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瀬崎徹

(はぁ……やっぱり気が重いな)

視界は最悪だ。幸い俺のカバンに入っていた懐中電灯の頼りない光だけが、雨のカーテンを切り裂いている。

瀬崎徹

「ところで、高島。お前、村までの道知ってるか?」

ぬかるんだ山道に足を取られそうになりながら、俺は前を歩く高島の背中に声をかけた。

高島隼人

「ああ、知ってるぜ。ここに来る前に見たからな」

高島は雨を手で拭いながら答えた。その声は震えているが、なんとか虚勢を張っているようにも聞こえた。

高島隼人

「とりあえず、村まで先行するよ。ついてきてくれ」

瀬崎徹

「わかった」

俺たちは互いの姿を見失わないよう、一定の距離を保ちながら闇の中を進んだ。

木々が風に揺れ、ざわざわと不気味な音を立てている。まるで何かの怪物が、俺たちを嘲笑っているようだ。

しばらく歩いたところで、高島が足を止めた。

高島隼人

「……この先が村なんだけど」

瀬崎徹

「この先か。よし、行くか」

高島隼人

「マジで行くのかよ……。本当に先生たち、いるのか?」

ここに及んで、高島が尻込みするように後ずさる。

瀬崎徹

「わかんないけど、行ってみるしかない。この村に行ったのは確かなんだし」

高島隼人

「はぁ……仕方ねーか。とにかく、慎重にな」

覚悟を決め、俺たちは集落へと足を踏み入れた。

そこは、奇妙な場所だった。古い木造の家屋が数軒立ち並んでいるが、人の気配がまるでない。

窓から漏れる明かりもなく、ただ雨音だけが支配するゴーストタウンのようだ。

高島隼人

「なんか……人が住んでるとは思えないくらい静かだな」

高島が身震いする。

瀬崎徹

「そりゃ、雨が降ってるから中にいるんじゃないのか?」

高島隼人

「うーん……。だとしたら先生たち、どこの家にいるんだよ?」

俺たちが家々の間を抜けようとした、その時だった。

瀬崎徹

「!!」

村人

「………………」

前方の曲がり角から、人影が現れた。雨合羽を着た何者かが手に何かを持って歩いている。

瀬崎徹

「止まれ、高島!」

高島隼人

「うおっ……!?」

村人

「……?」

呑気にその先を歩こうとする高島を制止した。

俺たちは咄嗟に彼の腕を引き、近くの壁に身を隠した。

瀬崎徹

「誰かいる……!」

高島隼人

「あいつ、遠藤の仲間かな……?」

心臓が早鐘を打つ。あの合羽の男に見つかれば、ただでは済まない。俺たちは息を殺し、男が通り過ぎるのを待った。

村人

「………………」

ジャリ、ジャリ……と、砂利を踏む音が遠ざかっていく。

高島隼人

「はぁ……行ったか。心臓にわりぃよ……」

高島がへなへなと座り込みそうになり、ふと視線を横に向けた。

高島隼人

「……あれ?」

瀬崎徹

「ん? 高島、どうかしたのか!?」

高島隼人

「ひっ……!!」

突然、高島が短く悲鳴を上げ、腰を抜かして後ずさった。

その視線の先には、人影のような「何か」が乱雑に置かれてあった。

瀬崎徹

「おい、どうした……?」

俺は慎重に近づき、それを懐中電灯で照らした。

瀬崎徹

「うっ……!!」

光の中に浮かび上がった光景に、俺は思わず口元を押さえた。

そこには、見覚えのある服装の大人たちがゴミのように折り重なっていた。

高島隼人

「これ……先生と運転手さんだよな?」

瀬崎徹

「マジかよ……」

村の隅に乱暴に放置された死体の山。

一番上には、担任の吉原が仰向けになっていた。頭部を鈍器のようなもので強打されたらしく、顔面は血と泥でぐしゃぐしゃに濡れている。もはや苦悶の表情すら読み取れない。

その下にはバスガイドの女性がうつ伏せに倒れており、さらにその奥で、運転手が壁にもたれかかるように絶命していた。

運転手の首は、ありえない方向にねじ曲がっている。一目見ただけで即死だったことが分かる惨状だった。

高島隼人

「だ、誰がこんなことを!?」

高島が震え上がり、涙声で叫ぶ。

頼みの綱だった大人たちが全員殺されている。その事実は、俺たちの最後の希望を完全に粉砕した。

瀬崎徹

「あの遠藤ってやつか……その仲間だろ。もしかしたらまだこの辺にいるかもな」

俺は努めて冷静に言おうとしたが、声が上ずるのは止められなかった。

ここはおそらく、普通の村じゃない。殺人鬼の巣窟だ。

高島隼人

「マジかよ!? やべぇじゃん! なら、早く逃げたほうがいいって!!」

瀬崎徹

「あぁ。そうだな。早く戻ってみんなに知らせよう」

ここに助けはいない。むしろ、ここに留まれば俺たちもあの死体の山の一部になるだけだ。

俺たちは脱兎のごとく踵を返し、来た道を全力で走り出した。

会合所に残してきた仲間たちもまた、地獄の真っ只中にいるとは知らずに……

高島隼人

「はぁ、はぁ……」

泥濘んだ山道を、俺たちは転がるように駆け下りていた。

脳裏に焼き付いた先生たちの死体が、恐怖の源泉となって背中を押す。

高島隼人

「クソ……なんでだよ。俺たち、どうすれば……」

高島が泣きそうな声で呻く。

瀬崎徹

「早くみんなに知らせるしかないだろ。これからのことを全員で決めよう」

俺は前を見据えたまま、短く答えた。

高島隼人

「え……? あ……うん、そ、そうだな……」

高島の足音が少し遅れる。

瀬崎徹

「ん? なんだよ? 何か言いたいことでもあるのか?」

高島隼人

「……いや、お前、なんかすげぇ落ち着いてるよな。俺なんかもう、何がなんだかって感じなのに」

瀬崎徹

「あー……」

言われて初めて気がついた。

確かに、心臓は早鐘を打っているし、恐怖がないわけではない。だが、思考は驚くほどクリアだ。パニックで足がすくむこともない。

瀬崎徹

「……わかんねーけど、逆境には強いんだと思う。去年、浅木にいびられてたせいなのかな……」

高島隼人

「あぁ……らしいな。去年はお前とはクラス違ったから、俺は知らないけど。なんでそんなことになったんだよ?」

高島が紛らわすように話を続ける。俺もそれに乗った。

恐怖を押し殺すには、会話が必要だった。

瀬崎徹

「どうも俺の態度が気に食わなかったみたいだな。ほら、アイツって逆らうとすぐキレるじゃん」

瀬崎徹

「初めはアイツのことよく知らなかったからな。初めて話したときに、ちょっと対応に失敗したのが運のツキだった」

高島隼人

「あぁ……なるほど。それで、あいつらってどんなことやんの?」

瀬崎徹

「んー、顔合わせるたびに絡まれたり、すれ違いざまにわざと肩ぶつけられたり。まぁあげればキリがないけど、そんな程度だよ」

思い出すだけで苦虫を噛み潰したような気分になる。だが、今の俺を形作っているのは間違いなくあの経験だ。

瀬崎徹

「初めは結構堪えたけど、ある日、ある人にもっとしっかりしろって一喝されたことがあるんだよ」

高島隼人

「『ある人』?」

瀬崎徹

「ああ。それで、なーんか色々ふっきれてな。次第に回避する方法もわかってきたんだ。そこからは別に苦じゃなくなったかな」

高島隼人

「ふーん……。そうか」

ただ、今の細波の場合は、俺のときとは少し状況が違う。

今年からあの『バンダナクソ野郎』こと江藤が、新たに浅木の取り巻きに加わったからだ。

こいつが結構厄介で、傍から会話を聞いていると、陰湿かつ悪質なイジメを提案していることが多い。

……もっとも、その江藤も今は頭をかち割られて死んでいるわけだが。

瀬崎徹

「って、こんなこと話してる場合じゃない。早く戻ろう」

高島隼人

「あ! そうだったな! 行こう!」

俺たちは再び速度を上げ、会合所へと続く最後の曲がり角を抜けた。

その時だった。

高島隼人

「!!」

瀬崎徹

「ん?」

香川麻由美

「あ! せ、瀬崎君に高島君!」

高島隼人

「何やってんだよ香川! なんでこんなとこ……あ、いや! それより……!!」

高島が先生たちの死を伝えようとするより早く、香川が悲鳴のように叫んだ。

香川麻由美

「大変なのよ!! あの男の仲間が来て!! 何人か……殺されて……!!」

瀬崎徹

「な……! マジかよ?」

俺の思考が一瞬停止する。

香川麻由美

「5人くらいは殺されちゃったと思う……。最後に逃げたところを確認できたのが、根岸さんと飯塚さんだったのよ」

香川麻由美

「月村さんと細波君はまだ中にいたみたいで、逃げられたかどうかわからないの」

瀬崎徹

「じゃあ、まだ中にいるんだな!?」

香川麻由美

「多分……。あ! それより先生たちは!?」

香川が縋るような目で俺たちを見る。俺は首を横に振った。

瀬崎徹

「ダメだ。殺されてたよ。死体があった」

香川がその場に崩れ落ちそうになる。

だが、立ち止まっている暇はない。俺は香川の肩を掴んで立たせた。

瀬崎徹

「とりあえず、生き残ってるみんなでここから逃げよう。集合場所を決めないとな」

香川麻由美

「なるべくバスのところに集まるのはどう? 集まったらすぐにここを離れるとか!」

瀬崎徹

「よし、そうしよう。じゃあ香川たちは、すぐにみんなを集めてくれ」

香川麻由美

「え、うん。でも瀬崎君は?」

俺は会合所の方角を睨み据えた。闇の中に、あの建物が不気味に佇んでいる。

瀬崎徹

「俺は月村たちを助けに行ってみる。まだ生きてるかもしれない」

香川麻由美

「だ、だめよ!! 危険だってば!! 相手はあの大人数を一人で殺したんだよ!!」

香川が全力で止める。

瀬崎徹

「一人……? え? 一人なのか?」

香川麻由美

「うん……。どうやったのかは見てないけど、私が見たときにはみんなの死体の中に、一人で立ってて……」

だとしたら、相当腕の立つ人間か、あるいは殺しに慣れている異常者か。

だが、「一人」というのは重要な情報だ。

瀬崎徹

「わかった、気をつける。香川たちは行ってくれ。高島、お前も香川たちと行くんだ」

高島隼人

「お前一人で行く気か!? 正気かよ!? 話聞いただろ!? やべぇって!!」

高島が俺の袖を掴む。

瀬崎徹

「でも、まだ生きてるかもしれないだろ。相手は一人なんだから、見つからないようにすれば大丈夫だって」

根拠のない自信だとは分かっている。だが、月村や細波を見捨てるという選択肢は、俺の中にはなかった。

高島隼人

「でも……」

瀬崎徹

「じゃあ、ちょっと行ってくるから。またあとでな」

俺は高島の手を振りほどき、踵を返した。

高島隼人

「お、おい!! 瀬崎!!」

背後で高島が叫ぶ声が聞こえる。

高島隼人

「マジかよ……。度胸ありすぎだろ、アイツ……」

気にせず俺は懐中電灯の明かりを消し、闇に溶け込むようにして、再びあの地獄へと走り出した。

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