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キュンです
場違いで申し訳ございません🙇♀️m(_ _)mフォロー失礼します!仲良くしてください
もしかしていーちゃん…? 間違ってたらすみません💦
ガチャ...
月が沈みそうなぐらい暗い夜、無駄に洒落た扉をそっと開けた。
入るとその部屋にはデカいベット。
バスケットボールに、服が乱雑にばら撒かれた床。
自分の部屋だった。
エース|汚ね...最後くらい片付けるか
ぐちゃぐちゃのベッドシーツと布団を直し、
ばら撒かれた服も全て畳んでクローゼットに突っ込んだ。
そうしている内に他の所も掃除したくなり、遂には棚の中までも掃除しだした。
1段目の引き出しを開けると、
裏返ったトランプ1枚と、ある1枚の写真が入っていた。
エース|んだこれ...
裏返ったトランプを拾い上げ、その表を見た。
ハートのエース。
そのトランプはハートのエースだった。
エース|なんだこれ...何で1枚だけ...
不思議に思っていると、隣にしまってあった写真に目を移した。
随分前の写真なのか、少しホコリを被っていた。
窓とカーテンの隙間からくる月の光がホコリに反射して、
ホコリがまるで光るダイヤのように感じられた。
そのホコリを手で払い除け、その写真を見た。
エース|.............
左から、デュースと、俺と、監督生とグリム。
俺は白いスーツを着て、肩にはバースデーの証としての襷の様な物を掛けていた。
この写真を撮ったのは俺の誕生日の日だと分かった。
3人仲良くピースでシャッターを切ったんだ。
その写真を見た瞬間、これまでの物語が瞬時に蘇ってきた。
今考えてみると、面倒くさい事ばっかだったなとか
楽しかったなとか、面白かったなとか
辛かったなとか、
幸せだったなとか。
明日終止符を打つ物に対して、そんな感情を抱いてしまっている。
自分は本当に、″ハートのエース″なのだろうか??
自分は本当に、こんな事をしたいと思っているのだろうか??
エース|.................
ガチャッ
するといきなり、俺の部屋に光が射し込んだ。
慌ててトランプと写真を隠す。
もしかして、明日の事がバレて__
エース|...なんだよ、お前かよ...
デュース|ん.....すまない.......
その光と影の正体はデュースだった。
目を擦りながらその姿は現れた。
エース|デュースクンこんなお時間にどうしたんですか??
エース|まさかトイレ1人で行けないとか??
デュース|む。僕はトイレ1人で行けるぞ
エース|じゃないと困るよ
エース|...てか何で来た??何か用?
デュース|え...?えっと...何だったっけな...
デュース|.....う~ん...すまない。理由が思い出せない
エース|何だそら笑
デュース|.....あ!!!!
デュース|明日...監督生が元の世界に帰る日だろ
エース|.............だな
俺は少し間を開けて答えてしまった。
デュース|エースは...寂しくならないのかと思って
エース|それこんな時間に聞く?笑
デュース|あぁ、そうだな。僕とした事がどうしたんだ...??
パジャマ姿で頭を抱え、考えているデュースの姿を少し離れた所から見る。
いつになったってアイツは容量は悪いは元ヤンだわ。
でも優しくて大真面目で、真っ直ぐなヤツだわ。
一気にこんなに良いところが出てくるデュースが羨ましい。
デュース|何故かは分からないんだが...
デュース|何か今聞いとかないとって思ったんだ。急に
その言葉にピクリと反応する。
エース|え~.......何それ。俺そんな弱くないんだけどぉ?
デュース|...だよな笑
エース|.........んじゃデュースはどうなの?
少し間が空いた後、その話をわざと切り出した。
デュース|え、僕か??
デュース|そりゃあ...居なくなったら寂しいとは思う
エース|寂しがり屋なデュースくんですね~
デュース|...........
少し茶化して言うと、デュースはむっと反応し、怒るかと思いきや
そのまま落ち着いて、静かな声で話し始めた。
デュース|...寂しがり屋か...そうかもな
エース|え?
デュース|監督生は...理由が分からないままここに来た
デュース|でも今、帰る方法が見つかって
デュース|もうついにお別れの日が明日になってしまった
デュース|まだ日があるから大丈夫とか思っていたのに
デュース|...1年は早いな
俯いて笑ったデュースに、なんて声を掛ければいいのか一瞬迷った。
監督生が元の世界に帰れば、
一生ここに帰ってくる事は無い。
というか帰る術が無い。
1度通った鏡には、もうツイステッドワンダーランドとは繋がっていない。
だけどその事を、知っているのは俺だけだ。
エース|いいじゃん。いつでも帰って来れるんでしょ?
デュースに掛けた言葉は、嘘だった。
ありもしない希望を与え、少しでも俺が溶け込めるように。
俺がハートのトランプ兵として溶け込めるように。
デュース|そうだな笑
デュース|そうだ!!明日何かサプライズしよう!!
エース|ちょ、そんな大声で言うなって
デュース|あ.......す、すまない
慌てて口を抑えたデュースを見て、少し笑ってしまった。
エース|いいな、お前は
デュース|え?
エース|何でもねーよ
エース|それより明日のサプライズって?
デュース|えっと..........
俺達2人は暗い部屋の中、
淡いオレンジに光るランプを照らしながら、まるで子供が秘密基地で遊ぶように笑い合った。
明日なんて来なければいい。
そう思うのも俺の悪い所だ。
翌日、俺は堅苦しい式典服を着て望んだ。
いつもの赤いハートのスートは黒く塗られ、アイシャドウも黒くする。
本当にちゃんとした身だしなみ。という感じの雰囲気で。
鏡の間には他の寮の人達や、先生方で埋まっている。
なんてったって、入学時に騒がせたあの監督生が、元の世界に帰る日なのだ。
最初は魔法が使えない奴が入って来て、オンボロ寮に突っ込まれた時
グリムという謎の獣も連れて、本当にお騒がせな奴だった。
リドル|エース。今日はやけに大人しいね
黙って盛り上がる鏡の間を見つめていた俺に、リドル寮長が話しかけてきた。
リドル|やっぱり悲しいのかい?
エース|う~ん...何かまだ実感無いっていうか。いつでも帰って来れるしなって
エース|しかも、俺は麻痺しちゃってんすよ
エース|監督生が居るのが当たり前になっちゃってて、いざお別れってなると分かんなくなる
リドル|...そうか。エースでもそうなるんだな
エース|俺でも?
リドル|あぁ。これまで見て来てエースは何でも抜群にこなせる奴だと思ってたからな
リドル|こういう場面に遭ってもそれなりの対応は出来ると思っていた
エース|マブは別問題ですよ
リドル|ははッ、そうか笑
赤い綺麗な髪を揺らし、小さく笑っていた。
リドル|じゃあ監督生と最後の時を過ごすように
エース|...はい、寮長
式典服のフードから顔を覗かせ、誠心誠意寮長への返事をした。
すると寮長は満足気に笑い、トレイ先輩の元へと去って行った。
辺りはもう大盛りあがり。
監督生に縋って泣く奴も居れば、
「ありがとう」と言って握手している奴も居た。
まるで人気のアイドルの様だった。
監督生|エース!!
俺が見ていたのに気付いたのか、監督生は人混みを払い除けこっちに走って来た。
エース|よお
監督生|何だか久しぶりな気分だよ
エース|昨日会ったのに?
監督生|はは、だよね。俺おかしいな笑
でも俺もそうだった。
昨日会って一緒に授業を受けたばかりなのに、久しぶりのように感じられる。
まるで初めて会った時の感覚の様な...
監督生|最後だね
エース|″最後″だな
監督生|寂しい?
エース|まさか
監督生|本当は?
エース|ちょっとだけ
監督生|嘘つくの上手いなあ
エース|バレた?
本当は寂しくないのか、
本当に寂しいのか
監督生がどっちで捉えたのかは分からない。
監督生|初めて会った時が懐かしいね
エース|そうだな
エース|グリムが暴走して大変だったけど
監督生|結局網で捕まえたよね
エース|魔法もクソも無かったな
そう言って2人で笑い合うと、
もう1人俺と監督生を呼ぶ声がした。
デュース|監督生!!エース!!
監督生|デュース!!
エース|寂しがり屋のデュースくんだぁ~
デュース|なッ...!!
監督生|え、寂しがり屋なの?
監督生|俺が居なくなって寂しいの?
デュース|ちッ、違う...くは無いけど...
エース|違うくは無いけどwww
監督生|カタコトデュースwww
エース|デュース・カタコト
監督生|ぶはッwははははwww
デュース|デュース・スペードみたいなノリ辞めろ!!!!
エース|ウケるwwwwww
監督生|腹もげるwwww
そうしてしばらく3人で笑い合った。
監督生への″3つ″のサプライズまであと少し。
監督生が居なくなるまで、あと少し。
しばらく談話を続けながら、俺達3人は鏡の間をまわった。
途中でラギー先輩からドーナツを貰ったり、
フロイド先輩とジェイド先輩に絡まれたり
少し厄介で大変だったが、本当に最後の一時を過ごせている気がする。
さっき貰ったチョコチップの乗ったドーナツを齧りながら言った。
エース|そういえばグリムは?
デュース|...確かに、見てないな
監督生|...あぁ、グリムか...
すると監督生は顔を曇らせて、何やら悲しげに訳を話した。
監督生|俺が帰る時、グリムとは一緒に帰れないから
監督生|記憶を消されるんだよ
エース|記憶?
監督生|そう。グリムは何の変哲もない獣に戻る
監督生|そして俺も普通の高校生に戻る
監督生|あと、グリムみたいな知性の優れた獣は、記憶を消すのにちょっと時間が掛かるらしいし、
監督生|何か.....謎の石が検出されたみたいで軽い手術的なのが必要らしいよ
それってもしかして、
デュース|監督生も記憶を消されるって事か?
監督生|...........うん
エース|ッ、!!
まずい。
それは予想外だった。
監督生が元の世界に戻った瞬間、俺がここと繋がる鏡を割れば解決だったが
鏡を通る前に記憶を消されるのならば.....、
もし、鏡を通る前に...記憶を、.......
エース|...へ、へぇ。俺達の事忘れちゃうんだ?
監督生|...うん、何度も学園長に言ったんだけど...無理だった
監督生|出来ればずっと覚えていたかったんだけど、
人差し指で頬を軽くかく監督生を見て、俺は唾を飲んだ。
デュース|...それは本当に残念だな...
デュース|もし監督生が忘れても、俺達は監督生の事忘れないからな!!
監督生|流石デュース!!
監督生|俺のマブだな!!!
エース|...........
監督生の記憶が消される。
今日の俺の″サプライズ″の計画が丸潰しだ。
俺は、
監督生を″殺さなきゃいけない″。
その後またしばらく時間が経った。
辺りは蛍の鳴き声が微かに聞こえる程暗くなった。
他の寮生達や先生は、グラスを片手に雑談を楽しんでいた。
監督生が元の世界に帰るまで、あと3時間。
夜の12時を回った時、監督生は元の世界への鏡を通る。
今はその3時間前の9時。
俺の用意した″サプライズ″は、監督生が鏡を通る瞬間にするつもりだった。
だけど、気が変わった。
監督生の記憶が消されるのならば、元の世界へ帰った監督生は再利用出来ない。
はっきり言えば存在価値が無いということだ。
グリムだってそうだ。
俺が取り込ませた″黒い石″だって、今検出されて取り出されてる。
まずい状況だ。
だからと言ってこの″サプライズ″を辞める訳にはいかない。
俺はトランプ兵では無いから。
女王様に逆らう、「裏切り者」だから。
エース|わり、デュース。俺ちょっとトイレ
デュース|ん?あぁ、トイレか
デュース|分かった。監督生にも伝えておく
エース|さんきゅ
俺は笑顔でデュースに手を振り、鏡の間を抜けた。
目元の黒いハートのスートが肌に染みる。
今の俺にはぴったりだ。
式典服のフードを脱ぎ、足早にある部屋へと向かう。
寮長の部屋。
リドル・ローズハートの部屋へと向かった。
ガチャ
少し重く感じる扉を開き、今着ている式典服を脱いだ。
トランプや薔薇のアクリルで装飾された寮長らしいクローゼットを開き、
ある1つの服を盗んで、それを着た。
エース|うっわ、これ重
エース|こんなのよく着て歩けんな...
金色に輝く王冠にを頭に付け、鏡の前に立った。
エース|へ~、中々似合ってんね
エース|俺やっぱ顔も良い感じ??
鏡に映る自分の姿を見て、俺は満足気に笑った。
時という物は早いものだ。
人生全ての物において、幸せというものは直ぐに過ぎ去っていく。
人間には表面があるからだ。
人は表面で周りに合わせ、笑っていれば人生と時は幸せだと判断する。
だがそれは表面だけであって、裏という物は必ずしも存在する。
それを一番ここで分かっているのは俺だけだ。
ハートのエース。
表を裏にすれば、
″ハートのジャック″。
今鏡の間への廊下を歩き、今までの仲間全てを裏切る者の事だ。
俺は裏切り者。
仲間、信頼、地位全てを剥ぎ捨てる度胸を持つ者だ。
俺はハートのトランプ兵なんかじゃない。
上に立つ女王様に従う者なんかじゃない。
俺の兄のように、
女王様に、全てに逆らう者の事だ。
キィ...
鏡の間への扉を開けた。
すると直ぐにざわざわとざわめきが起きた。
そりゃそうだな。
ケイト|.......エースちゃん?
デュース|お、おい...お前何でそんな格好...
監督生|...エース??
ここに居る全ての者の視線がこちらに向けられる。
黒いもやを纏った俺の体が鏡の間の一番前へと移動していく。
胸元に入れたマジカルペンからは黒くドロドロとした物が詰め込まれ、今にも破裂しそうだ。
ざわめきはさらに強くなっていく。
リドル|エース...?その姿は...
エース|どうも我らの女王様
エース|黒いスートに制服じゃ、違反になるか?
デュース|ッ、エース!!何のつもりだ!!!!
デュース|まさか...お前が用意した″サプライズ″って、!!!!
エース|ごめんなデュース。お友達ごっこは楽しかったぜ
デュース|ッ...........
本来寮長であるリドルが着る筈の制服と王冠は、今はエースが纏っていた。
自分がまるで女王様であるかのように、
皆がいう『オーバーブロット』という物も纏い。
エース|監督生
監督生|.....ッエース...
エース|俺はお前に感謝しなきゃな
エース|お前がこの学園に来なきゃ、今頃″俺が全員殺してた″所だったよ
監督生|...は?エース何言って...
エース|お前はここに居る全員を殺す
エース|その後、俺はお前を殺す
そう言うと、鏡の間に居るある寮生が声を上げた。
フロイド|やっぱりそうだったんだね、カニちゃん
フロイド先輩だった。
フロイド|俺さぁ、勘バカ程良いから途中で分かっちゃったんだよね
ケロッと笑いながら言うフロイド先輩には、流石の俺も呆れる。
エース|...何で黙ってたんすか
フロイド|え~? そりゃあ、
フロイド|″面白い″からでしょ
バッッッ!!!
そう言った途端、マジカルペンを振りかぶったフロイド先輩が飛び掛って来た。
エース|ははッ、 バレバレかよ!!!
それに反応し、俺も黒く染まったマジカルペンを構える。
俺のマジカルペンから飛び出た黒いもやが、フロイド先輩を包んだ。
ジェイド|ッ、フロイド!!!
するとジェイド先輩も黒い煙に突っ込んで行った。
エース|あのさぁ...俺の目当ては監督生な訳
エース|早くこっちに渡さないと、2人共潰れるよ
監督生|.....ッ.........
フロイド先輩とジェイド先輩を人質にすると、
監督生はゆっくりとこっちに歩いてきた。
フロイド|ッ、小エビちゃん!!!
監督生|ッ!!!
エース|...........
黒い煙から少し顔を出したフロイド先輩が、その名を叫んだ。
フロイド|絶ッッッ対にカニちゃんの所に行くな!!!!!
監督生|ッ、でも!!!!!
ジェイド|ッそうです!!今は危険ですから離れて!!!
どんどんと黒く深くフロイド先輩とジェイド先輩の体を蝕んでいく。
あの双子をも魔法で圧倒してしまうエースのマジカルペンの暴走。
リドル|監督生!!一旦離れろ!!
リドル|エースは自分からオバブロしたと考えられる!!
監督生|ッでもあの二人が!!!!
リドル|...ッ、あの2人なら大丈夫だ!!きっと!!
監督生|ッ...
寮長の言葉に圧倒され、俺はエースとフロイド先輩達から離れた。
エースは何が目的でこんな事してるんだ。
俺を殺して何になる。
皆を殺して何になる。
何で今更、こんなタイミングで。
頭がハテナばかりで状況も理解できない。
エース|...ちッ、クソめんどくせぇなぁ!!!
フロイド|あはッ、こっちは楽しいけド!!!
ジェイド|ッ、フロイド...、血が、!!
ボタボタとフロイド先輩の体から流れる赤黒い血液。
見にも耐えられない光景だった。
デュース|ッ...、ッ...
隣を見ると、拳をギュッと握りしめ、息を荒くしていたデュースが居た。
握りすぎた手からは血が垂れている。
監督生|デュース、!!手が!!
デュース|...ッ、.....すまない、監督生
監督生|...は?
そう謝ったデュースの手のひらには、1枚の写真があった。
左からデュース、エース、俺とグリムが仲良くピースしている写真。
真ん中のエースは、バースデーの証として襷のような物を肩にかけていた。
この写真はエースの誕生日の時だと分かった。
デュース|...エースが隠し持っていた写真だ
デュース|スカスカな寝棚の中にそれだけが入っていた
監督生|え.........
デュース|綺麗な思い出は監督生が持っていてくれ
監督生|何で?デュースは!?何で俺にこんなモノ渡すの!?
すると、デュースはその写真を俺に優しく押し付けると、スっと立ち上がって言った。
デュース|........僕は″優等生″だからな!!
ニコッと笑い、式典服のフードを脱ぎ、自身の内ポケからマジカルペンを取り出した。
監督生|デュース...??おい、どこ行くんだよ.......
監督生|まさか、...戦いに.....
リドル|...監督生、僕からもこれを
泣き崩れそうになった俺を支え、寮長の手からも何かを渡された。
またしても1枚の写真だった。
何でもない日のパーティーの時の写真だった。
皆で大きなケーキを食べて、皆で笑っている。
リドル|またいつか会おう
その写真を俺に渡し、寮長はそう言った。
式典服のフードを丁寧に下ろし、自身のマジカルペンを取り出す。
監督生|寮長...........??
ケイト|監督生ちゃん、また自撮り一緒に撮ろうね
ケイト|これ、前に皆で撮った自撮り写真
いつものケイト先輩のマジカメの写真を渡される。
俺がふざけて撮ってたら、皆が入って来たやつだった。
デュースとエースと俺が変顔をして寮長を困らせている写真だった。
トレイ|俺からもありがとう
トレイ|またいつでもお菓子食べに来いよ
そう言って渡して来たのが2枚の写真。
ハーツラビュル寮皆でクッキーを作った時の写真と、皆でそれを食べた時の写真だ。
皆で俺が帰る時に渡すつもりだったのだろうか。
デュース|″またな″、監督生
俺が止めようとした時には、もう4人はエースの所へと向かっていた。
俺はただ、何もする術も無く。
4人から貰った思い出の写真を脳裏に、ボヤっと座っているだけだった。
あのエース裏切りという緊急事態から、約3時間が経った。
リドル|...ッ、はぁ......ッ.........、
フロイド|...........金...魚ちゃん...
その鏡の間の光景は無惨な物だった。
大勢の者から血が流れ、マジカルペンに埋め込まれた宝石は粉々に割れていた。
リドル|...ッ、しぶといね...流石とし...か、言えないよ......
ボタッ...ボタッ...
さっき切った腹部から血が垂れ流れる。
フロイド|あははッ、ジェイドと...ッ、一緒にしないで、ッよ...
全寮の生徒達が大勢でエースに掛かり、エースの暴走は止める事が出来た。
だがその代償に、犠牲にする者が多過ぎた。
デュース・スペード。
ケイト・ダイヤモンド。
トレイ・クローバー。
その他の寮生や寮長。
大勢が死を迎える事になってしまった。
その中で生き残ったのはせいぜい4人程だった。
エース|.......ッげほ...
オバブロで暴走したエースは、ボロボロになり色んな箇所から血が流れていた。
そして謎の黒い宝石のような固いものに覆われ、エース自体の存在が無くなりつつあった。
監督生|...デュース...今度一緒に勉強会やるって...言ったよね...
監督生|これからも...何でもない日のパーティーの準備、しますよね...
リドル|.....ッ監督生........
監督生|ケイト先輩...一緒にマジカメ用の写真撮りましょうよ
監督生|トレイ先輩、明日トレイ先輩の作ったお菓子食べたいなぁ~.....
監督生|...へへ、なぁんてね..........
血を流し倒れ込む人達を見て、監督生は涙を流し続け、嘆いた。
監督生|..ッ、うぐッ.....
唯一無傷であった監督生は、涙をダムのように流し、悔しさで掻きむしった肌を濡らした。
監督生が元の世界へと帰る鏡は、
まだ割れていなかった。
監督生|ッ、何で、俺だけ殺せば良かったのに、!!!
監督生|皆...皆俺の為に命を落とした!!!
監督生|あの時俺がエースに殺されていれば!!!!!
監督生|こんなに犠牲を払わずに済んだ話だ!!!
フロイド|ッ、小エビちゃん.....
エース|......そうか...
大怪我を負ったエースが、最後の声を振り絞って出していた。
エース|監督生はそういう奴だったなぁ!!!!!
リドル|ッ!!!!監督生ッッ!!!!!
フロイド|小エビちゃんッッッ、!!!!
その瞬間、エースのマジカルペンからさらにどす黒い煙が立ち上った。
その刃の様に形を変形させた黒い牙は、俺に向かって飛び込んで来た。
ドスッ...
刃が体に突き刺さる鈍い音が、鏡の間に広がった。
監督生|あ...........、あ...
その黒い刃は、
俺では無く、庇ったデュースに突き刺さっていた。
ボタボタと紅い血が式典服を伝って落ちていく。
エース|ははッ、優等生ぶってんのか?
デュース|ッ、エース...僕は違うぞ...
デュース|僕は優等生ぶってんじゃない
デュース|"優等生"だ!!!!!
その瞬間、赤く光るデュースのマジカルペンから、物凄い光が放たれた。
監督生|...........
目を覚ますと、そこはもう戦場後の地だった。
目の前には血を流して倒れているデュース。
さっきまだ意識のあったリドル寮長とフロイド先輩も、もう力尽きていた。
その少し先には、元の姿に戻ったエースが倒れていた。
監督生|.........エース...
エース|...............
ゆっくりと瓦礫で潰れた足を動かし、エースの名を呼びながら歩いた。
エース|...はは、...何だよ...
監督生|...エース
その名をハッキリと呼ぶと、エースは顔を俺に向けた。
エース|.......
エース|.....憎いか?
監督生|...いや
エース|俺を殺すか?
監督生|殺さない
エース|とんだお人好しだな
監督生|...そりゃどうも
すると、エースは怪我を負った部分を抑えながら起き上がり
床に座り込んだ。
それに反射して、俺もエースの前に座った。
エース|.....俺、お前に渡したい物あんだよ
監督生|...??
エースが式典服のポケットの中から、1枚のトランプを取り出した。
トランプには血が付いて、少し端が滲んでいる。
エース|ハートのエース
監督生|.....何で...
エース|俺が本当になりたかった物だよ
エース|今になっちゃ大量殺人鬼だぜ
エース|ウケるよな
監督生|...........
エース|俺の″サプライズ″は失敗だ
エース|最後なのにダセぇな
静かに笑うエースに、俺は黙り込んだ。
エース|...元の世界に帰る鏡、まだ割れてねぇよ
エース|俺は残りの魔法を使って死んだ奴らを生き返らせてやる
監督生|...ッそ、そんな事...
エース|今の俺だったら出来る
エース|その後は...俺は死んでるかもな
監督生|...な、何言って
エース|″じゃあな″。監督生
その瞬間、俺はもう鏡の中に入っていた。
チュンチュン...
雀の鳴き声がする。
俺は窓から差し込む光に起こされ、布団をゆっくり剥いだ。
何か長い夢を見ていた気分だ。
辺りを見回すと、そこは俺の部屋だった。
監督生|...ん?
布団の上には、何枚かの写真が置いてあった。
監督生|...俺と.........誰だ?この人達
どこかで見た事のある人達。
だがどんなに考えても、俺はその人達を思い出せなかった。
プルルルッ プルルルッ
ベッドの横に置いてある寝棚の上の携帯が音を出しながら振動する。
いつかの友人からだった。
監督生|.......
すると、ある物に目がいった。
そのある物とは、1枚のトランプだった。
携帯の横にぽつんとただ1枚。
監督生|んだこれ...
めくると、それは『ハートのエース』だった。
監督生|.............
そのトランプの表を見た瞬間、何か思い出した様な感覚に陥った。
だが何を思い出したのかを思い出せない。
でも何か、この写真に映る人達と関係しているという事は分かる。
プルルルッ プルルルッ
監督生|あぁやばい!!!
電話に出ることを忘れているのに気付き、慌ててスマホ画面を開く。
|「もしもし?」
監督生|もしもし、ごめん
|「ったく、何考えてんだよ」
|「今日カラオケ行くっつったろ」
|「皆待ってんぞ」
監督生|えッ、あ、おう!
プツッと電話が切れる。
今日はどうやらカラオケに行く日だったらしい。
俺は写真を棚の上に置き、すぐさま準備をした。
カツッ カツッ
履いた靴のつま先を地面に打ち付け、俺は玄関を開けかけた。
監督生|.......やべ、忘れ物
忘れ物を取りに行こうと、靴を履いていない片足で寝床に向かっていた。
監督生|.......ハートの、エース
忘れ物は、このトランプだった。
何かは思い出せない。
何でこれを持っているのかも分からない。
でも、何か。どこかで。
俺は写真も手に取り、1つわかった事があった。
中央に映る、白いスーツの胡桃色の髪の男の人。
目元には赤いハートのスート。
まさに、『ハートのエース』という感じの人。
監督生|.....この人が、エースなのか?
俺は勝手に、その中央に映る人物を『エース』と名付けた。
ピロンッ
さっきの友人からのメールだ。
監督生|やべ、急がねぇと!!
俺はそのトランプと写真をカバンに丁寧に入れ、家を出た。
思い出せない、いつかの仲間へ。
でも、何処かで見た事、会った事がある仲間へ。
そんな仲間達を、ずっと忘れる事は無い。
俺は夏の太陽の日差しを除ける様に、空を手で扇いだ。
fin.