テラーノベルの小説コンテスト第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

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病棟のシンデレラ

第1話 - 出会い

2023年07月28日

#ミステリー

#恋愛

#恋愛系

#サスペンス

#一次創作

#テノコン2023夏

ふかみどり

エミの目が開く。映るのは真っ白な天井。

エミ

（どこなの、ここ）

ベッドから起き上がり、周りを見る。

エミ

……

殺風景な個室の病室。花柄のワンピースがハンガーにかけられ、床にはパンプスが並べて置かれている。

エミ

（私の……服と靴？）

レースカーテンから光が差し込む。呼び出しボタンを見つけて押してみる。

……2分後

医師

良かった、目が覚めたんですね。

エミ

あの、私はなぜここに？　ここはどこなんですか？

医師

覚えていない、ですか？

エミ

はい。何も。

医師

ここは中部区の緑が丘病院です。この病院の近くの公園で倒れていたんですよ。それから２日も眠ってました。

エミ

中部区……公園……記憶が無いです。

医師

お名前と連絡先を教えてください。身分がわかるものを何も持ってみえなかったので、ご家族に連絡できていないんです。

エミ

エミです。苗字は……あれ、えっと……わかりません。連絡先も……どうしよう、思い出せないです……

医師

その記憶もないんですね。

エミ

……はい。

エミ

痛ててて

エミ、頭を抱える

医師

大丈夫ですか？

エミ

すごく、頭が痛いです。あと、すごく怖い、恐怖感みたいなものが……

医師

頭痛はずっと眠っていたのでその影響でしょう。恐怖感、は記憶をなくしている影響かもしれません。突然病院にいて不安が大きいでしょうから。あとでお薬を出しておきますね。

エミ

はい……お願いします。

医師

脳の詳しい検査がしたいのでしばらく入院してください。またあとで看護師が説明にきます。

エミ

わかりました。

医師

それと、お荷物ですが、貴重品はナースセンターで預かっています。それも看護師に届けさせます。

エミ

ありがとうございます。

医師、出て行く。

エミ、カーテンを開けて外を見る。山の上にあるのか森林が広がっていて、遠くに街が見える。

エミ

（どこなんだろう、ここ）

しばらくぼんやり外を見つめるエミ。

テレビをつけてみる。流れたのは芸能ニュース。次々とチャンネルを変えていく。

エミ

（つまらない番組しかやってない……）

……1時間後ノックの音。

エミ

はい。

看護師

失礼します。入院の説明をさせていただきますね。

エミ

お願いします。

入院の説明を受けるエミ

看護師

……以上です。何かわからないことは？

エミ

入院の期間はどれくらいなんでしょうか？

看護師

検査の結果次第ですので、今はなんとも言えません。

エミ

……そうですか。

看護師

こちら処方されたお薬です。こっちは鎮痛剤。こっちは抗不安薬。
袋の指示通りに忘れずに飲んでくださいね。

エミ

わかりました。

看護師

あとは、預かっていたお荷物をお返しします。

看護師、小さな紙袋を机に置く。

エミ

ありがとうございます。

エミ、紙袋の中を見る。入っているのは財布だけ。

エミ

これだけ、ですか？

看護師

ええ。そうですよ。

エミ

スマホとか、バッグとかは……

看護師

待って見えなかったですよ。待っていたのはそのお財布だけでした。

エミ

そう、なんですか……

エミ

……

看護師

気分転換に院内を歩いてみるのもいいかもしれませんよ。
また何かあればナースコールしてください。

看護師、出ていく。

エミ

（持ち物が財布だけ。それで公園に倒れてた？）

エミ

（一体何があったの？）

エミ

（それに私は何者なの？何も思い出せない。でも、とてつもない恐怖感だけは残ってる……）

エミ

（ここにいてもだめだ、少し院内を散歩しよう）

財布を開けてみる。中身は一万円札と、ポイントカード類。身分がわかるものは何も無い。

財布を持って病室を出る。

廊下に出たエミはフラフラと歩き始める

エミ

（コーヒー飲みたい）

エミ

（そっか、私コーヒーが好きなんだっけ）

休憩スペースに到着し、自販機の前で財布を開く。

エミ

（あ、小銭が無いんだった）

ガタンッ

自販機から缶が落ちる音。振り向くと左手にギプスをした一人の若い男が立っている。

男は缶コーヒーを取り出してエミを見る。

？

何が飲みたいですか？

エミ

え？

？

小銭、無いんですよね？

エミ

まぁ、そうですけど

男は何も言わずにポケットから小銭を出して自販機に入れる。

？

好きなの押してください。

エミ

え、でも

？

迷惑じゃなければ、奢りますよ。

爽やかな笑顔をみせる男

エミ

（よく見るとこの人すごくカッコいい）

エミ

じゃあ

エミは男と同じ缶コーヒーのボタンを押す。ガタンと缶コーヒーが落ちてくる。

男は缶コーヒーを取り出す

？

はい、どうぞ

エミ

ありがとうございます。

？

一緒に飲みません？

エミ

えっ

？

あ、すみません、名前も言わずに。
僕は内田一馬といいます。事故してちょっと前から入院してて……

エミ

（内田……）

エミ

そうなんですか。それは大変でしたね。

一馬

まぁ、命があっただけよかったです。

一馬

屋上、行ったことありますか？
一面緑なんで、リラックスできますよ。

エミ

……じゃあ少しだけ

一馬

こっちです。

歩き始める一馬について行くエミ

屋上のベンチに座っているエミと一馬

一馬

お名前、聞いてもいいですか？

エミ

エミです。

一馬

エミさん。エミさんはおいくつですか？

エミ

……

一馬

あ、すみません！いきなり失礼でしたね。

エミ

いえ、そうじゃなくて……わからないんです。

一馬

わからない？

エミ

記憶が、無いんです。何があってここに来て、私が誰なのかも。

一馬

えっ。そうなんですか……

エミ

記憶が無いなんて普通思わないですから。気にしないでください。

一馬

でも、年齢は僕と同じくらいに見えますよ。20代半ばくらいかな？

エミ

一馬さんはおいくつなんですか？

一馬

僕は26です。

一馬

エミさんは、名前以外覚えてないんですか？

エミ

はい。あ、でもさっき内田って聞いた時なんか聞いたことあるような感じがしたんです。

一馬

うーん、それは僕ではない内田さんですね。

エミ

ということは、一馬さんにお会いしたことは無いんですね。

一馬

はい。ないですね。エミさんに会ってたら、僕が忘れるわけないですし。

一馬のまっすぐな視線に思わず目を逸らすエミ。

エミ

え、えっと。あとそうだ。お財布は持ってたみたいで。

エミ、財布を開ける。

エミ

一万円札一枚と、あとはポイントカード。

エミ、ポイントカードを取り出す。

一馬

あ、それ

エミ

これですか？

一馬

そう、東部区にあるスーパーのポイントカード。

エミ

そうなんですか。知ってますか？

一馬

知ってるもなにも、僕の家そこの近くです。高級スーパーだからそんなに行ったことないですけど。

エミ

……高級スーパー

一馬

そこの惣菜が美味しくて。たまに仕事終わりに自分へのご褒美で買うのが楽しみなんです。

エミ

へぇ、どんなお惣菜ですか？

一馬

じゃがいもに明太子とチーズとバジルがかかってて、ビールのつまみにしてたんです。

エミ

明太子とじゃがいもと……バジル……あぁ、なんとなく思い出しました！私もそれ食べたことあります！

一馬

ほんとですか！

エミ

私は……白ワインと一緒に飲んでました。美味しいですよね。

一馬

一緒のもの食べてたなんて、すごいですね！他のことは？　なにか覚えてたりします？

エミ

いえ……全然。家族のことも仕事のことも知りたいことはたくさんあるのに。

一馬

家族と仕事、ですか。一番生活に密着してることですもんね。

エミ

一馬さんは仕事、何してるんですか？

一馬

僕は銀行の営業です。

エミ

へえ。なんかすごい頭良さそうですね

一馬

はは。たいしたことないですよ。毎日お金のことばかり考えて、しんどくなることもあります。やりがいもありますけどね。

エミ

お金……

一馬

え？

エミ

あ、ごめんなさい。私財布に一万円しかなくて、これから先が不安なんです。
何も思い出せなかったらどうしようって。

一馬

自分のことがわからないって相当つらいことですよね。

エミ

公園で倒れてたみたいなんですけど、なんでそんなところで倒れてたのか、それがわかれば記憶の糸口が掴める気がして……

エミ

痛っっ

エミ、頭を抑える

一馬

大丈夫ですか？！

エミ

はい……思い出そうとしたら頭が……

一馬

すみません、僕が無理に思い出させようとしてしまったから。

エミ

いえ、私が思い出したいんです。

エミ

少しでも多くの刺激を受けて私自身のこと早く思い出したい。

エミ

だから、話しかけてくれて、話を聞いてくれて嬉しかったです。一人だったら思い出せなかったですから。

一馬

明太じゃがバジルのこと？

エミ

そう、明太じゃがバジル。

エミ

ふふ

一馬

……笑うと、もっと可愛い。

エミ

……（照れるけど嬉しい）

一馬

あー、食べたくなってきた。明太じゃがバジル。

エミ

私も

一馬とエミ、微笑み合う。

一馬

ちょっと冷えてきたし戻ろうか。立てる？

エミ

うん、大丈夫。

エミ、立とうとしてふらつき、座り込む。

一馬

病室まで肩貸すよ。何号室？

エミ

……ありがとう。301号室

一馬

じゃあ行こう。立てる？

エミ

うん、ごめんね。怪我してるのに。

一馬

全然。右肩めちゃくちゃ元気だから！
ほら、つかまって。

エミ、一馬の肩を借りて歩いていく。

301号室の前

エミ

ありがとう。助かった。

一馬

いえいえ。

エミ

……じゃあ

一馬

あのさ、僕305号室だから。何か話聞いて欲しいとかそういうのあれば、いつでも来てよ。

エミ

わかった。ありがとう

一馬

じゃ、また

エミ

うん

一馬、自分の病室に戻っていく。エミ、病室に入る。

エミ

（正直、自分で歩けた。でも頼ってしまった）

エミ

（なんだか初めての暖かい感情とぬくもりを感じてつい甘えてしまった）

エミ

（私、今まで恋愛とかしてきたのかな？）

エミ、壁にある鏡の前に立つ。映るのは青白い顔の自分の姿

エミ

（私、すっぴんだ。こんな顔で一馬くんに会ってたなんて……でも化粧品もないし。そうだ、私、結構ばっちりメイクしてたはず）

エミ

（なんで財布しか持ってなかったんだろう。スマホもポーチも……そう、バッグにいつも入れて持ち歩いてたはずなのに！）

エミ

痛っっ

エミ、頭を抱える。

エミ

（少し休もう）

エミ、ベッドに横になる。

病棟のシンデレラ

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