赤side
女の子1
女の子2
いよいよ今日が授業参観本番の日。
休み時間のクラスメイトの話題は、ほぼ自分の親や授業参観での授業についてで持ちきりだった。
会話に入れない、入る気のない俺たち三人は、みんなの話を右から左に聞き流しながら適当に話題を作って話す。
ほとけ
初兎
ほとけ
そんな他愛もない話をしていても、 刻一刻と授業参観の時間は近づいてくる。
意味がないことはわかっているのに、時間割と時計をなんども往復しては勝手に罪悪感で胸がいっぱいになる。
・・・・・・自分から提案したのにな。
桃side
__準備は整った、 あとは時間を待つだけ。
自分の席に座りながら、自分のズボンの太ももの布部分をギュッと握りしめ、ギュッと目を瞑る。
もう、後戻りはできない。
クラスメイトには俺が学校を抜けるために、「三時間目に体調不良で早退したと、先生に伝えて」と頼んでしまった。
その男の子は突然の俺の願いに一瞬目を見開いていたが、すぐに「わかったよ」と承諾してくれた。
本当に優しい人ばかり、と改めて恵まれた環境に感謝しているとなんだかんだ言ってもう時は迫っていた。
ないこ
男子1
二時間目と三時間目の間の十分休憩の時間で、クラスメイトたちにバレないようにそそくさと教室を出る。
階段を下り、昇降口の下駄箱の近くの柱に身を潜め、時間が過ぎるのをただ柱に寄りかかってひたすらに待つ。
ないこ
ドキドキと高鳴る鼓動を宥めながら、下駄箱の近くでウロつく生徒達の様子を観察し近づいてくる時間へと思いを馳せる。
・・・・・・しかしあまりにも前方に意識が行きすぎて、背後から近づいてきていた人影に俺は気づかなかった。
いふ
ないこ
俺の耳元で突如現れたまろが そっと囁く。
その声に過剰に反応してしまい、なかなかに変な声と大きな声が下駄箱近くの廊下に響いてしまった。
いふ
ないこ
いふ
まさか知り合い・・・・・・いや兄弟に見つかってしまうとは。
なんとかこの状況から逃れようと「なんか用なの」と投げやりに言うと、まろは表情一つ変えずに言い放つ。
いふ
ないこ
咄嗟に頭の中で思いついた嘘を言うと、まろは「え、大丈夫?」と変なところで信用して心配の言葉を投げかけてきた。
いや、嘘ついてるんだから変なところでは無いのだけれど。
いふ
ないこ
ないこ
早くどこかに行ってくれ、という一心でまろをなんとか引き剥がそうと努力をする。
だがまろは「えー」とあやふやな返事をした後、俺の手首を掴み柱にくっ付けた。
ないこ
身動きの取れなくなった俺をまろはじっと見下ろすと__少し悲しそうな顔をしてぽそりと呟いた。
いふ
ギュッと手首を掴む手の力が 強くなる。
もしかしてもう、俺の行動は・・・・・・。
完全に逃げられないこと、チャイムが鳴ってしまってもう戻っても意味がないこと__それからまろの気持ちがなんとなくわかったこと。
この全てが重なってしまって、俺は自分の計画を言わざるおえなくなってしまった。
ないこ
いふ
俺の言葉を聞いた後にまろは手首を掴んだ手の力を緩め、儚げな表情で微笑んだ。
いふ
いふ
黒side
友人
弟たちを学校に送り出して大学へ行くと、同じ学部でいつも一緒にいる友人と会うことが出来た。
「おはよう」と返すと、 突然「お前今日受ける授業なんなの」と尋ねられる。
悠佑
友人
悠佑
なぜそこまで聞く必要があるのか、と不思議に思いながらもそう答えると、友人は驚いたような表情で俺を見た。
そして眉を下げながら 唸り半分に言う。
友人
悠佑
言いにくそうに口籠もりながら、曖昧に言葉を濁す友人に段々とイライラしてきて、「さっさと言え」と言わんばかりに問いかける。
すると友人は焦ったように 早口で言った。
友人
友人
悠佑
思わぬ情報に驚きを隠せない俺。
友人は「知らなかったのか?!」と大学構内に響きそうな声で叫ぶと、詳細を全て話してくれた。
友人
友人
悠佑
「とりあえず行ってこい!」という友人の声とほぼ同時に立ち上がった俺は、バッグを持って「じゃあな!」と足速に大学を出る。
__一体、何がどうなっとるんや?!
赤side
授業参観開始まで、あと5分きった。
みんなが「〇〇ちゃんのお母さん綺麗だね〜」「あの男の人誰のお父さん?」なんて探り合いを始めている。
その状況に少し寂しさを覚えながらも、ただの授業と変わらないしと無理やり自分の気持ちを誤魔化した。
男の子1
ほとけ
初兎
二人もやはり罪悪感があるのか、 そう問いかけられ顔を歪ませながら答える。
チャイムが鳴り、いよいよ先生が来れば授業が始まる__そのタイミングで突如教室がざわついた。
男の子1
女の子1
ふと近くの男子に苗字を呼ばれ驚いて振り返ると__そこには制服を纏ったままのないくんといふくんがいた。
りうら
思わず反応を見たくて、ほとけっちと初兎ちゃんの方向を向くと、彼らもひどく驚いたようでポカンと口を開けて、やって来た二人を眺めていた。
そしてもう一人__。
悠佑
息切れしながらも二人に続いて入ってきたのは、アニキだった。
初兎
ほとけ
さすがにもう耐えきれなかったのか、二人は思わず立ち上がって三人をそれぞれ指差しながらそう言う。
だがそのタイミングで先生が入ってきて、「何立ってるの!」と注意されてしまったせいで渋々椅子に座った。
__一体何がどうなってるんだろう。
混乱し始めた頭をなんとか整理しようとしても、状況があまりにも追いつけなくてさらにこんがらがる。
授業の内容なんてほぼ頭に入らなくて、でも兄たちには良いところを見せなきゃダメな気がして手を上げるも、結局よくわからなくて頭がパンクしそうになった。
初兎
ほとけ
りうら
授業参観も終わり、俺たちも兄弟全員で自分の家へ帰った時のこと。
兄たちから明かされた衝撃の事実に、俺たちはそれぞれ 驚きの言葉を放った。
ないくんが「ごめんね」と両手を合わせて何度も頭を下げて、謝ってくる。
ないこ
〜授業参観前〜
いふ
ないこ
二人が校内に入ろうとすると、 突如ないこの肩が誰かに掴まれるような感覚がした。
悠佑
ないこ
悠佑
悠佑はそう言うと、ないこといふを置いて学校内に入ろうとしてしまう。
その悠佑の腕をないこは勇気を出して掴んだ。
ないこ
悠佑
いふ
腕を掴んだないこの手を振り解こうと悠佑がしたとき、ふといふが悠佑の名を呼び真剣な眼差しで彼を見つめた。
いふ
いふ
悠佑
いふ
ないこ
悠佑
「次からはやるなよ」と高校生組はアニキに視線での圧もプラスされ、念には念をと釘を刺される。
それに対して二人は「以後気をつけます・・・・・・」と苦笑しながら、 そうハモった。
悠佑
アニキは怒りが混じった声ではなく、まるで子供に言い聞かせるようなお母さんみたいに優しい声でそう言った。
悠佑
ないこ
ないくんがアニキの背後から顔を覗かせるようにして、ニコッと笑う。
いふ
悠佑
悠佑
アニキはそう言って俺たち三人の頭をそれぞれ順番に、大きな手で撫でてくれる。
その暖かさに安心して、今まで溜め込んでいた気持ちが一気に溢れ、涙と共に流れ落ちていった。
りうら
悠佑
ないこ
そう言ってくれるアニキとないくんの声は柔らかくて、再び涙がじんわりと溢れ、頬を伝って自分の顔をぐしゃぐしゃに濡らした。
りうら
悠佑
家族はこんなにも暖かい__改めてそう感じた授業参観なのでした。
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