森の空は灰色に曇り、遠くで砲撃の残響が空気を震わせていた。
兄さん
……この静けさは不自然や。敵軍がこの森に潜んでたら、移動中に気付くはずやった

しんぺい神
でも実際には誰もおらへん……代わりに“彼女”が倒れてた

テントの中心、野戦布の上に横たわるみる。未だ目を覚まさぬまま。
兄さん
目を開けてくれ……もう一度、あの頃みたいに“中隊長”として……

ロボロ
……兄さん、それ以上は……。俺らの中じゃ……まだあの爆発でみるは……

兄さん
黙れロボロ。俺は……あのとき、現場におれへんかった。部下が巻き込まれてんのに、指揮官やのに……

しんぺい神
それでも……誰も兄さんを責めへんよ。みるさんも、きっと

ショッピ
“戦場の幻影”……あの異名、覚えてるんか……? 俺らより階級上でも、ちゃんと名前で呼んでくれて、笑ってくれて……

ロボロ
部下にも、敵にも優しかった……それが命取りやったんやないかって、何度も思ったで……

トントン
偵察終わりや。南東に人影はなかったが、爆風の痕跡がある……。ここは、過去に何かが起こった場所や

ショッピ
やっぱり……この森、“あの時”の戦場なんやな

トントン
……せやけど、お前ら浮かれすぎや。これは任務や。みるが戻ってきたって……戦争は終わっとらんぞ

しんぺい神
でも、俺らの中では……彼女の存在が、ずっと希望やった。軍がどう言おうと……俺たちにとって“中隊長”は、彼女や

オスマン
めぅ……テントの端、まくら整えてきためぅ……。みるが安心できるように……

トントン
ったく……しゃーない奴らや……

トントンはそう言いながらも、みるの傍にしゃがみ、静かに手袋を外す
トントン
お前が……本物なら、目を覚ませ。“我々だ”の中隊長。“あの作戦”を指揮した最強の戦士。……今、戻ってきてくれや

シャオロン
……今さらやけど、みるが戻ってきたこと……軍は黙ってへんやろな

ロボロ
情報が漏れたら……日常組やら、らっだぁ運営まで動く可能性もあるで……

鬱先生
あいつらはみるを……ただの兵士とは思ってないで。元々、“みる”は――

――どこの部隊にも属してへん、特別軍籍。どこからも愛された、最強の傭兵やったんやから
兄さん
……だからや。守らなあかん。今度こそ……俺らでな

再び、風が吹いた。テントの布が揺れ、微かに少女の指が動いた気がした
しんぺい神
……今、指……?

ロボロ
っ……!

シャオロン
……気のせいかもしれへん。でも……

ショッピ
希望は捨てへん。だって――俺ら、また一緒に戦いたいんや

少女はまだ目を覚まさず、だが静かに、仲間たちの声に包まれていた