大好きな笑顔をもっとはっきり見たいのに
貴方はその笑顔を、私に向けてくれない。
貴方の隣にはいつも、決まった女の子がいるから___
俊くんはとても素敵な人だった。
私と、里奈と、奈央の3人で「格好いいね」「やばいね」って言いあって
好きになっちゃって、 でも俊くんに彼女が出来ちゃって__
順番が逆だったらまだマシだったかもしれないのに。
どうして私じゃないの
そんな黒い感情があったから
錯覚しちゃうんだ。
奈央
奈央
奈央
奈央
亜里沙
奈央
奈央
奈央
奈央
奈央
どうして俊くんは美由紀ちゃんを選んだんだろう。 私の中にある黒い感情は
「試してみるだけだから」と言い聞かせるくらい、膨れ上がっていた。
亜里沙
「鼻の頭に大きなニキビが出来ますように」
奈央
奈央
奈央
亜里沙
奈央
奈央
無期限のお試し期間。
重ねる。また、重ねる。
明らかに落ちこんでる美由紀ちゃんを見て
奈央は ザマア見ろ スッキリする と言うけれど
私は__
黒に黒を重ねて
何でか知らないけど、どんどん
どんどん虚しくなる。
そしてついに答えを見つけてしまった。
最初は確かに、どうして美由紀ちゃんなんだろうって思った。
私の方が脚が細い。髪だって整ってる。
だから ちょっとだけ困らせてやろうって。
あわよくば俊くんが幻滅してくれないかなって。
そう思ってたけど
きっと2人は ``本物´´ なんだ。
邪な「暗示」の力なんかで壊せる物じゃないんだ。
私と奈央はそれを証明してしまった。
だからこんなに虚しくなるんだ
奈央
亜里沙
奈央
奈央
どうしてそんなに楽しそうな声が出せるんだろう。
お試し期間は一向に終わる気配がない。
荷物はまとめてあるのに、立ち上がるのがひどく億劫だった。
ぼんやりと椅子に座っている状態で、どれほど経っただろうか。
里奈
いつの間にか私の前に里奈が立っていた。
里奈と話すのはずいぶん久しぶりだ。
前は一緒に「格好いいね」とか言いあってたけど
暗示をかけることには強硬に反対して、なんとなく距離が出来た。
あの時は里奈の真意がわからなかったけど、今は里奈の言う通り辞めればよかったと後悔している。
自虐的な笑みが浮かんだ。声も無様に震えていた。
亜里沙
奈央のように楽しむのが普通なのかな
里奈は
とても優しい笑みを浮かべて、首を横に振った。
里奈
里奈
里奈
うん。やっぱり
この感覚は ``錯覚´´ でも ``気のせい´´ でもないね。
奈央に 「もう暗示は辞める」と告げた次の日の朝、
私は鏡を見て絶句した。
__私の鼻の頭に大きなニキビが出来ていた。
昨日の夜は、絶対になかった。
奈央だ、と思った。
私が辞めると告げた時、奈央はかなり怒り心頭だったから。
世界は「だまし絵」で溢れている。
雑誌に載ってた「暗示」とか「思いこみ」とか「言い聞かせ」とか。
そうやって生まれた本物まがいの偽物を、本物だと錯覚する。
奈央のように。
きっと あの虚しさとこの苦さが本物だ。
そのことに気づいた里奈と私は
幸せなのかもしれない。
コメント
3件
あーー!!好きです!! 暗示から、大事な事に気付けてよかったって気もしますが、何だか虚しいですね…