睦
ここは…なんですか
研究員
この部屋は仮想現実を
研究員
正確に言うなら「反現実」を
研究員
うつしだすための部屋です
睦
それってつまり
睦
VRを使うってことですか?
研究員
ええ
研究員
現実とまったく反対の世界
研究員
それが反現実です
研究員
ただこの機能はまだ調整中でして
研究員
途中で現実と反現実の行き来ができなくなることもあり
研究員
じゅうぶんに使えるとは言えません
研究員
ですが反現実を体感するには
研究員
これ以上の機器はありません
研究員
あなたは最初の被験者となります
研究員
われわれのVR療法の技術を詰め込んだ
研究員
この帽子をかぶってください
研究員
帽子をかぶって取り外すまでの間に
研究員
簡単に現実と反現実が入れ替わる
研究員
さあ
研究員
これをどうぞ
睦
……
睦
これを頭に被るんですね
研究員
精密機器ですので落とさないように
研究員
準備ができたらゆっくりはめて
研究員
そのまま目を閉じてください
睦
…………
睦
…………
睦
ここは…
睦
去年卒業した大学の教室だ
睦
授業が終わったところか?
睦
でもみんな知らない人だ
睦
先生も…あの先生は一体誰だろう?
悠香
睦
睦
あっ!
睦
悠香!?
睦
なんでここに?
悠香
なんでって
悠香
わたしたち付き合ってることに
悠香
なったんでしょ?
悠香
さっさと来て!
睦
ど…
睦
どうなってるんだ
睦
悠香はそんなサバサバした性格じゃ
睦
ないはずなのに?
悠香
なに訳の分からんこと言ってるの
悠香
早く支度してよ
悠香
映画行くんじゃなかったの
睦
なんのことだろう…
睦
おれも訳がわからない
睦
いったん戻らなきゃ…
睦
…………
睦
うっ…
睦
頭がっ…
研究員
はじめて反現実に行ったら
研究員
きっと気分の悪さも感じることでしょう
研究員
でも安心してください
研究員
反現実であなたが経験するのは
研究員
あなたを高度な意識に導く段階なのです
研究員
すべては前進のための過程
研究員
ということです
睦
くっ…
睦
ようやく痛みが引いてきた
研究員
どうでした?
研究員
ほんとうの現実みたいでしょう
睦
たしかに
睦
悠香の姿は
睦
悠香そのものでした
睦
悠香の声
睦
たしかに悠香は悠香だった
睦
あの甘い匂いも…間違いなかった
研究員
あなたとあなたの恋人の話は
研究員
まだ始まったばかりです
研究員
さあ
研究員
ストーリーを進めましょう
睦
帽子を…
睦
…………
悠香
映画終わったね
睦
うん…
悠香
わたしこの映画嫌いじゃないけど
悠香
なーんか面白くなかった
睦
なんで?
悠香
なんか楽しくないんだよね
悠香
睦が
悠香
ちょっと気の利いたこととか
悠香
そういうのないわけ?
睦
あっ…だけど
睦
雰囲気壊しちゃ悪いし…
睦
悠香も映画に見入ってたし…
悠香
そういう言い訳するの?
悠香
まあいいや
悠香
もういちどチャンスあげる
睦
え…
睦
あの…
睦
思考が追いつかない…
睦
帽子…帽子を…
睦
…………
睦
くっ…
睦
なんか変な気分だ…
研究員
大丈夫ですか?
研究員
水でもお飲みになりますか
睦
そうじゃなくて
睦
ほんとに不思議なんです
睦
悠香は
睦
常におれに優しかった
睦
でも優しいが故に
睦
なんだか怖かった
睦
たんに束縛するのではなく
睦
おれのすべてをどこかに封じこめて
睦
まるでおれと同化するような
睦
おれが食べ尽くされてしまうような
睦
奇妙な錯覚があったんです
睦
だからおれは逃げようとして
睦
別れを切り出したんです
睦
でも別れたあとで気づいた
睦
悠香はとってもかわいいし
睦
重いのは少しぐらい目をつぶれば
睦
なんてことないんです
睦
だからもう一度と思ったけれど
睦
どうにもできないし
睦
あの過去には戻れそうになかった
睦
そんなときに
睦
反現実の実験のことを知って…
睦
それが
睦
理由です
研究員
…そうでしたか
研究員
どうです
研究員
真逆の過去に戻ったみたいでしょう
睦
ええ
睦
でもなんだか
睦
あれは悠香じゃない別の誰かなのかなと
睦
そんな気がして…
研究員
分かりますよ
研究員
あなたにはすぐ分かる
研究員
次の没入時に
研究員
あなたはリアルな真逆の悠香さんを
研究員
体感することになる
研究員
そのとき分かります
研究員
あなたが仮想の反現実で生きていけるかどうか
研究員
この反現実は
研究員
現実を意識するために重要なパーツなのです
研究員
ただ試験段階です
研究員
なにがあっても
研究員
絶対に帽子を壊さないでください
研究員
現実に戻れなくなるかもしれません
睦
…そうですか
研究員
でも
研究員
あなたには見てほしい
研究員
反現実の全てを
研究員
もう一度
研究員
行きましょう
睦
…
睦
ええ
睦
…………
睦
ここは…
睦
悠香の家?
悠香
睦
悠香
もう仕事行く時間でしょ
悠香
なにやってんの?
睦
え…
睦
おれと
睦
おれと悠香は同棲してる…?
悠香
は?
悠香
同棲?
睦
え
悠香
なにとぼけてるの
悠香
わたしたち結婚したんでしょ?
睦
え…
睦
どういうことだよ
悠香
しぶしぶだけど
悠香
結婚してやったわ
悠香
で
悠香
その耳栓みたいなの
悠香
ずっとつけてるの?
悠香
外したらどう?
睦
これは…
睦
これは反現実と現実とをつなぐ
睦
大事なポートだ
悠香
反現実?
悠香
まさか睦
悠香
わたしに黙ってそんなことして
悠香
浮気でもしてるの?
睦
いや…そんなつもりじゃ
悠香
離婚ね
睦
そんな…
睦
……でもそうか
睦
反現実は
睦
現実と真逆
睦
おれが悠香を振るのではなく
睦
悠香が俺を振るのか…
悠香
まったく
悠香
きみは生きる価値がない
睦
…おい
睦
それは包丁じゃないか
睦
まさか…!
睦
はやく!
睦
早く戻らなくては…!
睦
…………
睦
うわぁっ!
睦
…!
睦
戻れた…
睦
なんなんだよこの装置!
睦
反現実なんていらない!
睦
壊してやる!
ガチャン!
睦
……これで
睦
もうあんな目には合わなくて済む
悠香
睦くん
睦
え
睦
悠香?
睦
ここは…?
悠香
よかった
悠香
睦くんの目が覚めた
睦
おれは
悠香
なにも
悠香
なにも考えなくていいんだよ
悠香
睦くん…
睦
…
睦
…っ
睦
悠香…
悠香
目覚めのキス、だよ
悠香
辛かったね
悠香
反対のわたしに
悠香
振り回されて
悠香
苦しかったよね…
睦
…でも
睦
なんで
睦
身体が動かない?
悠香
それはね
悠香
わたしが睦くんをベッドに固定したの
睦
悠香…なんで
悠香
ふふふ
悠香
ぜんぶ真逆なんだよ
悠香
常に優しくなくて
悠香
常に束縛しなくて
悠香
常に同化しようとしない
悠香
その逆
悠香
睦くんはほんとうは
悠香
こういうわたしを待っていたんだよ
睦
や…
睦
やめろ
睦
なにをするつもりなんだ
悠香
睦くんの
悠香
ぜんぶが見たいな
悠香
これは麻酔じゃなくて
悠香
わたしをもっと感じることができる薬
悠香
これで
悠香
睦くんの痛みがもっと痛くなる
睦
なんで…
睦
なんでだよ!
悠香
睦くんのその肌
悠香
ぜんぶほしいの
睦
やめろ!
睦
やめろやめろやめろ!
睦
反現実に戻らせてくれ!!
悠香
それはできないよ
悠香
だって現実にもどる帽子
悠香
壊したでしょ?
睦
…!!
悠香
ようこそ
悠香
ほんとうの反現実へ
Fin. 最後までお読みくださり ありがとうございました この物語はフィクションです






