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チリリリ チリリリ
聴き慣れたはずの音に
思わず驚く
音のなる方へ手を伸ばし、重い身体を起こす
憂鬱さは相変わらずだけど
時計の秒針は立ち止まることを知らない
「また、教室に閉じ込められるんだ」
憂いの味がする感情を
静かに飲み込んだ
そういえば頭が重い
身体がどうもベッドに吸い付いて離れない
柔軟剤の香りがするシーツと
一体化した倦怠感に
私に
小窓を叩く音が囁く
ようやく開いた瞼が
やっと
やっと理解させる
雨が降っていると
憂いと虚無感
そんな感情を胸に階段を降りて行く
俯いて空想に浸る私に 気付く人はいない
「おはよう」
呟いた私の声は雨の中に紛れた
自分でも、虚しいと思う
締め切った窓から 微かに聞こえる雨音
薄暗いリビングに
居心地の良さを感じる
電気をつけると 眩しさに目が眩む
安穏さが漂う白熱灯は 教室の明かりによく似ている
ドロドロとした感情が溢れ出す
「学校」
「友達」
「勉強」
「親」
欠けてないのに
何も要らないのに
脳内を真っ暗に蝕む「何か」が
私を欲張りで脆い化物に変える
静寂に包まれたリビングの外から
水溜りを走る車の音が響く
真っ暗な脳内に 現実が戻ってくる
時計が指し示す時間に 僅かな焦りを覚えて
心の中の虚無感に無視をしながら、 オーブントースターにパンを詰め込んだ
昨日と同じ味のパンを詰め込み
昨日より薄暗い空に目を向ける
薄ら残る憂いと虚無感は
偏頭痛と同じ低気圧のせいにした
その考えすらも悲しくなって
パンも
感情も
無理矢理飲み込んだ
「行ってきます」
意味のない言葉を吐き 逃げるように靴を履く
乱暴に開けた扉の隙間から
湿った空気が流れ込む
藍色の傘を開いて 外へと一歩踏み出す
雨が傘に当たり 不規則なリズムを奏でる
雨は、嫌いじゃない
晴れよりはずっと好き
溢れ出す感情も 忘れたい思い出も
嫌なあの子の存在も全部
流して
消して
無かったことにしてくれる
雨の中の私は
空っぽでいられる
校舎が近づいてくる
距離と共に上がる心拍数
私を睨むあの子の視線
私を嗤うあいつの声
この世の全てが
流しきったはずの感情と一緒に 体内に流れ込む
規則的に並ぶ 堅苦しげな下駄箱
私は小さく息を吐いた
空虚な雨音と
陰険な彼らの会話
あまりにも居心地の悪い不協和音を奏でるから
吐き気と似た嫌悪感を覚える
陰険な彼らの持つ 言の葉の刃は
明らかにこっちを向いている
唯一話す友達も 他のこと笑っている
笑っているあの子を見るたび
自己中心的な独占欲に気付く
「みんな消えればいいのに」
太陽が沈むたび 浮かんでくる言葉に
そろそろ飽きてきた
否が応でも流れ込む言葉に
意識を向ける
明日は陸上部の大会
明日は友達と遊園地
文だけ並べれば 晴れの日の空より綺麗
声だけ聞けば 台風の夜のように不穏な言葉
私の不幸を嗤う彼らの幸せ
また自分が嫌いになりそうで
考えるのはやめた
いつも通り居心地の悪い教室を抜け出す
授業内容は殆ど覚えていない
終わってしまえば早い物だと思う
規則的に並ぶ下駄箱に
モヤモヤした安心感を覚える
少しでもあの窮屈な空間から 離れたくて
藍色の傘を開く
不規則な雨音は 私の情緒とよく似てる
そんな考えも全部 また雨の中に流し込む
忘れられる訳もないのに
でも、それでいい気がした
降り注ぐ雨の音が強まる
そんな雨音に身を委ねた
「ただいま」
なんて虚しい言葉はもう捨てた
乱暴に脱いだ靴も どうでもいい
言いようのない脱力感を抱えて
ベッドに寝転ぶ
右手で器用にスマホを取ると
天気予報を見る
明日は、雨
大雨
大嫌いなあの子の陸上部の大会は中止
大嫌いなあいつの遊園地も延期
私は雨が好きだ
大好きだ
私の不幸を喰らう彼らの不幸が
体内に流れ込んで これ以上ない多幸感に包まれる
窓の外で響く雨音に酔いしれる
止まることを知らない秒針は
すっかり夜を示している
そういえば頭が重い
クシャクシャになったシーツと
一体化した私
窓を叩く雨の音が強まってきた
ようやく閉じようとする瞼の裏に
彼らの不幸を描く
私は笑みを溢した
そんな醜い味のする感情も
夜の雨音に掻き消された