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「私と付き合って!」

ああ、またこの展開だ。

魔法を使うしかない。

「明くん、私じゃだめかな」

まただ、この体質は本当に厄介だ。

「明、私と付き合わないか?」

いい加減にしてくれよ、本当に。

俺は関わった異性に、 必ず恋愛感情を持たれてしまう、 謎の体質を持っている。

魔法使いの家系であるという以外、 なんてことない普通の高校生だというのに。

美雨

お兄ちゃん待ってよー!

妹の美雨が、 俺を一生懸命追いかけている。

カバンの中を注意深く確認していないから、 この展開はあれかもしれない。

なんだ、騒がしい。何か用か?

美雨

お弁当忘れてるよ。せっかく作ってあげたんだから、ちゃんと持って行ってよね!

妹からの手作り弁当。

可愛く健気な美雨は、 俺に好意を寄せている。

ありがたくいただこう。じゃ、急いでるからあとでな

美雨

美雨は両腕を広げて立ち尽くしている。

なんだよ

美雨

行ってきますのギュウがまだでしょ

どこの兄妹がそんなことするんだ。

高校生にもなって何言ってんだ。ほら、さっさと帰りな

美雨

おっと、その手には乗らないよ

俺が頭を撫でようとすると、 美雨はその手をはねのけた。

ちっ、バレたか

美雨

魔法攻撃はお見通しなんだから

魔法で体質を相殺する技。

相手の頭に触れさえすれば魔法がかけられるのに、 魔法の存在を知っている美雨はことごとく阻止してくる。

わかったわかった、いいから帰れって。どうせ今日も学校行く気ないんだろ?

美雨

うるさいなあ、行く気はあるけど、他にもやることがたくさんあるから行けないだけだよ

美雨は事あるごとに、 理由をつけて学校に行こうとしない。

両親は甘やかしてばかりだ。

そうかよ、俺は学校だからな、もう行くぞ

美雨

ギュウしてよ!

ああ、本当にしつこい奴だ。

こんな公共の場でできるか!

美雨

じゃあ、家に帰ってきたら絶対にしてもらうからね!

そう言って美雨は、 走って家に帰っていった。

一日の始まりは大体こうだ。

もちろん、これだけではない。

私立風雷高校、 勉強と部活の両立がモットーの進学校だ。

希来里

明! おはよう!

おはよう

俺の幼馴染の希来里だ。

人生全てがモテ期のくせに、 俺にべたべたで離れようとしない。

希来里

今日の部活は少し遅くなっちゃうかも

俺も大会近いから同じぐらいだと思うぞ

俺はサッカー部、 希来里は吹奏楽部に所属している。

かなりの仕事量で忙しいだろうに、 俺の帰宅時間に合わせようとしてくる。

希来里

私、サッカー部のマネージャになればよかったかなあ

いや、トランペットだっけか、やりたいことできてんだからいいだろ

俺と違って才能があり、 努力もできる、 そんな奴をマネージャにさせるものか。

希来里

そうなんだけど……

なんでそこまで俺にこだわるんだよ

この質問をすると、 毎回同じ答えが返ってくる。

希来里

だって、私は明の、未来のお嫁さんだもの

はいはい、そうでしたねー

幼稚園の頃から変わっていない。

そりゃ内心は嬉しいけれど、 俺は絶対に、 ありきたりなラブコメ展開に、 巻き込まれたくないのだ。

希来里

もう、またそうやって適当に返すんだから

わかったから、授業始まるぞ

こんな調子で対応するのが大変だ。

俺の体質が年々強さを増し、 今では関わりの浅い人でも、 俺に好意を寄せるようになってきた。

大丈夫ですか?

プリントが廊下に散らばっている。

見過ごすことは出来ない。

女子生徒

あ、えっと、ありがとうございます

重そうですね、運びますよ

女子生徒

いや、あの、お願いします……

名前も知らない、 なんなら学年さえ違うかもしれない。

ここまでで大丈夫ですか?

女子生徒

はい、えっと、あの、この後一緒にお昼でも……

絶対にそうはならないだろ。

これだからこの体質は……。

お気持ちだけ、受け取っておきます

俺はそっと女子生徒の頭を撫でる。

撫でたいから撫でているわけではない。

こうしないと魔法がかからないのだ。

女子生徒

あ、はい

では、俺はこれで

また一人、 俺の追っかけになるところだった。

一息ついたのも束の間、 開いていた窓から強風が吹き、 プリントが宙に舞う。

女子生徒

ああ、またプリントが……

プリントを掴もうとした女子生徒は、 窓の外に身を乗り出して、 今にも落ちそうになっている。

危ない!

プリントも女子生徒も、 外に落ちることはなかった。

ただ、一つだけ最悪なことがある。

女子生徒

やっぱり、この後お昼を一緒に……

ああ、いや、それは……

女子生徒

どうしてもお礼をしたくて……

俺の魔法は再び触れるとすぐ解ける。

しかもしばらく、 同じ相手に同じ魔法は使えない。

こうなったら選択肢は一つ。

今日は予定があるので……また今度で!

女子生徒

あ、せめてお名前だけでも……!

こういう時は逃げるに限る。

これ以上対象者を増やさないために、 日々奮闘しているのだが、 注意しなければいけない人物が、 まだ一人いる。

岸川先生

さあ、これからテストを返却する。お前ら並べー

担任の岸川先生だ。

担当教科は保健体育、 女子バスケ部の顧問でもある。

今日は保健のテストの返却日、 俺の番がまわってきた。

岸川先生

明、ここ空白じゃないか

いや、そこは……

岸川先生

なんだ、恥ずかしくて答えを書けなかったのか? この私が直々に実践授業でもしてあげたほうがいいか?

違います、ただ分からなかっただけですよ。勘違いしないでください

岸川先生はこんな感じで、 ナチュラルにセクハラをしてくる。

しかも俺にだけ言ってくるという点が、 かなり面倒くさい。

岸川先生

遠慮しなくていいんだぞ? 私はいつでも実践授業は大歓迎だ

ちなみに実践って何するんですか

岸川先生

そりゃあ、あんなことやこんなことをだな……

聞いた俺が間違ってましたよ……

本当に何か狙っていそうで怖い。

岸川先生

そうか、こういうお誘いは夜のほうがもえるか?

そういうことじゃないです

岸川先生

年上は初めてか? それともまだ……

もう早くテスト返してください!

やっとテストを返してもらえた俺は、 速やかに自分の席に戻った。

こんな調子で、 忙しいラブコメ展開満載の、 一日が過ぎていく。

これを回避するために、 俺は魔法で相殺し続けているのだが、 どうも俺には、 魔法使いの才能はないらしい。

魔法に関しては普通以下の、 役に立たないレベルだ。

美雨

お兄ちゃん、おかえり

ただいま、美雨。結局学校行かなかったのか

美雨

行かなかったんじゃなくて、行けなかったの! いいから、今日も魔法の練習するんでしょ?

ああ、そうだけど、お前には関係ないだろ

美雨

お兄ちゃんひどい! 私のおかげで少しは魔法使えるようになったくせに

それは誤解だ。

かろうじて基礎的な魔法は使える。

俺の今の目標は、 この体質を完全に消し去る魔法を、 使えるようになることだ。

バカ言うなよ、少しぐらいは使える

美雨

私には勝てないけどね

俺たち父子より、 美雨たち母子のほうが能力が高い。

俺だって努力はしてる、ただ、才能がないだけで……

美雨

そうだね、魔法使いはほとんどが才能だもん。だから私には勝てないもんねー

言っていることは事実だから、 反論は出来ない。

じゃあ、今日はお前が実験台になるんだ

美雨

え、何、セクハラ?

違う! 洗脳の魔法をかけるから、どこまで打ち破れるのかやってみてくれ

美雨

そんなの簡単だよー、お兄ちゃんの魔法よわよわだもん

くそ、後悔させてやるからな……!

今に見てろ

美雨

望むところだよ

俺は美雨の頭に手を乗せ、 心の中で魔法を唱える。

どうだ?

美雨

あれ、魔法かけた? 何も感じないけど

無意識のうちに魔法を解いてやがる。

次はもう少し集中して……。

もう一回。いくぞ

美雨

はーい

俺は再び美雨の頭を撫でる。

美雨の魔法耐性は凄まじい、 手がはじかれそうだ。

これでどうだ

美雨

ふむふむ、まあ、かかってるなーって感じ。はい、これで元通り!

解除が早すぎる。

やばい、もう魔力が……。

すまん、少し休憩させてくれ

美雨

もう? お兄ちゃん、魔力も少ないし体力もないもんね

言われるのは悔しいが仕方ない。

俺にも才能があればなあ

美雨

別に得ばかりじゃないと思うけどね

きっと美雨は美雨なりに、 苦労しているのだと思う。

ああ、美雨はよく頑張ってると思うぞ

美雨

じゃあ、私と付き合ってくれる?

それはまた別の話だ

美雨

えー、ケチ

ケチとかの話ではない。

俺の気持ちも考えてくれ。

もっといい男がいるさ

美雨

結局お兄ちゃんは誰が好きなの?

確かに考えたこともなかった。

俺は結局、誰と結ばれたいのだろう。

さあな、気長に見つけるよ

美雨

つまんないの、私にすればいいのに

体質のせいでおかしくなってるだけだ。現実を見ろよ

美雨

それは、どうだろうね

やけに意味深な感じだ。

とりあえず俺はこの体質をなくす。それが恋愛の始まりだよ

俺のラブコメ展開回避はまだまだ続く。

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