かさね
んー!やっぱ田舎さいこー!
お母さん
こらこら
お婆ちゃん
いいのよ、田舎なのは間違いないんだから
お母さん
もぅお義母さんまで…
お母さん
遠く行っちゃだめよ~
かさね
大丈夫ー庭で遊ぶだけだからー
???
…志乃?
かさね
ん?
???
志乃…なの?
かさね
誰?
かさね
志乃って…お婆ちゃんの名前…
???
はぅ(コソッと隠れる)
かさね
(あ…怖がらせちゃったかな…?)
かさね
あたしは、かさねっていうの
かさね
あなたは??
???
……志乃からは童子(わらし)って呼ばれてた
かさね
わらし?
童子
うん
かさね
分かった!童子だね!
かさね
一緒に遊ぼー!
童子
…いいの?
かさね
うん!
かさね
あ、折り紙とかあるよ~何か折る??
童子
折り鶴…とか
かさね
いいね!沢山作ろー
童子
うん!
お婆ちゃん
おや?折り紙かい?
かさね
うん!童子と折ってるの
お婆ちゃん
童子?…童子がここにいるの?
かさね
うん、いるよ?
お婆ちゃん
今も?
かさね
うん、ここで一緒に折ってる
童子
志乃?
お婆ちゃん
…そうかい。まだ、童子は居たんだね
かさね
?
かさね
どうゆう事?
お婆ちゃん
童子はね、大人になると視えなくなってしまうんだよ
そこで初めて、あたしは童子が座敷わらしだと知った。
かさね
座敷…わらし?
お婆ちゃん
そう、家に住む妖怪だよ。
かさね
でも、童子は全然怖くないよ
お婆ちゃん
座敷わらしはね、家に居着いて、いい事を招いてくれる良い妖怪なのよ
かさね
そうなの?
お婆ちゃん
そう。お婆ちゃんも昔は視えて、一緒に遊んだもんだよ。
童子
かさね、伝えて
童子
私はずっと、志乃の事、見てたよって
かさね
うん
かさね
あのね、お婆ちゃん、童子がね、ずっと、お婆ちゃんの事見ててくれたって
お婆ちゃん
そうかい、そうかい
童子
志乃が笑ってくれてる…私も嬉しい
かさね
何だかあたしも嬉しいよ
かさね
あ!そうだ!
かさね
お婆ちゃん!ちょっと、童子と出掛けてきていいかな?
童子
え?
お婆ちゃん
いいよ
かさね
ありがとう!お婆ちゃん!
かさね
童子、行こ!
童子
え?!
童子
…私、家にいなくても良いのかな…?
かさね
座敷わらしがずっと、座敷に居なきゃいけない理由とかってある?
童子
ない…と思うけど
かさね
なら問題無し!こっちこっち!
童子
?
かさね
ほら、ここ!
童子
わぁぁぁぁぁぁぁ
かさね
凄いでしょ!
童子
うん!
かさね
レンゲって花なんだって!
童子
凄いね…1本ずつ、摘んで帰らない?
かさね
?
かさね
なんで?
童子
押し花作ろう
かさね
押し花?
童子
作り方教えるよ!
童子
摘んで、早く帰ろう!!
こうして、童子と私は蓮華を持ち帰り、押し花を作りはじめた。
かさね
この本でいいかな?
童子
いいよー
童子
それで、新聞紙挟んで…
童子
和紙も引いて…
かさね
ここに花を乗せるの?
童子
そうそう
お婆ちゃん
おや、押し花かい?
かさね
うん!童子に教えて貰って作ってるの!
お婆ちゃん
そうなんだね。いっぱい、童子と遊んでやってね
かさね
うん!
童子
でね、こう挟んで…
童子
3~4日すれば完成だよ!
かさね
えーすぐ出来ないの?
童子
乾かなきゃいけないからダメだよ
かさね
うー…あたし、明日には帰るの…
童子
え…
童子
そうなの…?
かさね
ゴメンね、童子…
お婆ちゃん
押し花の本はそこの端に置いておくから、またいつでも遊びにおいで。
お婆ちゃん
その時に、童子と一緒に出来上がりを見るといいよ。
かさね
うん!童子、また必ず遊ぼうね!
童子
うん!約束だよ、かさね!
あたしと童子は夜も一緒に布団の中でお話ししたりして朝まで遊んだ。
かさね
…ゴメンね…また来るからねっ!
童子
ううん!大丈夫!またね、かさね!
そう言って手を振ってサヨナラした1ヶ月後にその事件は起きた。
かさね
え…?
かさね
うそ…
かさね
お婆ちゃんが死んだって、嘘だよね!!
お母さん
お母さんも信じたくない…けど…
お母さん
眠るように亡くなったって聞いたわ
お母さん
…寿命だったかもしれないわね
かさね
お婆ちゃん…
かさね
(童子…大丈夫かな…)
お母さん
だから、今からお婆ちゃんの家に行くけど、良いわね?
かさね
うん!
お母さん
お母さん、親戚の人と話があるから、お婆ちゃんのところのお線香、消えないように見ててくれる?
かさね
うん…
かさね
…童子
童子
かさね?
かさね
お婆ちゃん…死んじゃったね…
童子
…うん
童子
今朝ね、志乃が寝てて、起きた時に志乃と目が合ったの
童子
そしたらね
童子
『あぁまだ居てくれたんだね』って
童子
志乃…死に際だったのか私の事、視えてて…
かさね
…童子…
童子
志乃ね…ずっと、私が心配だったって。
童子
視えなくなってからもちゃんと家にいてくれるかって、心配だったって…
かさね
うん…うん…
童子
でも、居てくれてありがとうって、かさねとも仲良くなってくれてありがとうって…
かさね
童子…
いつの間にかあたしも童子につられてボロボロと泣き出していた。
童子
志乃…安心したのか…そのまま死んじゃった…
童子
視えて、話せたから…もっと話したかった…話したかったよぉ…
かさね
……
童子
志乃ぉ…しのぉ…わぁぁぁん
かさね
ふぇぇぇぇ
童子
志乃はね
童子
生まれた時からずっとこの家に住んでたんだよ。
童子
私も、ずっと、この家に居たの
童子
志乃が小さい時から、ずっと、ずーっと一緒に遊んでて…でも、いつの間にか私の事が視えなくなってた。
童子
結婚してもね。志乃のお母さんやお父さんは家に居なかったし、一人っ子だったからここに住んでたの。
童子
志乃は男の子を産んだよ。
童子
だけど、私の事は視えなかったみたい。
童子
…初めて、かさねにあった時、すごく志乃にそっくりだったの。
童子
だから、話しかけたら、聴こえるかなって。
かさね
…ちゃんと聴こえたね
童子
うん。…嬉しかった。
童子
志乃と遊んだ時みたいにいっぱい遊べた!
かさね
うん
かさね
かさね
あのね、童子
童子
ん?
かさね
お婆ちゃんが居なくなったから、この家、取り壊すってお父さんたちが言ってたの…
童子
…うん。分かってた。
かさね
え?
童子
志乃がね、かさねと一緒に暮らしてなかった理由がね
童子
居なくなると…ここを取り壊しになって、私が居れなくなるからって、一緒に住むの断ってたんだ。
かさね
そう…なんだ
かさね
かさね
ねぇ?童子
童子
ん?
かさね
うちに来ない?
童子
え?
かさね
そしたら寂しくないし、あたしとも遊べるよ!
童子
そうだね。
童子
それも楽しそうだけど…
童子
私、座敷わらしだから
童子
この家の最期も看取ってあげなきゃ
かさね
童子…
童子
あ、そうだ!
童子
これ
かさね
これ…レンゲの押し花
童子
出来上がってたから栞にしちゃった
童子
本当は、かさねが来たら一緒にやろうと思ってたけど…
かさね
急…だったもんね
童子
うん…
かさね
でも、ありがと!
かさね
絶対、大事にするね!
かさね
お婆ちゃんと、童子の大事な想い出だから
童子
かさね…
あたしはわがままを言って、解体の工事に立ち会った。
かさね
お婆ちゃん…童子…
解体される家の柱の側に、お婆ちゃんと童子の姿があった。
童子
かさね、ありがとう
童子
…また、ね
かさね
ねぇ、童子、お婆ちゃん
かさね
蓮華の花の花言葉って知ってた?
かさね
『心が和らぐ』と『幸福』なんだって
かさね
童子やお婆ちゃんと一緒にいた時間はとても『心が和ら』いだし
かさね
二人もとても『幸福』だったね
かさね
あたし、絶対忘れないね
かさね
童子の事も、お婆ちゃんも
子供
ママー
かさね
どうしたの?詩乃?
子供
あそこにね、女の子がいるのー
かさね
え…?