ユキ
やめて!
省吾がユキを押し倒した。
省吾
大丈夫、大丈夫だ
省吾
みんなやってることだ
ユキ
やだ!やだよ!
省吾
お前が大きくなるのを
省吾
ずっと待ってた
ユキ
(やっぱりそうだったんだ!)
ユキ
(お父さんは…私のことを…)
ユキ
(そういう目で見てたんだ…!)
省吾
お前はもう
省吾
十分、大人になっただろう?
ユキ
やめて!やめてよ!
ユキ
(このままだと…お父さんに…)
省吾がユキの服をまくりあげた。
ユキ
やめて──っ!
ユキは無我夢中でスパナを振り上げた。
ガッ
省吾
な…ユキ…!?
省吾
お前、何を…!
ユキ
やだ!やだ!!
ユキ
離して!離してよ!
ガッ ゴスッ ガツン
ユキは何度も何度もスパナを振り下ろす。
省吾
う、うう…
ユキ
やめて!やめて!!
ゴッ ゴスッ ガッ
省吾
…………
ユキ
はあ、はあ…
ユキ
あ…
ずるり
ユキ
ひぃ…
ユキは必死で省吾の下から抜け出した。
ユキ
…血、血が…こんなに…
ユキ
シーツにも、枕にも…
ユキ
私の手に、も…
ユキの手からスパナが滑り落ちた。
ユキ
お…おとうさん…?
省吾
…………
ユキ
ねえ、ちょっと…
ユキ
ウソ…動かない…
ユキ
まさか…
ユキ
──死んでる?
ユキ
やあっ…ああ…
ユキ
私が…殺した…?
ユキは気を失った。
ヨシタカ
やっと起きたか
ヨシタカ
おはよ
ユキ
…え?
ユキ
私、あれから…?
ユキ
あっ!
ユキ
…え?あれ…?
ヨシタカ
どうした?
ユキ
なんとも…ない…?
ユキ
あれだけの血が…
ユキ
シーツ…枕も…
ユキ
汚れてない…
ユキ
私の手も…?
ユキ
え、あれ?なんで…?
ユキ
一体どうなってるの…?
ユキ
もしかして、夢…?
ヨシタカ
なんだなんだ
ヨシタカ
起きるなり、何騒いでるんだよ
ユキ
だって、私…
ユキ
おと、お父さんが…
ユキ
昨日の夜、私を
ユキ
襲おうとしたから、私…!
ヨシタカ
ちょ、ちょっと落ち着け
ヨシタカ
ほら、深呼吸
ユキ
う、うん…はあーっ
ヨシタカ
で?そんな夢を見たって?
ユキ
夢…?
ユキ
違う、あれは夢なんかじゃ
ヨシタカ
夢だろ
ユキ
…でも…
ヨシタカ
だって、なんともないじゃん
ヨシタカ
さっきも、血だのなんだの言ってたけど
ヨシタカ
どこにあんの?
ユキ
…ない…ね…
ヨシタカ
だろ
ユキ
(本当に…夢だったの?)
ユキ
(そうだったら、どんなにいいか…!)
コン コン
恵子
晩ごはん、置いておくね
恵子
今日はユキちゃんの好きな
恵子
チーズハンバーグにしたよ
ユキ
…ね、ねえ
恵子
ユキちゃん?な、何?
ユキ
あの…
ユキ
あ、あのね…
恵子
うん、何?
ユキ
お、お父さんのことなんだけど
恵子
…お父さん?
ユキ
ど、どうしてるかなって…
恵子
…何言ってるの?
ユキ
え?
恵子
忘れちゃったの?
恵子
お父さん、急な転勤で
恵子
単身赴任することになったでしょ
ユキ
…単身…赴任…?
恵子
あなたにもこの前
恵子
その話、したはずだけど
ユキ
え…そ、そうだったかな…
ユキ
単身赴任…
ユキ
それが本当なら、お父さんは
ユキ
生きてる…の…?
ユキ
(本当に、そうなのかな)
ユキ
(お母さんの顔は見えないし)
ユキ
(嘘をついていたとしてもわからない)
ヨシタカ
わざわざ母さんに聞くなんて
ヨシタカ
まだ気にしてたんだ?
ユキ
だって…
ユキ
ねえ、ヨシタカは
ユキ
単身赴任のこと、知ってたの?
ヨシタカ
だから言ったろ
ヨシタカ
お前は親父を殺してなんかいない
ヨシタカ
夢だって
ユキ
じゃあ…
ユキ
あれは本当に、夢だった…?
ヨシタカ
夢だよ
ユキ
(お父さんを殴った時の、感触…)
ユキ
(ぬるぬるした生あったかい血…)
ユキ
(あれが…本当に…?)
ヨシタカ
また余計な事考えてるな
ユキ
えっと…
ヨシタカ
リアルな夢、見ただけだろ
ヨシタカ
あんま深く考えるなよ
ユキ
うん…








