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解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
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信じなくてもいいけど@earthquak
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信じなくてもいいけど@earthquak
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信じなくてもいいけど@earthquak
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信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
【画像:ノートに楕円形が描かれそこに目鼻口らしき線が入り、耳と首がくっついている。その左頬に当たる場所に赤で大小の線が入れられていた】
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
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信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
SNS上に呟かれたそれは、嘘か本当かわからない、ひとつの投稿だった。 一年前からはじまり、更新があるのは決まって『地震』の起きる数週間前で。地震大国である我が国であるから、その頻度は、ひと月とあけずにあった。 手書きだった人体図は、フォロワーの提案により、ネットのフリー素材でちゃんとした人体図を使うようになっていた、本人と等身が同じ物を使っているのも、フォロワーからの『正確な位置を知りたい』という要望を受けた上でのことだ。 解析班と呼ばれる、傷の位置から実際に地震が発生する位置を特定する、専門のフォロワー達も出現していた。
信じなくてもいいけど@earthquak
【画像:プリントされた人体図、左太ももに赤ペンで線が描かれている】
信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
アイツが、注意喚起をすることはない。 本人のアカウント名の通り『信じなくてもいい』というスタンスを崩すことはないのだ。 そのことを不満に思っているフォロワーの多くは、素晴らしい能力があって人を助けることができるのに、無責任じゃないのかという怒りの声すらあげる。 本人に向けて、切りつける言葉を平気で吐く。 だが、その意見に対する返答が、本人から発せられることはなかった。 他のフォロワーから、「こうして情報を出してくれるだけでも、ありがたいんじゃないか?」との意見が出ると、それを賛同する声があがる。 いつだって、本人の姿勢はバッシングされたし、擁護された。
解析班
平日の昼間、コーヒーショップの一角でノートパソコンを開いていた手を止め、忌々しく独りごちる。温く、飲みやすくなったコーヒーを一口飲み、キーボードに指を滑らせて、擁護するコメントを打ち込む。 擁護したところでアンチがいなくなるわけではないけど、アイツに味方がいるのだと、声をあげねば伝わらないのだから。 アンチコメントが、アイツの目に触れなければいいのにと思う。 一年前、たまたま見つけたアカウントは、あっという間にフォロワーを増やしていった。 そのぐらい、恐ろしい程の精度で予言をしていた。 この地震大国で、地震の発生を予言するというのは大変なことだ。フォロワー数はとっくに百万を超している。 本人はいつも軽い調子で投稿しているが、投稿するときは必ずその身が傷ついたときなのだから、痛いだろうというのは考えるに容易い。 だから俺は、アイツの投稿があると一番に怪我の状態を心配する返信を送るようにしていた。
解析班
怪我の心配を送ったあとは速やかに解析作業に入る。 とはいえ、既に用意してあるシステムに投稿された画像を取り込めば、自動で座標が確定される。 三日徹夜して作った、自信作だ。 改良に改良を重ね、そして解析データが増えることで精度を増していった。 出てきた座標から地域を特定し、SNSに入力する。
解析班
多少の口惜しさはあるものの、一番最初に書かれている地名ににんまりと笑う。 自分とは違う地名を出してきたそのアカウントは最近出てきた新参者で、古参である自分の足下にも及ばない、雑な解析をしてくる。
解析班
相手に解析の根拠を求め、その根拠の間違いを指摘し、正解に導いていく。 俺たち解析班は戦うためにいるのではなく、より正確に場所を解析するためにいるのだという自負がある。 だから、他の人の意見を聞くし、納得すればほかの人の意見に賛同もする。 最終的に、俺が提示した地域で確定した。 一番乗りをした奴からも賞賛するコメントが入ってきて、優越感を感じる。
解析班
アイツから提示された人体図の傷は、五ミリ以下のものが点在していた、そのサイズならばそう大きな揺れにはならないと過去のデータからわかっている。 ただ、いつもと違うのは――
信じなくてもいいけど@earthquak
アイツも言っているように、時期が早い。いつもなら、一週間くらいあくのに。 もしかしたら……。 前震――SNSにもその文字があがってきた。 こういった小さな地震だけが続いて、大きな揺れは来ないまま終わることもないわけではない、だが、本震がくることもあり得ると知っている。
解析班
パソコンを閉じて冷めたコーヒーを飲み干し、店を出た。
解析班
思わず立ちすくんでマフラーをキツく巻き直すと、慣れぬ雪道に注意深く足を踏み出し、クライアントの会社を目指した。
あれから五日、北海道出張の最終日。思い残すことがないようにと、有名どころのラーメン店へと足を向けていた。 SNSの画面を出したままのスマホをテーブルに置いて、味噌バターコーンラーメンを注文する。営業の成功を祝してチャーシュー増し増しで。 三日前、地震計が動く程度の小さな地震が起きた、予想通りの場所で。 また、アイツのフォロワーが増えた。 予知が当たる度に増えていく、アイツを知る人間が。 だけどアイツがフォローバックしてる人間は、俺だけだ。一番はじめに声をかけ、アイツを見つけた俺だけを、アイツは認めてる。 アイツのプロフィールのフォロー中の数字を見る度に安堵し、優越感を感じる。 それがらみで俺のフォロワーも増えた。俺が解析班の筆頭であるせいかもしれないが、一気に伸びたフォロワー数に最初はびびった。 過去に身バレするような発言してなくてよかったと心底安堵した、人生なにがあるかわからない。 俺はアイツ以外のフォローをすべて解除して、アイツ発信の呟きだけを表示させるようにした。 自分でも、かなり入れ込んでいると思う。
店員さんが運んできたラーメンを受け取り、その盛りのよさにワクワクしながら割り箸を割ったそのとき。 ピロリン 跳ねるようなその音に、すかさずスマホを掴んだ。アイツの呟きが更新された。
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
ラーメンを避け、横目でスマホの画面を確認しながら、ノートパソコンをテーブルに乗せて起動する。 今年買ったばかりで、スペックだって高いのに、今日ばかりはその起動時間にイライラした。 だが、なかなか次の呟きが来ない。 もしかすると、今、撮っているのかもしれない。 パソコンのほうでもSNSを起動して待機する、ラーメンはのびるし、店主の視線も痛いが、コレを逃すわけにはいかないんだ。 何度も更新ボタンを押す。 タイムラグがあったらまずい、運営に先を越されるわけにはいかない。
信じなくてもいいけど@earthquak
添付されていたのが動画だったので一瞬怯んだが、パソコンで自作のツールを起動して素早く保存する。 間に合った。 安堵しそれから、動画を再生する。 ひどい画像だった、奥歯を食い締めて、再生を止めたくなるのを耐えた。 大きな鏡がそこにしかなかったのだろう、浴室で、シャツをまくり上げ、晒した細い白い腹が横に裂け、その近辺にも無数の傷があった。
信じなくてもいいけど@earthquak
若い女性の涙混じりの声と共に、シャワーが出され、今度は湯気がダメだと、水に切り替え――このクソ寒い時期に、水で血を流す。 あふれる血に悪態を吐きながら、必死に、解析班に……俺に、情報を渡そうと。
信じなくてもいいけど@earthquak
一瞬だけ映った顔は涙でぐしゃぐしゃで、真っ青で。 受け取ったことだけ返信し、それから必死にパソコンを操作した。 動画だったから、一番わかりやすい場面で止めて。それから反転させて、いつも使っているテンプレートに重ねてマーキング、それからシステムに読み込ませる。 出てきた地域を、SNSに打ち込んでいく。 ああくそっ、面倒くさがらずに、自動で入力するようにしておけばよかった。 他の解析班も動いていて、同じように地域の特定をしている。 一通り出し切った、最速だったと思う。 既に動画は消された。 アイツにダイレクトメッセージをはじめて送る。大丈夫なんだろうか、ちゃんと怪我の処置はしただろうか。 ピロリン――アイツが新しく投稿した。
信じなくてもいいけど@earthquak
その言葉に一気に血の気が失せる。 傷が大きいほど、震度は大きい。腹を横断するそれは、未曾有の大惨事になることがわかった。 スマホを掴んで、実家に電話する。頼む、逃げてくれと、懇願した。 知り合いにも片っ端から連絡した、馬鹿にする人間もいた、説得する時間も惜しく電話を切ったが……。 他の客も、アイツをフォローしている人間がいたのだろう、青い顔で、同じように電話をかけていた。そうすると、どんどんと周りにも伝播する。 明日、大規模な地震が発生する。 一通り伝え、ぐったりして、つけっぱなしだったパソコンの画面に釘付けになる。
信じなくてもいいけど@earthquak
文字数いっぱいに書かれた言葉に、今もなお返信がつき、凄いスピードで拡散されている。 信じなくてもいいけど、というアカウント名はきっとやせ我慢で、いつだって信じて欲しかったのだろう。 俺だって思ってた、アンチの奴らが信じずにいるのを、歯がゆく思ったことも一度や二度じゃない。 信じろよ、何度も当たってるんだぞ、どうして「自演乙」とか「大きく出ましたねw」とか「垢バン確定おめでとう」「必死ww」「通報案件」どうして、そんなこと言えるんだよ――湧いてくる奴らを、なぐって回りたい衝動に駆られたのは一度や二度じゃない。 アイツに何度もダイレクトメッセージを入れるけど、一向に返事はない。
さすがに、救急車を呼んだよな? 不安を感じながら、パソコンをずらし、のびきったラーメンを引き寄せて啜る。 次はのびる前に食いたいな。 チャーシューを食べ、汁を啜る。 そして、ふと思いついて、先程の動画のデータを開いてみる。データに位置情報がついてないか確認したが、駄目だった。 だよな、俺がそういうのは気をつけろって言ったんだもんなぁ……。 ガッカリしていると、ダイレクトメッセージに返信が入ってきた!
信じなくてもいいけど@earthquak
性別がわかっても変わらない言葉づかいに、なんだか安堵する。
解析班
まだ二十分くらいしか経ってないのに、本当にもう終わったんだろうか? あれだけの裂傷を?
信じなくてもいいけど@earthquak
質問から逸らすような返事に確信する。こいつ病院行ってねぇ!
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
言葉通り、返信は遅く、俺は焦れる。
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
照れる要因ないだろうがっ!
解析班
信じなくてもいいけど@earthquak
不本意そうな返信に苛立つ。
信じなくてもいいけど@earthquak
次いで入ってきたメッセージに、入力する手が止まった。
信じなくてもいいけど@earthquak
入力できずにいる俺を尻目に、メッセージが来る。
信じなくてもいいけど@earthquak
終わりにしたくなくて何度もメッセージを入れたけど、返信が来ることはなかった。
解析班
握りしめたスマホをテーブルに置いて、パソコンからクラウドに保存してあるデータを引っ張り出す。 無粋だと思ってやってなかった強硬手段を使う。 はじめてやりとりしたときの画像のメタデータの位置情報を引っ張り出して、あとは過去の呟きからヒントを拾ってゆく。 急げ、急げ、急げっ!
未曾有の大災害は、その規模に反して人的被害は少なかった。 信じなくてもいいけど@earthquakeのフォロワーには、多くの政府の要人やら著名人やらがいたことから、素早い判断と行動により、整然と該当地域からの離脱が図られたのだ。 たった一日、それが命運を分けた。 だが、英雄的そのアカウントは、それから一切の呟きをすることはなかった。
「アカウント、もう消してもいいかな?」 病院のベッドで転がりながらスマホを弄っていた彼女が、その台詞を口にした。 目覚めてから毎日、一回は言っている。 持ってきた見舞いのプリンを、冷蔵庫に突っ込んでからベッド脇の丸椅子に座る。 「ほとぼり冷めるまで、弄らない方がいい」 「でもなぁ、追悼メッセージが毎日来るんだもんよー。生きてるっつーの」 唇を尖らせてから、拗ねるようにそっぽを向いた。 恥ずかしいのは理解できるが、そんなに恥ずかしいなら見なければいいのに、とも思う。 彼女の傷は皮膚一枚が裂けるもので、見た目よりも軽傷だったのが幸いし、発見したときは気絶していたものの、無事に一命を取り留めた。 「それに、もう、あの能力もなくなったし……」 少しだけ申し訳なさそうに言う彼女の言葉通り、地震を予知して生まれる傷はもうできなくなっていた。 あの大地震のあとに余震が何度もあったが、彼女に怪我は増えなかったから、間違いないだろう。 「お役御免ってことだろう。ゆっくり休めよ」 地震予知をするアカウントがあれだけ有名になれば、国から目をつけられていてもおかしくはないわけで。 あの後知ったはなしでは、ネット上で国から監視をされてはいたものの接触がなかったのは、ひとえに彼女の予知が本物で、本人に野心がなかったからだということだ。 ひとことで言うなら、泳がされていた。 因みに、彼女の影のファンを名乗る団体さんから見舞金として結構な額をいただいている。 有志の懐からとのことで、国庫に負担がないということを聞いてから、やっと彼女は受け取った。 そのお見舞い金でシャワー付きの個室に入院することができた彼女はとてもありがたがっていたが、彼女の功績を考えればそのくらい国で面倒見て当然だと俺は思う。 「ところで――いつまでここにいるの? 地元には帰らないの?」 ちょっとだけ言いにくそうに、彼女が聞いてくる。 「俺のアパートは震源地でな。家も全壊で大家も年だから、もう建て直さないらしいし。出張でこっちに来てたんだが、いい機会だから、このままこっちに転勤することになった」 出していた転勤願いが今日受理されたので、やっと伝えられる。 「マジですかー」 「マジですよー」 顔を見合わせる。 化粧っ気のない彼女の顔が、笑み崩れた。 「そうかー、雪国にようこそ! 北海道のうまいもの巡りしような!」 楽しそうに笑って提案される。 「退院したらまずは、味噌バターラーメンのチャーシュー増し増しに付き合ってほしいな。退院祝いに、奢るからさ」 「よろこんで!」 よく食べる彼女をご飯で釣るのは容易い。 明日はどんなお菓子を持ってこよう、それともグルメ雑誌を買ってこようか。 ネット上の相棒が人生の相棒になる日を目指して、明日も見舞いに来なくては。