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耕崎一也
電車の中で気付いた。
耕崎一也
快速とは名ばかりの淀んだ朝の空気に押し潰されまいと軽く伸びをしつつ、一也は制服の中からスマホを取り出した。
人類最後の日。 世界中が必死こいて抗っていたはずなのに、気付いたらもう今日だ。
ぼやけた眼を擦り、リビングのテレビを付けたあの半年前の記憶が脳裏をかすめた。
人類が最後に出した決定稿は、「最後まで自分らしく生きること」だった。
人類はこれ以上環境に適応することを諦めたのだ。
火星に移住すると言って聞かなかった伯父は、量産型のロケットに乗りそのまま天へ召された。
エンジンが破損していたそうだ。
伯父と2歳差の父がその知らせを聞き、ただ一日中うずくまって背中を震わせていた様子が印象に残っている。
その背中をさすることしか、一也にはできなかった。
耕崎一也
耕崎一也
最後の日は、いつも通り学校へ行くことにしたい。そう両親に話した。
父
父は目を伏せて、それだけ言った。 それきり会話をしていない。
母
母
耕崎一也
耕崎一也
耕崎一也
母
母が作ってくれる弁当には、気合いが入るようになってきた。
子供の時好きだった作品のキャラ弁、 幼い頃の自分を海苔で再現した弁当、 あとは、自作の不格好な玉子焼き。
弁当が華やかさを増す度に、肺の辺りに重いものが溜まっていく気分になった。
アルバムみたいな弁当が、じわじわと終わりを告げに来ている。