば…

ユカリ

でもおかしいのよ。私、チトセさんと共通の知り合いである同僚がいるんだけどね、

ユカリ

その人いわく、チトセさんは二週間以上前から海外に駆け落ちしてるらしいのよ

ツバサ

え？

ツバサ

そんな同僚、いたのか？

ユカリ

えぇ。従姉妹が幼馴染とかなんとか言ってたわ。それから一度も帰ってきてないって

ツバサ

…そんなの、何かの間違いだ！

ツバサ

チトセが殺したんだからな！

ユカリ

そっか…

ユカリ

でも、もし新たにチトセさんの居場所の手掛かりなどがわかったら、知らせるわね

ツバサ

もう放っておいてくれ！お前には関係ない！首突っ込まないでくれ！

ツバサ

娘が死んで悲しいんだ！傷口を抉らないでくれよ！！

ユカリ

…わかったわ

ツバサ

すまない…せっかく協力しようとしてくれてるのに…

ユカリ

ううん。スズちゃんを殺した犯人、早く捕まるといいわね

～数日後～

ツバサ

■不在着信■

ツバサ

おい頼む、ユカリ、匿ってくれ！

ユカリ

え？ツバサどうしたの？

ツバサ

頼む、元妻のよしみで、何も聞かずに家に匿ってくれないか？

ツバサ

今お前の家の前まで来てるんだ！慰謝料として渡したろ！開けてくれ！

ユカリ

その家、とっくに引っ越したわよ

ツバサ

はぁ！？

ツバサ

じゃあ、今の住所教えてくれよ！

ユカリ

その前に、訳も聞かずに匿うなんてできるわけないじゃない

ツバサ

…わかった。説明するよ

ツバサ

実は、警察に疑われてるんだ

ツバサ

スズを殺したのが、俺だって…

ツバサ

酷いだろ！俺は娘が死んで辛い思いをしてるのに、俺を疑うなんて！

ツバサ

だから警察から匿ってくれ！

ユカリ

私が匿ったところでいつまでも逃げられるわけじゃないわ

ユカリ

無実なら、警察に堂々とそう説明すべきじゃない

ツバサ

お前はわかってないんだ！日本の警察の取り調べがどれほど恐ろしいか！

ツバサ

どれほどの冤罪を生み出しているか！

ツバサ

だから逃げるしかないんだ！

マキコ

あんたに関しては冤罪じゃないけどね

ツバサ

へ？

ツバサ

ユカリ、母さんをいつの間に追加してたんだ！？

マキコ

このクズ息子！よくも私を騙してくれたわね！！

マキコ

スズちゃんをユカリさんの子だなんて嘘ついて…それだけじゃない

マキコ

スズちゃんを殺したのが、他でもないあんただったなんてね！

マキコ

警察が今あんたを探し回ってるよ！

マキコ

前の家の近くにいるのがわかったから、さっき警察に知らせたわ

ツバサ

違う！誤解だ！殺したのはチトセだ！

ユカリ

ツバサったらバカね。チトセさんは二週間以上前から駆け落ちしていてアリバイがあるのよ

ユカリ

そんな嘘、警察の捜査ですぐバレるに決まってるじゃない

マキコ

そう。そして家宅捜査や幼稚園、近所の証言で、

マキコ

スズちゃんを虐待して殺したのはあんただったと確定したのよ

ツバサ

そんな…

マキコ

ツバサ、答えなさい

マキコ

どうしてあんなに可愛がっていた娘にそんなことしたの？

マキコ

自分の子供なのに…

ツバサ

…じゃなかったんだ

マキコ

は？

ツバサ

スズは、俺の子じゃなかったんだ！

ユカリ

ちょっと待って、つまり…托卵されてたってこと？

ツバサ

あぁ。チトセが男と駆け落ちして出ていくまでは、幸せな家族だった

ツバサ

だが、チトセが出て行ってから、嫌な予感がしてDNA鑑定をしてしまったんだ

ユカリ

それで、わかってしまったのね

ツバサ

あぁ。その途端、今まで目に入れても痛くないくらい可愛がってきた娘が、

ツバサ

急に憎くて、どうしようもなくなったんだ…

ツバサ

元凶であるチトセは怒りをぶつけようにも目の前にはいない

ツバサ

俺はチトセと浮気相手にぶつけるべき怒りを全て、スズにぶつけた

ツバサ

それなのに、いくら殴っても蹴っても、

ツバサ

お前は俺の娘じゃない、って何度言ってやっても、

ツバサ

あいつは『パパ大好き』『わたしのパパはパパだけだよ』って言いやがるんだ…！

ツバサ

母親がいない分、余計に甘えてきやがる

ツバサ

それに耐え切れず、バットで殴り殺してしまった…

ユカリ

そんな…

ツバサ

あいつが悪いんだ！あいつが生まれてこなければ、俺は…！

マキコ

チトセさんに罪を擦り付けたのは、復讐の為だったのね

ツバサ

だって、こんなことになった元凶はチトセなんだ！全部チトセのせいなんだ！

ツバサ

チトセが殺したも同然だ！俺じゃない、俺は悪くない！

ユカリ

ツバサが辛い思いをしたのはわかるし、同情もする

ユカリ

それでも人を、小さい子供を殺していいことにはならないわ！

ツバサ

うるさい！お前に何がわかるんだよ！裏切られた気持ちが…！

ユカリ

わかるわよ！私だって、他でもないあなたに裏切られたもの！子供だって作られて…

ツバサ

うっ…

ユカリ

それで、スズちゃんを殺してどう？スッキリした？ざまぁみろって思う？

ツバサ

いや…虚しいし、後悔しか残らない…

マキコ

大体ツバサ、辛い思いをしてるなら、母親である私に相談してくれたらよかったのよ

マキコ

いくらでも力になれたわ

ツバサ

言えるわけないだろ！ユカリと離婚したことも、チトセと再婚したことも、

ツバサ

ずっと隠してたんだから！

マキコ

それでも、今よりはマシな結果になったはずよ！

マキコ

そんな大人の事情なんか、スズちゃんには関係ないわ。隠したのはあんたの選択よ

マキコ

たとえユカリさんの子じゃなくても、あんたの子じゃなくても、

マキコ

私にとってやっぱりスズちゃんは可愛い孫だったし、亡くして辛い

マキコ

あの子を殺したのがあんただったってことも辛いわよ…

ユカリ

ツバサ、観念して罪を償いなさい。スズちゃんの為にも、お義母さんの為にも…

ツバサ

畜生…なんで、なんでこんなことに…

ツバサ

スズ、ごめんな…ごめんな…

～後日談～

ユカリ

その後、ツバサはガックリと項垂れながら出頭し、逮捕されました

ユカリ

ツバサは裁判でも一言も言い訳をせず、懲役20年の実刑判決が言い渡されました

ユカリ

刑務所でも後悔しながら、辛い日々を送っているのだそうです

ユカリ

チトセさんはというと、あれから浮気相手に捨てられており、

ユカリ

ツバサが逮捕された直後に連絡を受けて帰って来ました

ユカリ

そして、スズちゃんがツバサに殺されたことと、その理由を知ってこちらも後悔で泣き叫びました

ユカリ

今では廃人状態になりながらも、身寄りのないチトセさんは生活費を稼ぐために

ユカリ

ボロアパートに住みながら必死でパートを掛け持ちして働き、

ユカリ

どこのパート先も長続きしないのだそうです

ユカリ

義母のマキコさんは、何度もスズちゃんのお墓参りに訪れています

ユカリ

私は少し巻き込まれただけでしたが、後味の悪い事件でした

ユカリ

皆さんにも知ってほしいです

ユカリ

浮気や不倫は、誰も幸せにしない

ユカリ

そして一番不幸になるのは、罪のない無力な子供なのだと

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結城　真矢

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