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べに
べに
べに
特に明確な理由なんて無い
お母さんに何から何まで決められるのも虫酸が走るけど
なんだかこのままじゃ 一生満たされない気がして
考え始めたら吐き気を催すの
そして口を突いて出る
べに
そっとカッターに手を伸ばして
優しく手首に当てる
やや力を込めて刃を押し付けて あとは横に動かすだけ
でも
怖い
思考に意味を持たない人形ごときが
いてもいなくても変わらないような 空気ごときが
死にたいなんて愚かにも考えて
奇跡的に神様から そのチャンスを作って貰えたのに
死ねない
今ここで死ぬのが最善なのに
死にたくない
あんなにも醜く 死にたいと嘆いていたのに
べに
ぼろぼろと涙が溢れてくる
呼吸が苦しい
手首の硬い感触が心臓を冷やす
色々な感情が混ざりあって爆発して
頭が、顔が、やけに熱い
べに
カシャンという音をたてて
カッターは地面に落ちた
お母さん
お母さん
べに
ありすというのは私のことだ
お母さんは私のことをありすという 名前にしたかったらしく
お父さんが勝手に私の出生届の 名前にべにと書いて提出したのを 恨んでいて
私のことを絶対に べにとは呼んでくれない
お母さん
お母さん
お母さん
べに
お母さんが棒立ちしている私に黒い ゴスロリのワンピースを着せていく
遺伝のせいか中学二年生になっても 背が小さいままで胸もあまりない私は
お母さんのお人形だ
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
べに
お母さん
お母さん
お母さん
お母さん
私は抵抗せずに突き出された マカロンを少しだけ食べた
前に丸ごと食べたら頭を 六発殴られたから
少しずつ上品に食べていく
お母さん
お母さん
私はお母さんのお人形
感情を表に出さず
まばたきすらも我慢して
陶器でできた人形のように
いつまでも変わらない姿でいなければ
そして……
お父さん
お父さん
お母さん
お母さん
お父さん
お母さん
お父さん
お母さん
お母さん
お父さん
お母さん
お父さん
お父さん
お母さん
お父さん
お母さん
お父さんにとって私は
空気だ
いや、空気というのは 少し違うかもしれない
路傍の石と言った方がいいか
お父さんは私がお母さんから
ゴスロリワンピースを 着せられるようになってから
一切視線を合わせてくれなくなった
お父さんにとって
私はいてもいなくても同じ
べに
べに
べに
べに
べに
かな
べに
かな
かな
べに
かな
かな
べに
かな
べに
かな
べに
衝動的に飛び出して来たので
朝お母さんに着せられた衣装のまま 出てきてしまっていた
かな
べに
ゴスロリなんて嫌いだ
それなのに、他人にまでゴスロリを 肯定されるなんて……
かな
かな
べに
まさに、光が見えた瞬間だった
どろどろとした闇のなかで輝く
ずっと自分の求めていた希望
それが、しっかりと脳みそに 焼きついた
べに
かな
べに
かな
かな
べに
あまり親しい相手ではなかったけれど
私は全部喋ってしまった
苦しくて、自殺しようと 考えていたことも
全部
かな
初めて、名前を呼ばれた
かな
べに
お母さん
お母さん
お母さん
べに
べに
私は髪を肩くらいでばっさり切って
シャツにジーパンという格好に なっていた
母さんのありす呼びに少しイラッと きてにこりと微笑んでやると
母さんは顔を怒りでぐしゃぐしゃに 歪めて掴みかかってきた
お母さん
母さんが灰皿を引っ掴み 腕を振り上げる
その腕が振り下ろされる前に 私は母さんの首を包丁で刺した
お母さん
母さんの倒れる音がやけに大きく響く
今まで感じたことのない感情が 脳みそを埋め尽くす
──興奮──
べに
べに
べに
心が踊る感情を 抑えきれずに笑いだす
お父さん
べに
べに
やや埃のある床一面を濡らす 赤、赤、赤、赤ーー
お父さん
かな
かな
逃げようとした父さんを かなが逃がさない
恐怖に顔を歪める父さんの顔に 心がふわりと軽くなる
──優越感──
べに
勢いをつけて振り下ろされた包丁は 父さんの心臓を貫く
べに
しんだ
ふたりとも
わたしがころした
理解した瞬間、目の前が真っ白になる
べに
べに
──快感──
べに
驚いて飛び起きると血の跡なんて さっぱり無い綺麗な部屋があった
べに
べに
身体中が汗でじっとりと濡れている
べに
ふと、家族の写真たてが 視界の端に入る
べに
夢の中で狂気に飲まれて笑う 自分を見て殺す気が失せていたが
あいつらの写真を見て沸々と 怒りが沸いてきた
スマホへ手を伸ばし、電話をかける
べに
べに
べに
べに
べに
べに
べに
べに
ピッ
電話を切ってスマホを ベッドの上に放り投げる
べに