テラーノベル
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首輪『2472』を見つけてから、もうどれだけの時間が過ぎただろう
泣くことも
喋ることも
減った朔弥は
毎日をただこなすように生きていた
労働
食事
洗濯
労働
休む暇もなければ
心を癒す時間もない
――でも、それでよかった
考えずにすむなら、感じずにすむなら
何も望まなければ、これ以上壊れずにすむなら
生きるだけで、精一杯だった
その夜も同じだった
狭い牢に戻り、冷たい壁に背中を預け
何も見ずに息を吐いていたとき――
カツン。カツン。
廊下を踏み鳴らす革靴の音が、いつもより重く響いた
その音が、自分の牢の前で止まったのが分かった
柊 朔弥
顔を上げなかった
見たところで、どうせろくなことじゃない
そのとき、男の声がした
男
淡々とした声だった
兵士
兵士
兵士
男
監視官が確認するように名前と番号を読み上げ
男は何も言わずに立ち去っていった
ただ1度だけ
牢の隙間から、目が合った
黒い瞳
感情の読めない顔
柊 朔弥
そのまま声も出さずに座り込んだ
話には聞いたことがある
奴隷は“商品”だと
買われていった奴は、二度とここには戻ってこない
労働力
暴力のはけ口
性欲処理
――人間ではなく、ただの“物”として扱われる世界
ここに残ることも
出ていくことも
地獄に変わりなかった
それに抗う気力も
逃げ出す希望も
もう何も残ってなどいなかった
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