ボク
おはようー

麻里奈
おはよ

麻里奈
今日も眠そうね

ボク
うーん。10時間くらい寝たんだけどなー

ボク
眠そうに見える?

麻里奈
うん。

麻里奈
まあ、いつもの事だけどー

と、キミがボクに微笑んだのは、まだ寒さの残る3月の朝だった。
ボク
麻里奈。麻里奈さーん。

麻里奈
なーに?

ボク
帰りにドワノールで、ケーキセット食べて帰らない?

ボク
もちろん割り勘で。

麻里奈
割り勘はありがたいけど、今日は放課後に先生からお話があるんだって。

ボク
何の話?

麻里奈
わかんない。先生に呼び出されるのなんて初めてだもの。

ボク
そっか。んじゃ先に一人寂しく帰るかね

麻里奈
まってまって、きっとすぐ終わるよ。図書館で寝て待っててよ。

麻里奈
ドワノールのケーキ、食べたい気分だし。

図書館で目が覚めたのは、それから1時間?2時間?ほど眠っていただろうか。目の前に麻里奈がいた。
麻里奈
あのね

麻里奈
わたし、明日、久留米に引っ越すんだって。

麻里奈
先生の話し合いにママも来てて。

麻里奈
わたしは、片親でしょ?

麻里奈
久留米のおばあちゃんの家に引っ越すって…

ボク
え。来年は受験だし、なんで今なの?

麻里奈
恥ずかしいけど、うち、貧乏だからさ。

麻里奈は泣きそうな、それでも気丈に少しはにかんだように笑った。
かける言葉を探したけど、何て言葉をかけていいのか、あの頃のボクにはわからなかった。
ボク
そうなんだ。もうドノワールに行けなくなっちゃうんだー

ボク
寂しいなー

麻里奈
そうだね。

麻里奈
でも

麻里奈
今日、行くんでしょ、ドノワール。割り勘でー

ボク
ボクが奢るよ。

麻里奈
またまたー無理しない無理しない

麻里奈
割り勘が二人のルールじゃん。

ボク
そっか。

ボク
もう帰れるの?

麻里奈
うん。教室に戻って帰りの支度してくる。

麻里奈
ここで待ってて。

ボクには何も出来ない。麻里奈の家庭の事情に口を出したなら、きっと麻里奈は傷つくと思ったから
麻里奈
お待たせー

麻里奈
さ、ドノワールへレッツゴー

ボク
うん。

ドノワールについてボクたちの会話はイマイチ弾まなかった。
麻里奈
ねぇー

麻里奈
ねぇー

ボク
はい!

ボク
うん?何?

麻里奈
あのね、今から駆け落ちしてくれないかな?

ボク
駆け落ち!?

麻里奈
そそ。

麻里奈
昔ね、静岡に住んでいた時に、海の見える高台の階段があってね。そこに腰掛けてわたし、いつもパパの帰りを待ってたの。

麻里奈
忠犬ハチ公みたいでしょ?もうこの世にいないパパをずっと待ってた。笑っちゃうよね。

ボク
そうなんだ。

麻里奈
そのわたしのノスタルジックな思いが詰まった場所にキミと行きたいのだ!

麻里奈
ダメかな?

ボク
ボクは、ボクは構わないけど、お母さんが心配しない?

麻里奈
心配させるから駆け落ちなんじゃん!

麻里奈
まー無理にとは言わないけど、行ってくれないなら、ココ奢ってね

ボク
いこうか。

麻里奈
それは、ココを出るってコト?それとも駆け落ちにつきあってくれるの?

ボク
駆け落ち!!

麻里奈
ほんと?

ボク
静岡だと新幹線で…2時間くらい?

麻里奈
そだね、富士宮駅で降りて、そこからバスで20分くらい。

ボク
帰りはどうしようか?

麻里奈
帰りの予定を立てる駆け落ちなんて聞いたことなーい

ボク
だね。

麻里奈
とりあえずー

麻里奈
制服はまずいかな?

ボク
大丈夫だよ。もう子供じゃないんだし。

ボク
じゃ、いこうか。

麻里奈
ありがと。

ボク
え?

麻里奈
ありがと。

麻里奈
いつも一緒にいてくれて

麻里奈
ありがと。

ボク
なんで泣いてるの?

麻里奈
サヨナラだもん。

麻里奈
明日には私の前にキミはいなくなる。ずっとずっと一緒だったのにね。

ボク
また、久留米に会いにいく。

麻里奈
いつきてくれる?

ボク
明日

麻里奈
サヨナラじゃないよね?

ボク
サヨナラじゃない。

麻里奈
じゃ、なんだろ?

ボク
充電期間…かな?

麻里奈
何を充電するのさー

ボク
で、駆け落ちは?

麻里奈
うん。もういいの。

ボク
心変わりが早いのは相変わらずだねー

麻里奈
そんなことないよ

麻里奈
充電が満タンになったら…

麻里奈
わたしごと迎えに来て欲しい

ボク
約束する。

麻里奈
待ってるから。

麻里奈
おはよー

ボク
おはよー

麻里奈
相変わらず眠そうだねー

ボク
だって、残業で3時間しか寝てないもん

ボク
眠そう?

麻里奈
変わらない。

麻里奈
ネクタイ曲がってるよ?

久留米駅を出て、ボクは眠気まなこで会社に向かった。
ボク
麻里奈

麻里奈
うん?

ボク
静岡の海の見える高台の階段。

麻里奈
うん。

ボク
明日いこっか?

麻里奈


Fin
ご愛読ありがとうございました
