目覚まし時計が鳴って 目が覚める。
あれから2週間が経ち、
私の日常は歪みつつあった。
花野想優
い゙っ、
一つ、一日に数回 激しい頭痛がすること。
花野想優
あれ…
二つ、日常生活での動作が 出来なくなったこと。
いつも煎れていたはずの コーヒーの煎れ方が分からない。
前まで行っていた店への 行き方が思い出せない。
ソレ 日常の節々で、呪いは 私の生活を妨げた。
家入硝子
おはよう想優
花野想優
おはよう硝子
そして万が一身体にも 異変が起きた時のために、
一日二回、朝と夕方に 硝子に診てもらっていた。
家入硝子
今日も身体に異常はなし
花野想優
よかった
家入硝子
変わりないか?
花野想優
うーん、分かんないんだ
もう、今まで何が出来て 何をしていたか。
何が出来なくなって、 何が変わったのかも。
でもそんな事を言ったら 硝子が悲しむだけだから、
私は笑って誤魔化した。
補助監督
おはようございます
補助監督
今日もよろしくお願いしますね
花野想優
おはようございます
花野想優
よろしく…?
「今日も」?
補助監督さんの言葉に 違和感を感じる。
この人、 会ったことあったっけ?
補助監督
想優さん?
花野想優
!
花野想優
あ、よ、よろしくお願いします
一向に車に乗らない私を 変に思ったのか、
補助監督さんに名前を呼ばれて 我に返る。
きっとこの人はいつも私と 任務に来てくれる人。
忘れているのは私の方。
あぁ、きっと大切な人なのに。
思い出せない。
花野想優
っ……
申し訳なさに視界が歪む。
涙を堪えて ただ車に揺られた。
ひらりひらりと 花弁が落ちるように、
こぼれ落ちてしまう記憶。
何を忘れたのか 分からなくても、
頭の痛みが それを知らせる。
花野想優
( 皆、ごめんなさい… )
忘れたくない。
もうこれ以上、 大切なことを一つだって。
そう願っても、 無情にも花は散り続けた。