水柴晶
おい
遅れるぞ!

椎名万理
んんっ
今行く!

水柴晶
相変わらず金属を食べるお前の姿は勇ましいな

椎名万理
それ誉めてるつもり?

水柴晶
もちろんだ

水柴晶
瓦礫の山を崩すショベルカーとか

水柴晶
鉄屑をぺしゃんこにするプレス機とか

水柴晶
男の子は誰でもそんな働く車に憧れを持つものなんだ

椎名万理
つまりは誉めてないということだな

水柴晶
ところで
お前どうして寝坊したんだ?

椎名万理
そうだよ
大変なんだよ!

椎名万理
今日
風香と美月が家に泊まりに来るって言うんだ

水柴晶
別に友達なんだからそれくらい普通だろ?

椎名万理
わからないのか?!

椎名万理
泊まりに来るってことは私の部屋を見られるんだ

椎名万理
あの金属板だらけの部屋を!

水柴晶
まだ二人にお前の体質のことを言ってなかったのか?

椎名万理
…言えるわけないじゃん

椎名万理
金属の咀嚼音をさせる奴となんて

椎名万理
一緒にご飯を食べたいと思ってくれるわけない

水柴晶
まあ
こればっかりはお前の心の問題だから

水柴晶
俺には何も言えないけどな

椎名万理
…

どうしても私には小さい頃の、あの時のことが甦ってしまう
金属板を食べる私に向かって、ママがバケモノ呼ばわりしたこと
そして、そのバケモノが他ならぬ自分の中から生まれたことをママが後悔していたこと
椎名万理
ああもう!
あとは二人が今日の約束を忘れているか

椎名万理
あるいはミニサイズの隕石がいい具合に当たって

椎名万理
記憶が吹っ飛ぶかを祈るしかない!

水柴晶
そんなこと祈るなよ!

椎名万理
我が身に宿れ
コズミックパワー!

始業の鐘が鳴る。私たちは席に着き、先生がやって来る
先生
それでは今日は転校生を紹介する

天河美月
転校生だって
男の子かな?
女の子かな?

椎名万理
…もしかして?

嵐野才人
皆さんはじめまして!
嵐野才人と言います

嵐野才人
家庭の都合で一人暮らしをすることになって

嵐野才人
この学校に転校することとなりました

嵐野才人
これからよろしくお願いします!

そう言って彼は相変わらずのとびっきりの笑顔で挨拶をした
周りは「可愛い」とか「かっこいい」などと黄色い声援を飛ばしている
私はそんなことには構わず、今日のお泊まり会をどう解散させるかについて頭を悩ましている
蒼井風香
なあなあ聞いたぞ!

椎名万理
ん?何を?

蒼井風香
転校生が万理と一緒に楽しく下校をしたって言ってたぞ

椎名万理
あいつは何を言いふらしているんだ?

蒼井風香
…で
どうなんだ?

蒼井風香
面白いことになったのか?

椎名万理
何が?

蒼井風香
恋に発展したのかってことだよ

椎名万理
はあ?

恋も何も、私は金属を食べる人間で、あいつは冷蔵庫泥棒だ
椎名万理
あり得ないよ

天河美月
っていうことは
やっぱり万理は

天河美月
水柴君と付き合ってるってことだね?

椎名万理
もっとあり得ないわ!

嵐野才人

嵐野才人
何話してるの?

蒼井風香
おっと
噂をすれば嵐野君じゃないか

嵐野才人
椎名さん
昨日は道案内ありがとうね

椎名万理
ん?
なんてことないよ

蒼井風香
どうして万理は嵐野君の道案内をしてあげたんだ?

嵐野才人
たまたま俺と同じマンションに椎名さんが住んでて

嵐野才人
一緒についてきてもらったんだ

天河美月
ってことは水柴君と合わせて三人が同じマンションにいるんだ?

嵐野才人
水柴君?

天河美月
えっとね…

椎名万理
私のただの幼なじみ!

椎名万理
それ以上でもそれ以下でもない!

天河美月
ううっ…

ふぅ~、危ない危ない。美月の恋愛脳には困ったものだ
嵐野才人
君たち二人は椎名さんとは仲がいいんだ?

蒼井風香
うん
まあね

蒼井風香
万理とは高校一年の時に初めて出会ってからずっと友達なんだ

蒼井風香
ちなみに私の名前は蒼井風香
よろしく!

天河美月
私は天河美月です
よろしくね

嵐野才人
へえ~
高校一年の時に初めて出会ったんだ

椎名万理
私はそれまで児童施設にいてな

椎名万理
私は高校から学校に通い始めたんだ

嵐野才人
あぁ…
そうなんだ

嵐野才人
あんまり聞いちゃいけないことだったかな…?

椎名万理
別になんてことないよ

椎名万理
ただ母親が育児に疲れちゃって

椎名万理
私を育てられなくなって施設に入れられたってだけだよ

蒼井風香
まあとにかく
私たちは出会ってからお互いを

蒼井風香
一番の友達だと思っているということなのさ!

天河美月
そうそう
今日だって私たち

天河美月
万理の家に泊まりに行くんだよ!

こうなればあとは小惑星が風香と美月の脳天に小気味良い音を立ててぶつかってくれることを祈るしかない
天河美月
それでさ
風香は何を食べたい?

蒼井風香
私は何でも食べられるけど

蒼井風香
皆で食べるなら鍋がいいんじゃないか?

天河美月
鍋か…
でももう6月だし
鍋って季節でもないよね

椎名万理
…

どうして我が意思に答えてくれないんだ、コズミックストーン!
この日に限ってバイトは休みだし、これじゃあ家に一直線じゃないか?!それに…
嵐野才人
鍋をするなら締めのラーメンは欲しいよね?

椎名万理
なんでお前も一緒に来てるんだ?!

嵐野才人
同じマンションなんだから

嵐野才人
一緒に帰ってもいいじゃんか?

椎名万理
だからってなんでお前も一緒にご飯を食べようとしているんだ?!

嵐野才人
一緒にご飯を食べるとより仲良くなれるって言うよ?

嵐野才人
それこそ家族のようになれるんだとか

椎名万理
じゃあなんだ?!

椎名万理
そのままお前も一緒に私の家に泊まるって言うのか?!

椎名万理
女がいるところに男が泊まっていいわけが…

水柴晶

水柴晶
…ん?誰だ?
って万理かよ

水柴晶
大丈夫なのか?
今朝お前の家に泊まりに来るって…

蒼井風香
よお!

天河美月
お邪魔します

水柴晶
…どういうことだ?

椎名万理
私は自分の家に帰ってきただけだぞ!

天河美月
ねえ?
水柴君と万理って

天河美月
一緒に住んでるって本当なの?

水柴晶
は?!

椎名万理
本当だよな?!

椎名万理
私たち同じ施設出身で一人暮らしを始めたから

椎名万理
節約のために一緒の部屋に住んでいるんだよな!

椎名万理
だから残念ながら風香も美月も泊まることが出来ないんだ

椎名万理
男のいるところに泊まるなんて嫌だろ?

椎名万理
そういうことで
さあ帰れ!

蒼井風香
そういうことだったら泊まりはできないけど…

蒼井風香
ご飯は一緒に食べようぜ!

椎名万理
いや
中は本当に汚いから!

椎名万理
晶は石を食べるだろ?

椎名万理
それはそれは石だらけで散らかってるんだ!

水柴晶

水柴晶
どうでもいいけど
俺は用事があるから出ていくぞ

椎名万理
バイトか何かか?

水柴晶
施設の手伝いに行くんだよ

椎名万理
ああ
そういうことか

天河美月
どういうことなの?

椎名万理
私たちがお世話になった児童施設に手伝いに行くんだ

椎名万理
あそこは施設長が一人で世話をしているから

椎名万理
たまに私たちが手伝いに行ってるんだ

椎名万理

椎名万理
そうだ
私も手伝いに行こう!

椎名万理
ってな訳で
非常に残念だが施設を手伝いに行くことになった

椎名万理
二人には悪いけど恩人への恩返しなんだ
わかってくれ

蒼井風香
それなら私たちも一緒に行こう!

蒼井風香
それで手伝うついでにご飯を皆で食べて泊まらせてもらおうぜ!

天河美月
それはいい考えだね!

椎名万理
いやちょっと
…迷惑だよな?晶?

水柴晶
手伝ってくれるならありがたい

水柴晶
掃除や食事の準備とか常に人手は足りないし

水柴晶
来てもらえると助かる

椎名万理
うおおい
…ちょっと!

嵐野才人
そうと決まったら
皆で行こう!

椎名万理
ちょっと待った

嵐野才人
どうしたの?

椎名万理
どうしてお前までついてくるんだ?

嵐野才人
人手はいくらあっても足りないんでしょ?

嵐野才人
だったら手伝わせてよ

嵐野才人

嵐野才人
それに
椎名さんの育った場所を見てみたいしね

椎名万理
何だそれは?

水柴晶
おい

椎名万理
?

水柴晶
こいつは誰なんだ?

椎名万理
今日転校してきた
クラスメートだよ

嵐野才人
はじめまして
水柴君

嵐野才人
嵐野才人って言います

水柴晶
ああ
よろしく

蒼井風香

蒼井風香
おーい
早く行くぞ!

ってな訳で、皆で私の育った児童施設に行くことになった
現在、#8まで投稿中。気が向いたら、最新話まで読んでやってください