単語帳を抱きしめた。
_____サラサラの髪。長いまつ毛。
山川 のぞみ
見慣れても見飽きない柚月君の顔に
_____とてもよく似ていた。
待ってた。 孝太君の言う通り、柚月君が戻って来るかもしれないから、私は塾の前で待ってた。
でも私の元に来たのは、辛すぎる「現実」だけ。 私と柚月君を隔てる嫌いな言葉だけ。
宮原 聡志
宮原 聡志
山川 のぞみ
足が動かない。 柚月君似の男性___柚月君の実父は大袈裟に息を吐いた。その口の形さえ そっくりだ。
宮原 聡志
宮原 聡志
宮原 聡志
山川 のぞみ
宮原 聡志
山川 のぞみ
山川 のぞみ
足が震える。 結局私は負けた。だって待っていても来なかったんだから。
無力だ。私は無力だ。
西谷 春翔
山崎 孝太
山崎 孝太
西谷 春翔
西谷 春翔
山崎 孝太
元カレ先生との通話を切った。 __吉田の居場所は分かった
ここからなら10分弱だ。 スマホをポケットに納めて体の向きを変えた_______…
……その時、強烈な閃光が視界を染めた。
それが車のヘッドライトだと分かった時には、俺の前に1台の高級車が停まっていた。
宮原 聡志
山崎 孝太
運転席の窓が開き、柚月の実父が顔を覗かせた。 ____しかし俺の視界を独占していたのは__
山崎 孝太
俺は後部座席に駆け寄った。ほとんどタックルに近い形で窓ガラスに張り付く。
山崎 孝太
後部座席に座っている男の人__参観日とかで見た事あるから柚月の今のお父さん?が じろりとこちらを睨む。
その隣で 柚月は一瞬だけこっちを見て、俯いた。
宮原 聡志
山崎 孝太
俺は運転席に向かって声を張り上げた。 今の柚月には彼女さんが必要だ。絶対__
宮原 聡志
山崎 孝太
柚月の実父は柚月とよく似た顔で笑むと、窓枠に肘を置いて身を乗り出した。
宮原 聡志
山崎 孝太
宮原 聡志
山崎 孝太
牽制するかのようにアクセルが強く踏まれた。 瞬きした時には、柚月を乗せた車は夜の街を彩る光の1つになっていた。
山崎 孝太
___フラフラと、車が去った方向に足を踏み出した_____…
……瞬間 強い力で肩を掴まれた。
そして 思わず首を縦に振ってしまいそうな涼やかな声。
鳴沢 真由子
山崎 孝太
柚月のお母さんが立っていた。 肩に置かれた手と目線を放すと、やや早口で続きを口にした。
鳴沢 真由子
山崎 孝太
鳴沢 真由子
柚月のお母さんは僅かに眉を動かすと、踵を返した。 ____俺は咄嗟に
俺は咄嗟に、その背中に制止の言葉を投げた。
山崎 孝太
___柚月のお母さんと話すのはこれで2度目だ。
一度目は……愚かしくも感情をぶつけてしまった。 俺があんな事、言う資格は無いのに。
鳴沢 真由子
柚月のお母さんは立ち止まり、肩越しに振り返った。 俺の胸の内などお見通しなのか、その口元には自嘲気味の笑みが浮かんでいた。
鳴沢 真由子
山崎 孝太
鳴沢 真由子
鳴沢 真由子
鳴沢 真由子
山崎 孝太
山崎 孝太
鳴沢 真由子
柚月のお母さんは ひらりと手を振ると今度こそ踵を返して歩き出した。
山崎 孝太
柚月はお母さんに任せよう。 ___俺は吉田と
ケリをつける。 もう、負けない。
ガラスの割れる音がする。苛立たし気にテーブルを叩く音も。 ____また喧嘩してるんだ…。
いや喧嘩じゃない。一方的にお母さんがいじめられてる。 ___僕は布団を被って耳をふさいだ。
___静かになった。終わったのかな? そっと布団から頭を出した瞬間、部屋のドアが開いた。
……お母さんだ。 またお父さんに酷いこと言われたんだ、大丈夫かな。
お母さんが僕の顔を覗き込んでいる。 目を開けて「大丈夫?」って言ったら、元気になるかな。
3、2、1で目を開けよう。 3………
「あんたさえ、いなければ」
それは涙混じりの呪いの言葉。 僕に向けられた呪いの言葉。
「大丈夫?」も「ごめんなさい」も言えなかった。強く、強く目を瞑っていた。
___お母さんはお父さんに酷いことを言われたから泣いてるんじゃない。 ___お父さんは仕事で忙しいからイライラしてるんじゃない。
全部僕のせいなんだ。 僕は生まれて来たらいけない子なんだ。
存在してるだけで僕は…
宮原 聡志
宮原 聡志
鳴沢 叶夢
宮原 聡志
宮原 聡志
鳴沢 叶夢
生まれて来てごめんなさい。生きててごめんなさい。
ずっと、そう思ってた。
時々枕を涙で濡らすし、「生まれて来てごめんなさい」を強要されるとどんなに堪えてても涙が出る。
____空気を読まずに生まれた僕は、せめて期待に応えようと、着せ替え人形でいようと決めた。
それが僕に出来る贖罪だ。 でも………
のぞみさんの彼氏になってから初めてお泊まりした日、ベッドの中で、僕の髪に触れながら、のぞみさんは言ってくれた。
「柚月君がいてくれて良かった」
それは涙混じりの それは僕に向けられた 僕を肯定する言葉。
涙が止まらなかった。
そして涙と一緒に、自分は罪滅ぼしの着せ替え人形だと言う事を打ち明けた。 生まれて来たらいけない子だと。
「私はそうは思わないけどな。私は柚月君を必要としてるんだから
必要無い命なんて無いよ。 着せ替え人形でも無いと思う
柚月君は柚月君の人生を全うすればいいと思う」
………僕は、どうしたいか…? 僕は………
この人とずっと一緒にいたい。
僕を必要としてくれる人がいる。
僕は生まれて来たらいけない子じゃないと教えてくれた。
___僕の為と言いながら、自分の利益しか考えてない大人達の
僕の気持ちなんてお構い無しの大人達の
僕は着せ替え人形じゃない。
鳴沢 柚月
思っていたより大きな声が出た。
2人のお父さんが揃って僕を見た。 ___僕の話をしているのに、2人の視線は僕を向いていない。 声が震えた。
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
宮原 聡志
鳴沢 叶夢
鳴沢 叶夢
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 叶夢
お父さんはまだ、恍惚とした表情を浮かべたままだ。口の端を吊り上げたままだ。 一体何に浮かれてるんだろう。
___僕の中で、ついに何かが切れた。
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
店中の視線が集まる。 昔のお父さんが顔をひきつらせて腰を浮かした。
宮原 聡志
宥めるようにお父さんの手が伸びてくる。 僕はその手を はね除けると席を立った。
鳴沢 柚月
出口を目指して駆け出した。 どちらかの、制止の声が上がったけど振り返らなかった。
………のぞみさんに会いたい。 のぞみさんに会いたい。
鳴沢 真由子
お店の外に出ると、お母さんが腰に手を当てて立っていた。
鳴沢 真由子
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 真由子
鳴沢 柚月
鳴沢 真由子
お母さんは肩で大きく息を吐くと、舌打ちして駐車場の角に停めてある車を顎でしゃくった。
鳴沢 真由子
鳴沢 柚月
鳴沢 真由子
鳴沢 真由子
鳴沢 柚月
鳴沢 真由子
お母さんの最後の言葉は…………いつの間にか戸口に立っていた、昔のお父さんに向けられていた。
お父さんは肩を竦めると、吐息のような嘲笑のような息を吐き出した。
宮原 聡志
鳴沢 真由子
お母さんは僕を車に押し込むと、アクセルを強く踏んだ。
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
山川 のぞみ
山川 のぞみ
山川 のぞみ
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
鳴沢 柚月
山川 のぞみ
学校ではサンドバッグにされるし、家では大人達の都合に振り回されるけど
でも僕は幸せだ。可哀想な人間じゃない。
僕の居場所はここにあるんだから。
西谷 春翔
西谷 春翔
西谷 春翔
掴んでいた手を放してやると、信太郎くんは弾かれたように俺から距離を取った。 __粋がってもやはり子供だ。
その姿はまさしく昔の俺。 ___だから俺は微笑みかける。
西谷 春翔
吉田くんの取り巻き達の顔が一斉にひきつった。 先程までの攻撃的な姿勢はすっかり鳴りを潜め、チラチラと吉田くんを見やる。
___吉田くんがため息を吐いた。
吉田
「気をつけろよ」「何かあったら言えよ」
仲間想いの言葉が次々飛び出すが、彼らの顔に一瞬安堵の表情が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。 そして振り返りもせず高架下をあとにする。
吉田
吉田くんは取り巻き達が去った方向を眺めながら、小さく口を開いた。
吉田
吉田
西谷 春翔
吉田
西谷 春翔
吉田くんは太く長く息を吐くと、顔を上に向けた。
吉田
それは怒りのような それは呆れのような それは失望のような
吉田
____落胆。 吉田くんは
吉田
吉田 ひ** くんはずっと飢えている。欲している。
戦っている。 昔の俺のように。
ここからは俺の個人プレー。 飢えて戦い続けた昔の俺は1人の教師に救われた。
今度は俺が教師として
目の前の 飢えて戦い続ける少年を救うんだ。
コメント
6件
しばらく読めてなくてごめんなさい💦 ここらへんの話は孝太くんがイケメンすぎて… 澪さんが出てこないのは悲しいんですけど、柚月くんの行方も気になるので… しばらく澪さんが出てこなくても我慢します…笑 次の話も楽しみです!待ってます✨✨
コメントご無沙汰してます(^_^;) 久々に3日かけてシーズン1の一話から読み直しました(笑) 歳のせいで記憶力がアレなものでして(笑)ようやく全て思い出しました❗️元カレ先生がお化け屋敷の時よりめちゃくちゃイケメン先生になってたり、孝太君もかっこいいし、めっちゃ続きが楽しみです♪ 更新待ってます😊
柚月君は実父が自分を引き取ろうとしている事を知っていたんです。お母さんから聞いたんです。のぞみさんと一緒にいたいのに ままならない…柚月君は辛くてのぞみさんに電話して、土曜日の夜 一緒に帰る約束をしました。自分は1人じゃない、と改めて実感した柚月君は、実父に自分の口でこの街でのぞみさんと暮らしたい事を伝えるのだと決意しました。 そしてお母さんは運転免許持ってます。