ケイスケ
観念してよ、タケルくん。君がどれだけ正義を叫ぼうと、この『闇の魔導書』の前では無力さ。……開け、グリモワール!

床の魔法陣から赤黒い闇の触手が伸び、タケルの身体を縛り上げる
タケル
ぐ、ううううっ……!! あ、頭の中に、悍ましい何かが……流れ込んで、くる……っ!

ケイスケ
クスクス、そうだよ。そのまま自我を溶かして、あの方の忠実な信者になりなよ……って、え? 冷たッ! 何この激しい拒絶反応!?

バキィィィン!!と、タケルの身体から激しい赤い闘気が爆発し、闇の呪縛を力ずくで粉砕する
ケイスケ
嘘でしょ……!? ユウマくんに続いて、タケルくんまで洗脳を自力で阻止するなんて……! 紅蓮寮のエースって、精神力まで化け物なの!?

タケル
はぁ……はぁ……! 誰が、お前らのカルト人形になんて……なるかよ……ッ!!

ユウマ
……おい。おいおいおい、今の拒絶の仕方、魔力の練り方……。どっかで見覚えがあると思ったら、そういうことかよ

タケル
っ……!? (ユウマの冷徹な視線に気づき、ガタガタと震え出す)

ユウマ
おい、タケル。いや……その偽名で呼ぶのはもう終わりだ。お前、その独特の火の呼吸の癖……。裏社会から忽然と姿を消した、俺の昔の可愛い弟分……【如月(きさらぎ)】の【秀(シュウ)】だな!?

ケイスケ
えっ!? 如月秀……!? それって神代一族と並ぶ、あの暗殺の名門【如月家】の生き残り!?

シュウ
――言うなああああああああああああッ!!!!

シュウの感情が完全に決壊し、部屋全体の温度が一気に跳ね上がるほどの激しい炎が爆発する
シュウ
その名前で呼ぶな!! 僕はもう『如月秀』じゃない! 僕はタケルだ! 暗殺なんてうんざりなんだ! 人を殺して、影でコソコソ生きる人生なんて捨てたんだよ! だから僕は名前も変えて、学校の『人殺しNG』のルールを信じて、普通の魔法使いとして生きていくって決めたんだ!!

ユウマ
ハッ、名門如月家の血筋が、普通の魔法使いだと? 笑わせるな。お前がいくら逃げようが、その染み付いた暗殺の才能と、洗脳を撥ね退けるほどの『暗殺者の精神防壁』は、騙せねえんだよ

ケイスケ
へえ……。まさか、紅蓮寮から来た正義のヒーローが、ユウマくんと同類の『元プロの暗殺者』だったなんてね。あはは! 面白すぎるよ、この寮!

シュウ
頼む……頼むよ、ユウマの兄貴、ケイスケ先輩。僕が『如月秀』だってことは、誰にも……ッ!

ユウマ
おい、勘違いするな。お前のその情けない偽名と正体を、学校の有象無象(他寮の奴ら)にバラす気はねえよ。そんなことすりゃ、如月と並ぶ神代の顔に泥が塗られるからな

シュウ
じゃあ……黙っててくれるのか……!?

ユウマ
ただし、条件がある

シュウ
条件……?

ユウマ
『あの方』以外の人間には秘密にしておいてやる。その代わり、今すぐその『タケル』っていう反吐が出るような偽名と、正義の魔法使いごっこを辞めろ

ユウマ
もう一回こっちの世界に戻ってこい。そして、お前の本当の姿――【如月秀】として生きろ

シュウ
っ……! でも、僕はもう、誰も殺したくないんだ……!

ユウマ
あはは、往き生際が悪いねぇ、シュウくん。もう君は黄昏寮の人間なんだよ? 『あの方』に逆らって生き残った奴はいない。君の暗殺の腕は、もう『あの方』の計画に組み込まれてるのさ

ユウマ
嫌なら今ここで俺が殺してやる。如月の天才が、偽名を使って光の世界でブクブク太っていく姿なんて見たくねえんだよ。……どうする、秀?

シュウ
くっ……あ、ああ……っ……!

シュウは激しく葛藤し、拳を血がにじむほど強く握りしめる。そして――ガクハラと肩の力を抜いた
シュウ
……分かったよ、ユウマの兄貴。……いや、神代の兄貴

ケイスケ
お、目の色が変わったね

シュウ
『タケル』は今日で終わりだ。……もう一度、あのヘドロみたいな闇の世界に戻ってやるよ。これからは【如月秀】として、あんたたちの計画に手を貸してやる。だから……絶対に他寮の奴らには、僕の過去を喋るなよ

ユウマ
ハッ、上出来だ。おかえり、秀。やっぱりお前は、濁った目をしてる方が何倍もお似合いだぜ

ケイスケ
うんうん、素晴らしいね! これで黄昏寮には、神代一族のユウマくんと、如月一族のシュウくんという、裏社会の二大名門が揃っちゃったわけだ

ケイスケ
あ、ちょうど『あの方』からスマホにメッセージが来たよ。……『レンの蒼天寮への潜入は成功した。次なる段階へ移る』だって
