TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

プラネタリウムの星

一覧ページ

「プラネタリウムの星」のメインビジュアル

プラネタリウムの星

1 - プラネタリウムの星

♥

85

2019年07月26日

シェアするシェアする
報告する

昼間なのに真っ暗になるこの空間が好きで 天井に光る小さな星々が好きで 私は今日もこの場所を訪れていた

はぁ…綺麗だった。

ビー… と、アナウンス後終了の音が鳴り周りが明るくなる。 早々に席を立ち出て行く人達を見送りながら私は余韻に浸るように椅子に座ったまま目を閉じた

そしてどの位時間が流れたのか… でもきっと長い時間そうしていたに違いない。

館長さん

またお前か。早く出ていかないと閉め出すぞ

目を開けると面前に無精髭の生やしてる…その割には整った顔の、多分二十代後半くらいの男性。 私は慌て起き上がるがその際、勢いが良すぎた所為でお互いの頭がぶつかり涙目に相手を見上げた。

痛い…

館長さん

俺も痛ぇよ

はは、ごもっともで…

えと…こんにちは館長さん

館長さん

ああ、…もう夜7時だがな

え?!本当ですか?!

館長さん

わざとらしく驚くなよ

私は毎日このプラネタリウムにやってきて、丁度閉館の七時に帰る…なんとも面倒臭い客なのである。 それでも館長さんは呆れはするものの何も言わない。 寧ろこうやって閉館時間になれば起こしてくれる…。 館長さんが星好きには優しいのがわかっているから甘えている面もあるかもしれない

毎回すみません

館長さん

笑いながら言われてもな。まぁいい…帰るぞ。さっさと支度しろ

ガッテン承知の助!

遊び心で敬礼のポーズを取れば否応なしに館長さんから頭上にチョップを貰ってしまった。

電気をすべて消された館内は何だか怖い。 毎度のことながら怖がりな私は小さく体を震わせた。 館長さんが入り口に鍵を掛け、開かないことを確認してから此方にやってくる。

うーん…

館長さん

どうした?

館長さんってなんか残念なんですよね

館長さん

ほう?…どう残念なんだ?

雰囲気で怒ってるのが分かり、頭を殴られないようガードしておいた。

髭生やさなきゃ…顔はとても整っていて格好いいのに…と。

館長さん

…そりゃあ喜んでいいのか?

勿論です!

館長さん

まぁ、まだ高校生受けする顔ってことで喜んどく。ありがとよ

くしゃり、頭を大きな手で撫でられぼんやり館長さんの顔を見る。 この瞬間が毎日楽しみになっているのは、何故だろうか。

昔から遠い所から一生懸命に光っている星が好きだった 暗い夜を小さな光が集まって照らしてくれる、優しい星の光。

興味があって…でもどうこうする気もなく過ぎた小学生。 ちょっと近所の小さなプラネタリウムが気になりだした中学生 そしてプラネタリウムに入り浸り出した高校生…イコール現在。

初めてのプラネタリウムは予想外に綺麗で驚いたものだ。 本当に近くに星がある錯覚。 ぼんやりとそれを見ていたら、気が付けば閉館時間になっていて館長さんに声をかけられ…って、今考えれば初めから館長さんにはお世話になりっぱなしであった。

…あの、館長さん

館長さん

ん?なんだ?

歩く一歩一歩の幅が違いすぎるのに、平然と隣にいる館長さん。 それをくすぐったく思う。

館長さんって名前なんて言うんですか?

館長さん

は?おいおい、今頃聞くか?毎日胸元に名札してるだろ、河野晴?

あ、私の名前

館長さん

制服の名札

ああ、成る程!

それで館長さんの名前は?

東雲星夜

…星夜。東雲星夜だ

星夜さん、か…。星のためにつけられた様な名前ですね。羨ましい

東雲星夜

お前も顔に似合わず可愛い名前じゃねぇか

あ、酷い!

確かに平凡ですけど… ブスッと顔をしかめれば途端謝られた。

東雲星夜

悪かった。そんなに怒るな晴

…っ

いきなり名前呼び捨てされ何故かドキッとする。 それを振り払うように空を見た。 空の星は、プラネタリウム程星はなく煌めきも少ない。 肉眼で確認できる星は数を数える位しかないのが悲しい。 本当の星は人の作り出した人工的な光の所為で見えなくなっていて…。

星夜さん。私がね小学生の頃の冬の夜。停電になったことがあったんです

東雲星夜

原因は発電所の電子機械の不具合で、此処一帯の電気がすべての消えて

東雲星夜

…そうか

家の中が真っ暗で、家族も私以外買い物に出ていて居なくて…独りで怖かったんです。…寒かったけれど外に出て…驚いた。外がこんなにも明るいなんて

電気は何一つないんですが、でも明るかった。驚いて空を見上げたら無数の星の輝きが空一杯埋め尽くしていて…

私はその光景を思い出して頬が緩むのを感じた。

凄く綺麗だと思ったんです。それから星に興味が湧いて…って感じです、はい

どうでもいい話ですすみません、と謝れば隣から柔らかい空気 見れば小さく笑っていた星夜さんと目があった

東雲星夜

そうか

はい…

東雲星夜

あー…俺はな…

不意に星夜さんが空を指差した。 指に沿って空を見上げる。

北極星?

東雲星夜

ああ、ポラリス。こぐま座の一部だ

あ、知ってますよ、何度もプラネタリウムのナレーションで聞きました!

東雲星夜

ほー。流石に勉強してるか。

それは、勿論!

東雲星夜

…俺はな、初めは海が好きだった

え?

東雲星夜

意外か?

まぁ…。最初から星が好きなんだとばかり。それに海と星って関係性がないんじゃ…

東雲星夜

大昔、海を航る航海士は北極星を目印に航海していたらしい。何故北極星を?って思うだろ?北極星は星のなかでも異例で動くことがないんだ。航海士はそれに目をつけ迷わないよう北極星に目印にした。

へぇ

東雲星夜

それから北極星に興味が湧いてな。…調べたら北極星はこぐま座の一部だと知った。それから星の奥の深さにのめり込んだ。星座、神話…何でも調べていった

星夜さん、頭良さそうですもんね

興味持ったら、全て知り尽くすまで諦めなさそう、と言えば苦笑いされた。 否定しないんですね…

東雲星夜

でも星の謎に終わりなんてきっとねぇよ…

…星の謎、かぁ。…そうだといいな…。謎なんてずっと謎のままがいいです…その方が神秘的…

それに私は星が空に瞬いていたら、綺麗だったらそれでいいです

東雲星夜

っははは、お前らしくていい…っ

途端吹き出しお腹を抱え大笑いする。 声が静かな住宅街に響く。

どうせ馬鹿ですよ!平均的な頭ですよー

東雲星夜

くくっ

笑ってないで否定してください、星夜さん!

東雲星夜

ふ、っああ、悪かった…はは

…っもう、もう怒りましたからね!

東雲星夜

怒ったのか…?っ…はは!

ってい!

東雲星夜

っ?!

背中を押した。 油断していた星夜さんは電柱に当たりそうになり、慌て避けていた。 してやったり、と笑い私はY字の曲がり角の左手を曲がる ここが私と星夜さんの別れ道。

それじゃあまた明日ー!

手を上げ、仕返し出来上機嫌な私は悠々と歩く 悔しがってると想像していたのに

東雲星夜

…またな、晴

何事もないように後ろから言われた ひとつ上手な星夜さん。 悔しいけれど…

昨日は「またな」だけだった。 今日初めて名前を呼ばれた… ただそれが嬉しくて… 何でも許せる気がした。

プラネタリウムの星

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

85

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚