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いくつかのクラスを回るうちに

○○はこの学校の構図を少しずつ覚え始めていた

昨日より廊下を歩く足取りが早い

それでも慣れたとは言えない

2年生の教室での説明を終え

次の予定まで時間が空いた

授業中の校舎は静かで

人の気配が薄い

時計を確認し○○は1度立ち止まった

...30分か

無理に職員室に戻るほどでもない

かと言って行き場がある訳でもない

自然と足が向いたのは食堂だった

あそこなら誰もいない

そんな判断

〇〇

...ビンゴ

そこには誰もいなかった

誰もいない食堂は広く

昼とは違って落ち着かない

給湯ポットの前に立ち

紙コップを手に取る

沈黙

〇〇

あれ...

ボタンが多い

表示も分かりにくい

〇〇

なにこれ

小さく呟きながら

とりあえずそれらしきボタンを押す

ピッ

反応なし

もうひとつ

ピッ

違う

少し眉を寄せたその時

横から手が伸びてきた

ここ

短い声

指先が○○の指よりさきに

ひとつのボタンを押す

すぐに機械音

お湯が流れ出す

〇〇

あ...ありがとうございます

反射的にお礼を言って

顔をあげる

二口堅治だった

一瞬視線がぶつかる

○○は何も言わずすぐに顔を戻した

紙コップにお湯が溜まっていく

音だけがやけに大きい

満ちたところで

○○はコップを持ちそのまま立ち去ろうとした

二口

なぁ

背中に、声

二口

なんであんたがこの学校に来たの

沈黙

歩みを止めない

二口

無視?

少し近づく気配

二口

いつまで無視すんだよ

軽い調子

でもどこか探るような声

二口

もしかしてさ...

二口

俺のせい?

茶化すように笑う

○○は足を止めた

一瞬だけ黙る

否定しない

その僅かな間に二口の顔が変わった

二口

...え

二口

まじ?

声が低くなる

その変化を見て

○○はようやく口を開いた

〇〇

...違う

キッパリと

〇〇

そもそも

〇〇

あなた一人のために警察は動かない

振り返らずに続ける

〇〇

買いかぶらないで

一息

〇〇

ただ、若いってだけの理由

〇〇

歳が近い方が話しやすい

〇〇

っていう判断

淡々とした声

〇〇

それに

少し間を置く

〇〇

あの地区は私が任されてる

〇〇

...それだけ

説明でも

いい訳でもない

事実を並べただけの言葉

二口は何も言えなかった

冗談の顔はもうない

○○はそのまま歩き出す

湯気の立つコップを持った背中は

昨日よりも近くて遠い

体育の時間だった

中井

なぁ

中井

加護

加護

ん?

中井

二口どこ行ったの

加護

あー?

加護

そういえばいねぇな

二口の姿がなかった

まぁ...たしかにいつもそうなんだけど

ふらついてて、だるそうだし

でも、そんな所が私は好き

中井

なに加護知らないの?

加護

あー...あれだ

加護

喉乾いたとか言ってたから

加護

食堂に飲み物買いに行った

中井

食堂に?

加護

うん

彼は自由だ

人とは違う

中井柚葉はつられるように食堂へ向かった

食堂に入る手前

自販機の前に中井柚葉はいた

二口を追いかけてきたはずの足は

止まっていた

給湯ポットの前

制服じゃない女の人と

二口

2人の距離は近い

話している声は聞こえない

でも空気でわかる

冗談じゃない

二口の顔が

いつもの軽い表情じゃない

笑ってない

誰かに向けるあの余裕もない

柚葉は無意識に息を止めていた

女の人が何かを言う

背中を向けたまま

二口は言葉を失ったように動かない

次の瞬間その人はコップを持って食堂を出る

迷いがない

すれ違う時二口は

は追いかけない

いや...追いかけられていなかった

ただ立っている

柚葉はその背中を初めて見る気がした

二口は頭を軽く掻き

女の人に続くように食堂を出た

中井

...何、今の

制服でもない

教師でもない

それなのに学校に、彼に溶け込んでる

中井

...嫌い

そう思ったはずなのに

柚葉はペットボトルを握る力が強くなった

何も知らないふりをして

気づかせないフリをしないと

そう思って食堂を出た

二口との会話を終え

○○は廊下を歩いていた

少し先で影が止まる

氷室

振り返ったのは氷室だった

氷室

早かったね

氷室

もう終わり?

○○は一瞬だけ言葉を選ぶ

〇〇

...世の中の機械には

〇〇

ボタンが多すぎます

氷室はきょとんとしてから

○○の意味を汲み取った

そして笑った

氷室

ありゃ

氷室

またなにか壊した?

〇〇

壊さずに済みました

ほんの少しだけ肩の力が抜ける

氷室はそれを見逃さず

わざと軽い調子で言った

氷室

それは進歩だね

○○は何も言い返さなかったけど

否定もしなかった

廊下の窓から差し込む光が

一瞬だけ穏やかだった

その日の夜

学校は静かだけど、夜の街は騒がしい

○○は歩道の見回りで

いつもの地区を歩いていた

ーーまさか

そう思った時にはもう遅い

コンビニの前

街灯の下

二口堅治がそこにはいた

○○は小さくため息をつく

〇〇

...

何も言わずに近づいた

その時

おーい

後ろからだるそうな声

振り返ると

十は年上の上司が立っていた

まーた伊達工か?

舌打ち混じりに二口を見る

おまえちゃんと指導してんの?

○○に向けられる視線は

露骨に苛立っていた

ちゃんと仕事しないで給料取るとか

偉いですねー、女は

だから嫌なんだよ若い女は

空気がピンと張る

二口の表情が一気に変わる

二口

...は?

言い返そうとする前に

○○が静かに手を挙げた

止めるように

二口

...

二口は歯を噛み締めた

〇〇

植松さん

〇〇

手続きは私がやります

視線を逸らさずに続ける

〇〇

先に署に戻っていて下さい

上司は鼻で笑い

「はいはい」と言って手を振りながら去った

残ったのは夜と、2人

しばらく沈黙

二口

腹立たねぇのかよ

二口の声は低かった

○○は一瞬だけ顔をあげる

二口を真っ直ぐ見つめる

それから視線を戻し

ペンを走らせながら言った

〇〇

...あなたが今ここにいなければ

一拍

〇〇

私もこうはならかったのよ

言い訳でも愚痴でもない

ただの事実

紙の上でペンが止まらない

二口は何も言えなかった

夜風が二人の間を通り抜ける

さっきまで軽かった距離が

今は酷く重かった

この作品はいかがでしたか?

300

コメント

3

ユーザー

やばいですね!!!! 二口が〇〇ちゃんに興味があるみたいな!めっちゃ世界観好きですーー!続きが楽しみです!次回も待ってます!

ユーザー
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