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放課後の音楽室には、まだ夏の熱気が残っとった。
トランペットのベルが夕陽を反射して、金色に光っとる。
窓の外では蝉が鳴いとって、メトロノームの針が静かにカチカチと揺れとった。
──この部屋に、あの人がおった夏から、もう一年。
堀居瑞恵
誰もおらん部屋で、独り言みたいに呟いた。
あのときの言葉、ちゃんと伝えられへんかったから。
去年のコンクール、
うちらは“あと一歩”のとこで金賞逃した。
あのとき、ステージ袖で悔しそうに笑う先輩の横顔が、今でもはっきり浮かぶ。
だから、うちは残ったんや。
あの人と目指した“音”を、自分の手で掴むために。
──そのとき、ドアが開いた。
宮城章広
懐かしい声がして、心臓が一瞬止まった。
堀居瑞恵
ドアのとこに立っとったのは、少し日焼けした白いシャツ姿の宮城章広。
去年まで、うちの吹奏楽部のトランペットリーダーやった人。
宮城章広
宮城章広
そう言うて笑う顔は、変わらんかった。
けど、その笑顔を見るだけで、胸の奥がじんわり熱くなった。
宮城章広
その言葉に、息が止まった気ぃした。
去年、届かへんかった音。
もう一度、先輩と一緒に吹ける──それだけで、涙出そうになった。
堀居瑞恵
堀居瑞恵
震える声でそう言うたら、先輩が少しだけ目ぇ細めて笑った。
夕陽が差し込む中、
また“あの夏”が、静かに動き出した。