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それは月に一度だけ与えられる仕事だった
施設裏手にある焼却所への“廃棄物”の運搬
誰もやりたがらないが、順番で回ってくる役目だった
その日、朔弥の手には汚れた袋と、鼻を突くような腐臭が握られていた
それでも、慣れた手つきで荷車を引きずりながら歩く
目を逸らせばいい。鼻を塞げばいい
そう思っていたのに――
柊 朔弥
焼却場の手前、袋を空けて中身を処理しようとした朔弥の目に
一瞬、金属の光が映った
首輪だった
何十本、いや、百を超える数
焦げたような黒ずんだ金属、歪んだ数字のプレート
その山の中に――
確かに見覚えのある数字がひとつ、あった
『2472』
息が止まった
それは奏多に与えられた首輪の番号だった
柊 朔弥
震える手が、自然と金属片に伸びていた
指先に触れた感触は冷たく、重い
だが、それよりも重かったのは、その数字の意味だった
希望は、ここにあった
そして、ここで終わった
あの日、自分が奏多の手を離したその瞬間から
奏多の命は、もうこの場所に刻まれていたのかもしれない
理解したくなかった
けれど
目の前の事実は、容赦なく現実を突きつけてきた
柊 朔弥
柊 朔弥
冷たい灰の山に朔弥は静かに手を合わせた
かつて我が子のように守りたかった小さな命に、
何もしてやれなかった自分の弱さを詫びるように