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春が深まり、校舎の窓から吹き込む風が少し暖かくなった。
昼休みの教室では、紫雨がスマホの画面を見ながら笑っていた。
夏色紫雨
机の上には、ふざけたポーズをする橋本杏悟の写真。
彼は照れくさそうに笑って、紫雨の手からスマホを取った。
橋本杏悟
夏色紫雨
その明るいやりとりを、瑞葵は笑顔で見ていた。
でも心のどこかで、ちくりと痛むものがあった。
紫雨の笑い声が、さっきまでより少し遠くに感じる。
放課後、瑞葵は凛々花に呼び止められた。
千藤凛々花
濱井瑞葵
千藤凛々花
濱井瑞葵
そう言いながら、手の中のペンをぎゅっと握りしめた。
その頃、音楽室では紫雨と杏悟が話していた。
文化祭で披露する合唱の話だ。
橋本杏悟
夏色紫雨
橋本杏悟
紫雨は頷いて笑った。
その笑顔に、杏悟が少しだけ照れたように視線をそらす。
そんな表情を、紫雨は「かっこいい」と思ってしまった。
夜、帰り道。
街灯の下で紫雨はひとりつぶやく。
夏色紫雨
それが恋心だと、まだ気づいていない。
同じ頃、瑞葵は自分の部屋で包丁を握っていた。
晩ごはんを作る音が、静かな台所に響く。
料理が好きだからこそ、考え事をしている時も自然と手が動く。
濱井瑞葵
そう思った瞬間、胸の奥がぎゅっと締めつけられた。
包丁の音が止まり、瑞葵は小さく息を吐く。
濱井瑞葵
次の日。
紫雨は凛々花と一緒に屋上でお弁当を食べていた。
千藤凛々花
夏色紫雨
千藤凛々花
紫雨は一瞬、箸を止めた。
夏色紫雨
千藤凛々花
その言葉に紫雨は少しだけ考え込む。
けれど次の瞬間、風が吹いて彼女の髪を揺らした。
笑いながら髪を押さえたその姿は、やっぱり太陽みたいだった。
———誰かの恋が始まるとき、もう一つの恋は、静かに影になる。
紫雨は杏悟を見つめ、瑞葵は紫雨を見つめる。
気づかない想いが、すれ違いながら少しずつ形を変えていく。